18.女王暗殺の犯人捜して、解決
《キリエSide》
わたしは獣人国ネログーマへとやってきた。
王女ミヌエットさんのお母さんが、結晶病という病気にかかっていて、危篤であったからだ。
神さまの力で、見事に病気は治った。
「ありがとう、天導の聖女さま。ご挨拶遅れてすみませんわ」
ベッドの上から降りて、女王陛下が頭を下げる。
「私はネログーマ女王、メインクーンと申します」
メインクーン様はわたしの前で頭を下げてきた。
そんな、女王陛下が、わたしごときに頭を下げないでください、恐れ多いです。
「いいえ、あなたは命の恩人。礼を尽くすのは当然ですわ」
命の恩人……そんな、それは間違いです。
「間違い?」
はい。
命ながらえたのは、メインクーン様の普段の行いが良かったからです。
神さまは、こうおっしゃりたいのです。
あなた様はまだ、生きていないといけない……と。
ゆえに神さまは、あなたを治療してくださったのです。
「……そ、そうかしら」
ええ、間違いありません。
「どうも私には、あなたに治療してもらったような気がするのだけども……」
「お母様、キリエ様はちょっと、普通の人とは違うのです」
「な、なるほど……」
確かにわたしは聖女で、一般人とは違いますが。
「不思議ね。あなたの声が頭の中に直接響いてくるわ。すごい癒やしの力といい、まるで神さまみたい」
そんな!
恐れ多いです!
わたしなんて、ノアール神さまと比べたら塵芥同然です。
「そこまで自分を卑下しなくても……。ともあれ、助けてくれて本当にありがとう。きちんとお礼をしないと」
いいえ、その前にしないといけないことがあります。
「なにかしら?」
犯人捜しです。
「は、犯人っ? どういうことっ?」
わたしは、ミヌエット様が奈落の森に来たときのエピソードを語る。
ミヌエット様は、命を狙われていた。
しかも盗賊は、まるで王女が来ることをわかっているかのような振る舞いをしていた。
「なるほど……確かに不自然ね。城の中に、女王が死んだ方が、都合が良い連中がいる。そいつが裏で手を引いていた……と?」
陛下のおっしゃる通りです。
おそらく、直ぐ近くに敵は居ると思われます。
「そんな……」
女王陛下は絶句してる。
気持ちは理解できるわ。
部下の中に裏切り者がいるだなんて、信じたくないのだろう。
でも、ミヌエット様の命が狙われていたのは事実です。
ミヌエット様が死んでいたら、わたしの到着が遅れて、ネログーマ女王であるメインクーン様が死んでいた。
「そうね……。その事実があるかぎり、裏切り者がいる可能性は否定できない」
「それが事実なら大変です! またお母様の命を狙ってくるやもしれません!」
はい、なので、早急にあぶり出す必要があります。
「私にはお手上げなのだけど……何かいい策があるようね、聖女キリエ」
はい。
先ほど、ミヌエット様を助けたときに、このやり方を思いついたのです。
「どんな方法?」
わたしはざっと概要を説明する。
ふたりは驚いていたが、得心いったようにうなずく。
「試す価値はありそうね」
「お母様! すぐに城の人たちを集めましょう!」
ややあって。
メインクーン女王陛下は、謁見の間へと参上した。
謁見の間には、大臣をはじめとした、城のお偉い様たちが集まっている。
この中に犯人がいる、と思う。
「女王陛下ぁ! ご無事で何よりですぅ!」
メインクーン様の前に、ひとりの男が現れる。
豪華な服装に、少し意地の悪そうな顔つき。
彼は?
ミヌエット様が答えてくれる。
「……【ワルイッコ】財務大臣です。城の序列でいえば、上位に君臨する大臣です」
なるほど……財務大臣ですしね。
それなりに権力をお持ちのようだわ。
「しかしどうしたのですか陛下ぁ。急に我らを集めて。快気祝いのパーティの打ち合わせでしょうかぁ?」
快気祝いって。
のんきね、ワルイッコ大臣。
「いいえワルイッコ。……この中に、私の暗殺を企てる、裏切り者がいる。そのものを、今からあぶり出すわ」
ざわ……ざわ……と大勢の大臣、兵士たちがざわつきだす。
それはそうだ。
裏切り者。
そんなのが居るとしって、平常心で居られるほうがおかしい。
「へ、陛下……! な、何をおっしゃります。暗殺? 裏切り者? そんなものがいるわけが……」
「いいえ、ワルイッコ。いるわ。現に、聖女を呼びに行ったミヌエットが、暗殺されそうになったのよ」
「ほ、ほおぉ……」
ん?
ワルイッコ大臣のやつ、わたしのことを凝視してるぞ。
にぃ……と邪悪に笑うと、彼はわたしを指さし、高らかに言う。
「ならば答えは単純! そこの女が犯人でしょう!」
……どうしてそうなるのかしら。
「そこの女! 人間だな! どうやってこの国に来た! きちんと入国許可証は持ってるんだろうなぁ?」
う……そんなものは持ってない。
神さまの力で、飛んできたのだから。
「ないようだなぁ。ほーーーら見なさい。陛下ぁ、そいつが犯人ですよぉ」
「……ワルイッコ。少し、黙りなさい。今から犯人を、聖女様が言い当ててくださいます」
「はぁん? そのメスガキが犯人でしょ?」
メインクーン様がわたしをみて、うなずく。
どうやらわたしのやり方を信じてくれるようだ。
犯人じゃないって、確信を持ってくれている。
うれしい。
そんな優しくて、善なる王を殺そうとする不届きものめ……。
神に代わって、わたしが裁きをくだすわ。
わたしは右手を掲げる。
神さま……どうかお力を。
カッ……! と聖なる光が、謁見の間に広がる。
「なんだ、光……? こけおどしかあ……?」
ワルイッコが言う。
さて、これで準備は整ったわ。
こほん……。
みなさん、聞こえますか……?
「「「「「!?」」」」」
集まっているひとたちの、大半が、驚いた顔になる。
ワルイッコは、普段通りだ。
……うん、もう犯人わかっちゃった。
でもまあいちおう。
皆さん、わたしはあなたたちの心に、語りかけています。
自分が犯人ではないというかたは、挙手を……お願いします。
バッ……!!!!!!!!!!
「な、なんだ!? なんだおまえたち!? いきなり手をあげて!?」
「どうやら……犯人はあなたのようね、ワルイッコ」
メインクーン様が、ワルイッコ大臣をにらみつける。
すると騎士がすぐさま、ワルイッコ大臣を捕縛した。
「な、な!? 何を根拠に!?」
ミヌエット王女様が、前に出て説明してくれる。
「聖女様の力を受けたかたは、聖女様の心の声が聞こえるようになるのです」
そう……さっきの光は、神さまの光。
あれをあびると、テレパシーが通じるようになる。
……ただし、例外が存在する。
「聖女様の力は、悪人には決して効かないのです! わたくしは見てきました。聖女様の力を受けても、盗賊達は……キリエ様の声が届かなかった!」
ここへ来る前の出来事を思い出して欲しい。
わたしはミヌエット様と護衛の皆様を治療した。
その際に、彼女たちと心を通わせることができるようになった。
でも、悪人である灰色の狼の盗賊達とは、ついぞ、話せなかった。
そのとき、わたしは確信を得たのだ。
神の奇跡を享受できるものは、善なる存在だけ。
悪なる存在は、わたしの声が聞こえない。
ならば、この場に集まっている人たちの中で、わたしの声が届かないものが……悪人。
すなわち。
「ワルイッコ、あなたが犯人よ」
「……く、くそ! こうなったらやけだぁ!」
ワルイッコは悪あがきをするつもりなのか、騎士達の捕縛を振り切って、メインクーン様のもとへかけてくる。
その手にはナイフが握られていた。
「死ねぇえええええええええ!」
わたしはワルイッコ大臣の前に、立ち塞がる。
「どけ小娘ぇ! ふげげええええええええええええええええええええええ!」
ナイフがわたしの体に触れた瞬間……。
ワルイッコは、吹っ飛んでいった。
天井に激突すると……ワンバンして、落下してきた。
「な、なんで……?」
神の結界です。
あなたの邪悪なる意思から、女王陛下をお守りしてくださったのです!
「ちく……しょお……」
がくん、とワルイッコ大臣が気絶する。
ふう……これにて一件落着だわ。
「キリエ様……!」
ミヌエット様がわたしに抱きついてくる。
泣きながら、何度も「ありがとう!」と感謝してくる。
メインクーン様もわたしにお礼を言ってくる。
「二度も命を助けてくれて、どうもありがとう。あなたは、この国の救世主ね」
何を言ってるのです。
これは、すべて神さまのお力です。
「か、神……?」
ええ、わたしはただ、神の代行者に過ぎません。
ああ、神さま、今日も世界を平和にするのに、力を貸してくださり、どうもありがとうございます……。
だが親子はぽかんとしていたのだった。
解せないわ。