23.封印されてる暴虐竜の暴走を、止めに行く
《キリエSide》
獣人国ネログーマから、拠点である奈落の森に帰ってきたわたし。
旧楽園の教会にて、わたしが朝の祈りを捧げているところに……。
可愛いお客さんがきた。
手のひらサイズの、モグラ……?
「ノームですね」
獣人姿のフェンリル、チャトゥラさんが、モグラを指さして言う。
ノーム?
「鉱山などに住み着く、土の精霊です」
まあ! 精霊……。
こんな可愛いモグラさんが……?
けど、精霊がわたしになんのようかしら?
『こんちゃー』
! 精霊の声が聞こえるわ……。
どうして……?
『おー、声が聞こえるー。すごーい、エレソンみたーい』
初代聖魔王エレソン様を知ってるの?
『うん。まぶだちー』
「エレソン様は精霊も従えておりました」
そうなのね。
しかし精霊とも言葉を交わすことができるなんて、エレソン様はすごい方だったのね。
「それを言うなら、キリエ様も。精霊との会話は、一般人はできませんので」
そうよね。
たしか王都にも精霊術士って人たちがいる。
彼らは精霊と会話することで、特別な力を行使する。
そのために長い年月修行や、精霊の言葉を身につけるのに勉強するって聞くわ。
わたしは特に修行したわけでもなく、急にノームさんの声が聞こえるようになったのだけど……。
「おそらくは、聖遺物を手に入れてたことで、聖魔王としての力が増したのでしょう」
聖遺物……。
ああ、こないだ獣人国ネログーマで、王女さまからもらった、祈祷書のことね。
「はい。本来の聖魔王の力を、聖遺物を手にれることで、取り戻していってるのでしょう。もっとも、これは転生体であるあなた様にしかできないことでしょうが」
む、難しいことはわからないけど……。
エレソン様の遺物を手に入れたことで、精霊さんと会話できるようになったってことなのね。
それで、ノームさん。わたしに何かようですか?
『【アニラ】がさー、うるさいの。なんとかして~』
「キリエ様、ノームはなんと言ってるのですか?」
あれ、ノームさんの声が聞こえないんです?
「はい。シンドゥーラと私は、上位の魔物。精霊を視認するところまではできますが、声が聞こえるのは、キリエ様だけです」
そうなのね……。え、っとノームさんは、アニラって魔物? ひと? がうるさいから、なんとかしてと。
「……なるほど、アニラがですか。やはり……」
チャトゥラさん、アニラさんを知ってるの?
「はい。北の山脈に封印されている、【暴虐竜アニラ】のことです」
ぼ、暴虐竜……。
なんだか、ぶっそうな名前ね。
「その名の通り、アニラは我ら聖十二支のなかで、最も凶暴で、初代聖魔王さまも手を焼いておりました」
聖十二支……。
たしか、エレソン様の側近で、名前を授けた12の魔物のことよね?
「そのとおりです。アニラは最も強い力を持つ竜なのですが、いかんせん暴れん坊で、手が付けられず……ゆえに、エレソン様はやむなく、山脈に封印することにしたのです」
まあ……じゃあ、アニラさんはチャトゥラさんたちの仲間なのに、封印されてしまってるのね。
かわいそうだわ……。
「仕方ありません。アニラは本当に厄介な存在なのです。外に出していたら、危険だとエレソン様ですらそう判断せざるを得ないほどでした」
でも……。
森の民ではあるのでしょう?
「それは……まあ」
かわいそうだわ。
暴れているのも、たぶん、ずっと閉じ込められてて、鬱憤がたまってるからかもね。
『ねーねー、アニラどうにかしてー。へるぷみー』
ノームさん、わかったわ。
わたしが行って、アニラさんとお話ししてみます。
『おー、てんきゅー。ぼくがあんないするー』
チャトゥラさんがハァ……とため息をついた。
「わかりました。では、私も同行しましょう。あと1匹くらい護衛が必要ですね」
『おいら行くー!』『いくー』『ぴゅいー!』
教会の窓から、くま吉くんが顔を覗かせる。あたまにはスライムのスラちゃんに、グリフォン子供のぐーちゃん。
あら、皆さんついてきてくれるの?
『もちろん! 姉ちゃんに何かあったら、おいらが守る!』『すらもー』『ぴゅい~!』
ふふふ、ありがとう。
では、みんなで行きましょうか。
しかしチャトゥラさんは、首を振る。
「それはなりません。アニラの封印されている洞窟は、高濃度の瘴気で満ちております」
まあ……瘴気が……。
『姉ちゃん、しょーきってなんだー?』
くま吉くんは知らないようだわ。
瘴気っていうのは、生物に有害なガスのことよ。
「高位の魔物は瘴気への耐性がありますが、並の魔物では身体に害を及ぼします」
『えー! おいらもいきたい! 姉ちゃん守りたい!』
大丈夫ですよ、チャトゥラさん。
わたしが浄化しますから。
「! そうか……エレソン様も浄化の力を使えました。ならば、キリエ様も……」
浄化。
毒や呪それを取り払う力のことだ。
教会に来たひとたちに、何度も浄化してあげていたことがある。
だから、多分大丈夫だと思う。
「わかりました。では、向かいましょう」
ややあって。
わたしはくま吉くんの背中に乗って、北の山脈へとやってきた。
拠点であるデッドエンドから、だいぶ北へあがったところに、急峻な山々が並んでいた。
その山の一つの、洞窟。
「この中にアニラが封印されております」
入り口からすでに、高濃度の瘴気が漏れ出ているわ。
それと……。
ずしーん……ずしーん……ずしーん……。
『なんかすごい揺れてるね』
北の山脈に近づくにつれて、地震がひどくなっていたけど、入り口にきてそれが顕著になった。
『アニラだよー。キレてるんだー』
ノームさんはわたしの肩に止まってる。
なるほど、アニラさんが八つ当たりしてるから、地震が起きてるのね。
「……これは予想以上に瘴気が濃いです」
チャトゥラさんが鼻をならし、顔をしかめる。
「私でも中には入れないほどの、濃度になっていました。おそらくアニラの鬱憤が、瘴気をより濃くしていたのでしょう。これでは誰もなかには入れないかと」
問題ないわ。
わたしは洞窟の前に立ち、手を組んで……祈る。
神様、どうかお力をお貸しください。
なかにいる、仲間の元へ連れてってくださいませ……。
そのときだ。
かっ……! とわたしの身体から光が発せられるのを、感じる。
「おお! あんなにも高濃度の瘴気が浄化されていきます!」
『姉ちゃんすげえ……! って、あれ!? 姉ちゃん!?』
どうしたのかしら?
くま吉くんが、焦った声を出してるわ……。
目を閉じて祈ってるから、わからないけども。
『姉ちゃんの身体が消えてく!』
「これは転移魔法!? まずい! キリエ様! お待ちください、キ……」
二人の声が聞こえなくなる。
どうしたのかしら……?
わたしは、目を開ける。
すると……。
『ウガァアアアアアアアアアアアアア! 出せぇええええええええええええ! おれさまをここから、出せぇええええええええええええええ!』
……ここは、洞窟のなかのよう。
薄暗い空間に、1匹の……。
『ぴゅ、ぴゅー! ど、どらごーん!』『でけーどらごーん』
あれ? スラちゃん、ぐーちゃん、いつの間に……。
『出せぇえええええええええ! エレソンぅうううううう! ここから出しやがれぇええええええええええええええ!』
ええと……。
このドラゴンさんが……?
『そーだよー』
あら、ノームさんまで。
わたしの頭にスラちゃん、かたにぐーちゃん、そして逆の肩にノームさんがいる。
ノームさんは、この巨大な竜を鼻で指す。
『こいつが、暴虐竜アニラ~』