20.聖女も進化してチートスキルゲット
《キリエSide》
わたし、キリエは、神さまのお力のおかげで、獣人国の女王様を治療することができた。
「ありがとうございます、キリエ様」
わたしは現在、王女ミヌエット様と一緒に、獣人国王都エヴァシマの街を歩いてる。
「お母様を助けてくださり、本当に感謝してます」
いえ女王メインクーン様の普段の行いが良いから、神さまが助けてくださったのでしょう。
わたしは特段何もしておりません。
「謙虚なお方なのですね。素晴らしいです! キリエ様!」
謙虚というより事実なのだけども……。
「心も清いお方ですね。高い能力をお持ちでも、おごり高ぶることもないなんて」
いやだから……まあいいわ。
直ぐに神さまを感じろと言われても、一般の方は難しいものね。
わたしが特別なことをしたわけじゃないのに、褒められてしまったわ。
申し訳ありません、神さま……。
あ、そうだ。
それとミヌエット様、この本、本当にもらっていいのですか?
わたしの手には、一冊の古びた本が握られている。
「ええ、その【聖魔王の祈祷書】は、あなた様が持ってるべき代物ですので」
昨晩、王城に泊まったわたしに、メインクーン様がやってきて、この祈祷書を渡してきたのだ。
どうやら代々伝わる宝であるらしいが、誰も読めないとのこと。
わたしの力から、何かを感じ取ったメインクーン様は、これを見せる決意をしたらしい。
その結果……。
この本には、初代聖魔王エレソン様が、ご祈祷の際に使われた本であることが判明したのだ。
エレソン様も、聖女だったのね、と判明した瞬間であった。
「本は、これを読めたあなた様に使われるために存在してるといっても過言ではありません。是非、こちらをお持ちになってください。お金を受け取ってもらえないので、せめて……」
なるほど、祈祷料ということか。
そんなもの不要なのに。
病に打ち勝てたのは、メインクーン様の心が善良で、普段からの行いが良かったから。
女王を治したのは神さまのご意志とお力なのだ。
お金をもらうわけにはいかない。
でも気が引けるというのなら……この祈祷書、ありがたく使わせていただきます。
「良かったです……! ところで……もう帰られてしまうのですね。もっと長居していればいいのに……」
そういうわけにもいきません。
急に居なくなってしまったので、おそらく森の民たちはみな、戸惑っていることでしょうし。
「うう……もっとおしゃべりしたいです……」
そうですね、では、またここへ来ます。
こんどはみんなに出かける旨を伝えて、きちんと外出します。
「ほんとですかっ? 約束ですよ!」
ふふ……すごい嬉しそうだわ。
また来ましょう。
と、そのときである。
「そこのお嬢さん! そう、そこの綺麗なお嬢さん!」
ミヌエット様のことだろうか?
「いえ、キリエ様のことですよ! キリエ様はとてもおきれいですから!」
わたしが? 綺麗?
ふふ、お世辞がお上手ですね。
「あ、いや……本当に綺麗ですよ? 貴族様かと一瞬思いましたもの」
お世辞だとしても本当にうれしいわ。
容姿を褒められたことってないから。
っと、それよりさっきわたしを呼び止めてきた人のところへ向かう。
どうやら商人さんのようだ。
露店を出している。
「聞いたぜ! お嬢さんが我らが女王陛下のご病気を、治してくださったんだってな!」
わたしがというより、神さまのおかげですが……まあ一応は。
「ありがとうお嬢さん! 本当に感謝してるぜ!」
いえ、神に仕えるものとして、当然の行いを……って、あれ?
「どうしたんだい、お嬢さん?」
あの……あなた、わたしの声が聞こえているのですか?
「? おうよ! って、そういやお嬢さん、口閉じたまんまだな。すげえ! 腹話術ってやつかい?」
……!
これは……。
「キリエ様の声は、キリエ様の力を受けるか、触れないと聞こえなかったはずです。ですが……聞こえるようになっている……」
きっと、神さまが新しい力を授けてくれたんだわ!
ああ、神さま、あなた様はわたしを見てくださってるのですね。
神の御名のもと、弱き民を助ける姿を、評価してくださったのですね!
ああ……ありがとうございます……。
「お嬢さん。ありがとな。こいつはほんのお礼だ! 受け取ってくれ!」
そういって、商人さんは箱にぎっしりと入ったリンゴを、わたしの前に置いてくれた。
こ、こんなにたくさん!
いただけませんよ!
「いいからいいから! 持ってっておくれよ! それくらい感謝してるんだ。我らが女王陛下を助けてくれたからな!」
「お母様は民にとても人気があるのですよ」
そうなんですね……。
せっかくの頂き物を、受け取らないのも逆に失礼だわ。
そうですね、いただきます。
でもどうしましょう。
こんなにたくさん、持って帰れるかしら……?
そのときだ。
祈祷書が輝くと、空中に浮かぶ。
「な、なんだ!? お嬢さんの本がう、浮いてるぅ!?」
祈祷書のページが勝手にめくられていき……。
やがてとまる。
そのページには、スライムのスラちゃんの絵が描かれていた。
再び、ページが輝くと……。
「リンゴが、消えてしまいましたわ!」
箱入りのリンゴが、いずこへと消えてしまった。
ど、どこへ……?
「もしかしてお嬢さん……アイテムボックス持ちなのかい?」
アイテムボックス……?
「特殊なスキルだ。異空間にものを収納する効果を持つ」
スキル。
この世界に生きてる人たちが、みな何かしらの特別な力を持っている。
それが、スキルだ。
なるほど……異空間にものを収納できるとなると、とても便利ですね。
「ああ。多分今のはアイテムボックスだと思うぜ。おれは持ってるやつみたことがあるんだ。その現象に近かった」
なるほど……どうやればしまったアイテムを出せるのかしら?
「念じるといいらしいぞ」
なるほど……むむむ!
いでよ!
ぼんっ、と何もない空間からリンゴの箱が飛び出てきた。
これがアイテムボックス……。
「お嬢さんすごいぞ! アイテムボックスってスキルは、超レアなスキルなんだ!」
そうなのですか?
「ああ。持ってるのは、500万人に1人って話だぜ?」
となると……確かにかなりレアな力のようだわ。
でも変ね。
わたし、アイテムボックスなんて持っていないのに……。
なんで急にアイテムボックスなんて使えるようになったのかしら?
と、わたしは気づく。
祈祷書の開かれたページに、こんなものが書かれていた。
■暴食王のスキル
→無限収納のアイテムボックス(SSS)【修得済み】
暴食王……?
その記述の上には、スラちゃんの絵が描かれていた。
まさか……。
ぺら……とわたしは別のページを開く。
そこには、樹木王さんの絵が描かれていた。
■樹木王のスキル
→神の鑑定眼(SSS)【修得済み】
あの……商人さん。
神の鑑定眼ってご存じですか?
「おお! 知ってるさ! 世界最高の鑑定眼だ!」
鑑定眼……?
■鑑定眼
→鑑定スキルを保有する特別な目のこと。
!
突然……わたしの目の前に、半透明な板が出現した!
「な、なんだって!? お嬢さんそれは、鑑定スキルだよ!」
え、あ……そうか。
わたしの心の声、ダダ漏れだったんだ……。
商人さんが驚いたのは、わたしのセリフを聞いたからなのね。
「すげえ……お嬢さん鑑定スキルまで持ってるなんて。アイテムボックス持ちと同様、レア中のレアスキルさ。二つ合わせて持ってる商人なんて、今この世に存在しないんじゃあないかい?」
そんな……凄いものなのね。
アイテムボックスと、鑑定スキル。
でも……どうして急に……?
そういえば、この本を得てから使えるようになったわ。
よし、鑑定スキルを使ってみよう。
■聖魔王の祈祷書(SSS+)
→聖魔王エレソンの所有していたアイテム。
配下の魔物の力を、本の中に封じ込めておき、好きなタイミングで使えるようになる。
! なるほど……。
つまり、この祈祷書の効果で、アイテムボックスも、鑑定スキルも使えるようになったのね。
……でも配下じゃないわ。
スラちゃんも樹木王さんも、お友達なのに……。
「すげえなお嬢さん! レアスキル二つ持ちなんて!」
「聖なる力に加えて、そんな凄い力までもっていらっしゃるなんて、さすがは聖女様です!」
……これはわたしが凄いと言うより、この本が凄いと思うのだけども。