16.獣人国へ行き、女王を助ける
《キリエSide》
わたし、キリエと仲間達が暮らす森に、ミヌエットさんという獣人の女の子がやってきた。
場所は、森の近くにある廃村。
ミヌエットさんは開口一番に、頭を下げて、こう言ってきた。
「お願いします、キリエ神様! どうか母を……助けてください!」
う、ううん……。
わたし神じゃあ無いんだけども。
ただの森に住む聖女なんですけども。
でも……まあ今はいいわ。
お母さんを、助けたい?
何があったの?
「実は母は、結晶病にかかっているのです」
結晶病……。
たしか、体が徐々に結晶になって、やがて窒息して死んでしまうという。
「ご存じなのですかっ?」
はい。治したことがありますので。
「本当ですか!?!?」
ミヌエットさんが体を乗り出して、わたしに問うてくる。
本当です。
「なんという幸運……う、うう~~~~~~~~~~~~~~~」
嬉しいのか、わんわんと泣き出すミヌエットさん。
『ねーねー、チャトゥラさまぁ。この姉ちゃん、なーんで泣いてるの?』
くま吉君が、フェンリルのチャトゥラさんに尋ねる。
彼はフェンリル姿のまま説明する。
『一般に、結晶病は不治の病とされているからです』
『ふじ?』
『治らない死の病ということです』
『ほえー……。あれでも、姉ちゃんは治せるって』
『それはキリエ様が特別だからです。さすがです』
いや、いや。
そんなことはない。
結晶病は、聖女なら……というか神さまの力があれば、誰でも治せるわ。
まあそんなのどうでもよくって。
今すぐ、行きましょう。
今どんな状態ですか?
「母は胸のあたりまで結晶が進んでしまっていて……」
! それはまずいわ!
「ど、どうしてですか?」
結晶病は胸のあたりを過ぎると、加速度的に進行スピードが上がるの!
国を出たのはいつ!?
「三日前……」
……なんてことだ。
ならもう、全身が結晶しかけててもおかしくない。
「そんな……もう……おしまいです……」
彼女の国からここまで、馬車で三日かかったそうだ。
馬車でちんたらいっていたら、確実に死ぬ。
「せっかく……治せる人が見付かったのに……」
諦めないで!
「キリエ様……?」
祈りましょう、一緒に。
「い、祈る……?」
そう、神さまに祈るの。
今すぐに、母の元へ連れて行ってほしいと!
「そんなことして……何の意味が……?」
あるわ。
誠心誠意祈れば、必ず、神さまは応えてくれる。
奇跡を起こしてくれる!
だから……祈って!
「…………」
ミヌエットさんは戸惑っていた。
でも……最終的に、わたしの言葉を信じてくれるようだ。
ぎゅっ、と手を組んで、祈る。
わたしも同じく、目を閉じて祈る。
『! 姉ちゃんの体が光り出した!』
『私たちの前から消えたときと同じ! これは……転移の魔法!』
かあ……! と光を……ノアール神様の力を感じるわ!
『ぴゅーい! おねえちゃーん!』
『いけない、キリエ様!』
ぐらり……と酩酊感が襲ってくる。
だがやがて……。
「だ、誰だ貴様ぁ……!?」
ふと、目を開ける。
そこは見たことない場所。
お城……?
とても豪華な寝所のようだった。
「ここは……ネログーマの王城!?」
王城……王様の住むお城?
「ミヌエット様!!!! ご無事で!?」
獣人の騎士さんが、ミヌエットさんに近づいてくる。
とても心配していたのか、泣きそうだった。
「居なくなって驚いたんですよ!? しかも急に現れるし!」
「い、今はほっといて。それより、お母様は……!?」
「たった今……息を……引き取りました……」
騎士さんがうつむいて言う。
ミヌエットさんが、その場に膝をつく。
「そんな……お母様……遅かった……」
いいえ、まだよ!
わたしは、寝所の奥を見やる。
ベッドの上には、大きな結晶の塊があった。
多分ミヌエットさんのお母さんだ。
わたしは近づいて、結晶に触れる。
「その手で触れるな!」
「まって! あの人に……全てを任せます」
ありがとう、ミヌエットさん。
わたしは神さまに祈る。
どうか、ミヌエットさんのお母さんを、助けてあげてください、神さま!
そのときだ。
ぽわ……と体が温かくなる。
神さまの光に包まれる。
「! キリエ様の体から、光が……!」
やがて光が収まる。
わたしが目を開けると、そこには……。
「う、うう……ここは……?」
獣人の女性が、ゆっくりと目を覚ますところだった。
どことなく、ミヌエットさんに似てる……。
よかったわ、助かったみたい。
「お母様! ああ! お母様ぁあああああああああああああ!」
「ミヌエット!」
彼女がお母さんに抱きついて、わんわんと涙を流す。
良かったわ……治ったみたいで。
「わたくしは、どうして……?」
「キリエ様が助けてくださったの!」
「この子が……?」
いいえ、わたしは何もしておりません。
神さまが、あなたに生きろと、おっしゃったのです。
わたしは神の言葉をこうして、代弁しただけに過ぎません。
「! その格好……天導の聖女さまね。ありがとう……ネログーマ女王として、お礼を言いますわ」
いえいえ……。
って、あれ?
じょ、女王……?
え、それじゃ……ミヌエットさんって……。
王女様だったの!?
わたしってば、なんて失礼なことを……。
「お気になさらず、キリエ様」
ミヌエットさんが、わたしに深々と頭を下げる。
「お母様を助けてくださり、本当に、ありがとうございました!」
え、ええっと……不敬罪で逮捕とか……されないのかしら。
ま、まあ……何はともあれ、お母さんが無事で、良かった。




