21.獣人に神のご加護をさずける(※チート付与)
わたしキリエは、獣人国から奈落の森に、帰るところだった。
王都で露店やってた商人さんから、リンゴをご厚意でいただいたところだ。
ありがとうございました。
「いいってことよ。女王陛下を治してもらったんだから」
ああでも、たくさんもらってしまって申し訳ない……。
そうだわ、商人さん、あなたのためにお祈りさせてください。
「祈り?」
はい。どうかこのお方に……神のご加護がありますように……。
そのときだった。
「う、うぉおお!? なんだこりゃあああ!?」
突然、商人さんが叫びだしたのである。
ど、どうかしましたか?
「お、おれの目が……目がぁ!」
目?
確かに、目の色が先ほどと違うわ。
どうしたのかしら?
ええと、こういうときは、鑑定。
■翡翠の鑑定眼(A)
→上位鑑定眼の一つ。物の情報をかなり鑑定することができる。
! どうやら、商人さんの目は、鑑定眼のようです。
「な、なんだってえ!? ば、馬鹿な! 1000万人に一人のレアスキルだぞ!? どうしておれの目がそんなものに!? 今まで持ってなかったのに!」
そこへ、同行していた王女ミヌエットさんが、真剣な表情で述べる。
「もしかして……キリエ様のお力ではないでしょうか?」
「お嬢さんの!? どういうことですか、王女様!?」
「いにしえの聖魔王は、配下の魔物に力を付与したと伝承があります。キリエ様もまた、同じく聖魔王。その力が適用されたのでは?」
「な、なるほど! ありがとうございます! お嬢……いえ、キリエ様!」
ぺこぺこと、商人さんが頭を下げる。
でもわたしが付与したとは、どうにも思えないわ
きっと……商人さんの普段の行いがよかったから、神様がご加護を授けたのでしょう。
「いえ! たぶんキリエ様のおかげです! おれは少なくともそう思いました! あなた様に祈ってもらったおかげです! ありがとうございます!」
まあ、当人がそういうのだったら、否定はしない。
「これからはおれも、神に祈るようにします!」
それがいいでしょう。
神様を信じる人が増えることは、喜ばしいことだわ。
わたしはリンゴをもらった後に、その場を離れようとする。
「あ、あの! 聖女様!」
近くを通りかかっていた、母親らしき女性が、わたしに近づいてくる。
どうしましたか?
「実は先日生まれたばかりの息子は、生まれつき目が見えないらしいのです。どうか、祈ってあげていただけないでしょうか?」
お母さんの腕の中で、赤子がぼんやりと虚空を見つめていた。
それはお可哀そうに。
わかりました、わたしが神様にお祈りしましょう。
すっ、とわたしは赤ちゃんの額に触れる。
どうかこの子に、神のご加護があらんことを。
そのときだ。
「ありがとうございます、聖女様」
「え、えええええ!? あ、あたしの息子が、しゃべったぁああああああああ!?」
腕の中にいた赤ちゃんが、わたしを見て、はっきりとそう言ったのである。
目は見えていますか?
「はい、聖女様のおかげで、すっかり目が見えるようになりました。あなた様の祈りが奇跡を呼んでくださったのだと思います。感謝、申し上げます」
「この子めっちゃしゃべってる!? え!? え!? どうなってんだい!?」
「母上、私はキリエ様に祝福を与えられたものとして、ふさわしい人物になるべく、粉骨砕身、勉学に励もうと思います」
「なんかわからないけど難しい言葉までぇ!?」
目が見えるようになってよかったわ。
どうか、お母さんと仲良く暮らしてくださいね。
わたしは親子に頭を下げると、その場を後にする。
「す、すごいですキリエ様!」
どうしたのです、ミヌエットさん?
「キリエ様のおかげで、あの赤ん坊がしゃべれるようになっただけでなく、頭までよくしてしまうなんて! すごいです!」
何を言ってるのですか?
わたしはただ、神様のご加護があらんことをと、祈ってるだけですよ。
あの子が目が見えるようになったのも、しゃべれるようになったのも、神さまが加護を授けてくださったから。
かしこいのは、もともとあの子がかしこいだけです。
わたしは何もしていない。
ただ、祈っただけなのですから。
「いや! 絶対にキリエ様のおかげです! 本当に聖女様って、すごいんですね!」
親子の様子を、街の人たちが見ていたのか……。
どどどど! とたくさんの人たちが、わたしのもとへやってきた。
「お願いします聖女様!」「どうか、ぼくにも祈りを!」「こちらにもお祈りをお願いします!」
たくさんの街の人たちが、神様の救いを求めている。
こんなにも迷える人たちがいるのね……いいわ。
わたしは聖女として、祈りましょう!
この国と、この皆さんに、神のご加護が、ありますよう!
そのときだった。
「み、見ろ! 空に光が!」「虹だ!」「あんなに大きな虹が空にかかってるとこ、初めて見たわ!!!!」
どうやら神様は、この国の人たちに、祝福を授けることにしたようです。
きっと皆さんが、普段から良い行いをしていたからでしょう。
「す、すげえ! 折れてる腕が治った!?」「なんか魔法めっちゃ覚えた気がする!」「うぉお! 足が! なんかもうめちゃくちゃ速く走れるぅう!」
あちこちで、皆さんの喜ぶ声が聞こえるわ。
みんな神様に感謝をしてるのだろう。
「「「ありがとうございます、聖女キリエ様!」」」
うん? どうしてわたしに感謝を……?
ご加護を授けたのは、神様だというのに……。
たくさんの人たちが頭を下げたり、手を握って、何度も頭を下げてきたりする。
いやだわ、わたしに感謝されても困るのに……。
ミヌエット王女様が涙を流しながら、何度もうなずく。
「今日見たことは決して忘れません。母を助けてくださっただけでなく、国と国民たちを、幸せにしてくださったこと……! 末代まで、覚えておきます! 感謝の気持ちとともに!」
それがいいでしょう。
これからも、神様が助けてくださったのだと、幸せにしてくださったのだと、忘れないでくださいね。
「え?」
え?
「はい! わかりました。聖女様はとても謙虚なお方だったと、付け加えておきます!」
うん?
謙虚? わたしが……?
どうにも、話がかみ合わないようだけど……。
と、そのときだった。
「キリエ様ぁああああああああああああああああ!」
白髪の獣人が、どどどど! とすさまじい勢いで、こちらにかけてきたのである。
あれは、チャトゥラさん!
「キリエ様ぁ! 御無事で何よりでございますぅうう!」
うぉん、とチャトゥラさんが泣いてる。
大げさねえ。
「キリエ、何事もなくてよかったよ」
おや? くま子さん。
どうしたの、その姿?
「え、き、キリエ? どうしてあたいがくま子だってわかるんだい?」
? そんなの、わかりますよね? 話し方とか、雰囲気で。
「はぁ……なんつーか、やっぱ聖女になるおかたってのは、人とは違った感性を持ってるんだねえ。さすがだ」
なにか感心するようなことがあったろうか。
まあでも、お二人とも、迎えに来てくださってどうもありがとう。
「さ! 帰りましょう!」
そうですね。
わたしはくるっと振り返って、獣人国の皆さんに頭を下げる。
お世話になりました。
「「「こちらこそ、ありがとうございました!!!!」」」
こうして、いろいろあったけれども、わたしは獣人国のもとを去ったのだった。