175.いつも通り
わたしは迷宮内にとらわれていた人たち、および死亡したはずのかぐやさまを、蘇生させることに成功した。
『姉ちゃん、これからどうするの?』
くま吉くんが尋ねてくる。
「とりあえず、かぐやさまを含めた、この場に居る人たちを外に送り届けてあげないとね」
わたしがこのダンジョン、封神の塔へとやってきた理由は二つ。
1つはかぐや様の救出。これはミッションコンプリート。
もう一つは、このダンジョンにいるという、新しい主に説法すること。
『じゃあ来た道を戻る感じなの?』
「それは難しいですぜ」
わんこさんがわたしに言う。
「こんな大人数でダンジョンを練り歩くのは危険だと思いやす」
「そうね、わたしの力で、けが人は治療できるけど、痛い思いはさせたくないわ」
となると、歩いて戻る以外の手段で、外に連れ出さないといけない。
……歩いて戻る以外。たとえば、転移。
「…………」
わたしは今まで、何度も転移を行ってきた。
ノアール様が、ではなく、わたしが、である。
そう……わたしには、別の場所へと転移する力があるのだ。
なら……。
「皆さん、近づいてください。これから皆さんを、外に送り届けます」
皆さんが首をかしげる。
そして戸惑っているのが伝わってきた。そうよね、急に現れた、変な女の命令に従うのは嫌よね。
「あのお嬢さんの言うことを、聞いて欲しいのじゃ」
かぐやさまがそう言うと、皆さんが従ってくれる。
どうやら皆さんはかぐやさまと、何か深いつながりがあるようだわ。
「ありがとう、がぐやさま」
「よい。それと、様はよしておくれ。かぐやで良い」
「じゃあ、かぐやさん。ありがとう」
さて。
皆さんに集まってもらった。
わたしは手を組んで、そして力を込める。
今までは目を閉じて祈っていた。でも、今は違う。
目を開き、今カラすることをきちんと、見る。
ノアール様に責任丸投げするんじゃなくて、わたしは自分の責任で、自分の意志で、力を使うのだ。
「転移!」
瞬間、わたしの背中のあたりで熱さを感じた。
大きな2対の翼がひろがって、皆さんを包みこむ。
そして光り輝くと……。
次に目を開けたとき、わたしたちは封神の塔の外にいた!
「せ、成功だわ!」
やった、ちゃんと転移を自覚的に使うことができたよっ!
「みんな、見てくれたっ?」
『『『うん』』』
あ、あれ?
皆驚いてない……平然としてる。あ、あれぇ?
「え、わたし……転移魔法使ったんですけど?」
『いつも使ってるよ?』『ぴゅい! いつものこと』『おどろきないねー』
そ、そっか……うん。そういえばそうだったわね……。
一人で舞い上がってしまって……は、恥ずかしい……。




