14.食料問題も神の力で解決
森の民たちに、ルールを課したあと。
魔物さんのひとり、くま子さんから質問があがる。
『ルール3でみんな仲良くって言うけどね、実際んとこ難しいと思うよ』
それはどうして?
『この奈落の森には恵み……つまり木の実や野菜などが圧倒的に足りてない。また、川もあるけど濁ってて水が飲める場所は限られてるし、魚は獲れない。子供を持つ親としては、どうしても息子娘に腹いっぱい食べてほしいからさ、エサの取り合いになっちまうんだよ』
うんうん、とくま子さんをはじめとした、お母さん魔物たちがうなずく。
そのご意見はもっともだわ。
でも安心して。
わたしたちには、神様、ノアール様がいらっしゃるのですから。
『ちょいちょい出てくる、その神様ってだれなんだい?』
大昔、この星に降り立った救世主にして、闇の賢者ノアール様。
『人なのかい?』
ええ。
ですが彼の正体は、創造の神。
あらゆることを奇跡の力で解決し、足りないものを奇跡でだしたといいます。
『へえ、神様が人の姿を借りて、地上に降りてきたってことなのかい?』
その通りです。
ノアール様は没後、天に昇られました。その際に作られたのが、天導教会。
われら天導の聖女たちは、ノアール神様に祈ることで、彼にお力を借りているのです。
創造の神たるあのお方がいれば、この森の問題も、たちどころに解決できるでしょう。
『つってもねえ……祈っても腹が満たされるわけじゃあるまいし』
いいえ、満たされるわ。
それを証明してみせましょう。
ということで、わたしたちは場所を変える。
樹木王さんところから、少し離れた場所に、池がある。
……池というより、沼ねこれは。
どろどろのヘドロがたまった、とても不浄な池だわ。
こんなんじゃ森の恵みを享受できないでしょう。
……ノアール神さま、どうか、この池に再び、恵みをもたらしてください。
その瞬間、神の力を近くで感じる。
『すげえよ母ちゃん! 光ってる! ぴかーって!』
『光の当たってる部分が、きれいに浄化されていくよぉ!』
わたしが目を開くと、そこには、とても美しい池が広がっていた。
『『『す、すっごぉおおおい!』』』
魔物さんたちが驚いてる。ふふふ、そうでしょう、神様はすごいお方なのです。
『信じられないよ! あんなどろっどろの汚い沼が、こんなにきれいになるなんて!』
『しかも母ちゃん! お魚さんがいっぱいだ! 獲り放題だよぅ!』
くま吉くんたちが嬉しそうに、じゃばじゃばと池の中に入っていく。
ふふ、良かった。
「さすがはキリエ様。浄化のお力も使えるのですね」
フェンリルのチャトゥラさんが、獣人姿でそう言う。
ええ、これくらいの浄化くらいなら。
「素晴らしい……」
そうでしょう? ノアール様は素晴らしいお方なのです。
ああ、それにしてもありがとうございます、神様。
魔物にも食べ物をお恵みくださって。
感謝いたします。
『ぴゅい~! たいへんたいへーん!』
グリフォンのぐーちゃんが、わたしの頭の上に乗っかってくる。
シンドゥーラさんの息子さんだ。どうしたのかしら?
『あっちに変な果物!』
変な果物?
わたしはぐーちゃんを頭に乗っけた状態で、言われたところへ向かう。
池からほど近い場所、木の上に……黄色い果実がなっていた。
「これは……バナナですね」
なんと、バナナ!
たしか海をまたいだ南国、フォティアトゥヤァにしか生えないという、甘くておいしい果実じゃないの!
こんなところに生えてるなんて……。
『ぴゅるる~? どうやって食べるの~?』
ぐーちゃん、これはですね……。
ひと房ちぎって、皮をむく。
頭の上にもっていくと、ぐーちゃんが恐る恐るつつく。
『ぴゅい~! あまくておいし~い!』
がつがつがつ、とぐーちゃんが勢いよくつついていく。
ふふふ。焦らなくても、まだまだたんまりあるわ。
魔物さんたちが協力して、バナナを収穫する。
しかも、ものすごい大量にバナナが生えているわ。
ねえチャトゥラさん、奈落の森ってこれが生えるの?
「いいえ。ここ奈落の森は魔素がこく、また背の高い木々が多いため、果実は限られた場所しか取れません。そのうえ、このように熟して栄養豊富な果実など、生えないのです」
ということは……ああ、なんということでしょう。
神様は果実まで用意してくださったようだわ。
ありがとうございます……。
『キリエ様! たーいへんだー!』
今度はレッドキャップさんたちが慌てて近づいてきたわ。
どうしたの?
『変な果実がなってるんだ!』
バナナではなく?
『ああ! ちょいと来てくれ!!!』
これ以上、神様はわたしたちに何をお恵みくださったのだろうか。
なんだかここへ来てから、すごく気前が良くなった気がするわ。
ほどなくして、わたしたちは奇妙な木の前にいた。
『なんだいこの木の実……?』
背の高い木だ。
昔絵で見たことがある、ヤシの木ってやつだろうか。
ぐーちゃん、あの木の実とってこれます?
『ぴゅい~! おまかせ!』
ぐーちゃんがぱたぱたと飛んで、ヤシの実をひとつ、つついて落とす。
くま吉くんがそれをキャッチして、首をかしげる。
『姉ちゃん、これなんか……すんげえいい匂いするよ!』
いい匂い?
おかしいわ、ヤシの実って中に液体が入ってるはず……。
匂いなんて……。
「! キリエ様。この木の実のなかから、香辛料のにおいがします!」
ちゃ、チャトゥラさん?
ご冗談を。
香辛料?
ヤシの実なのに?
「くま吉、この木の実を切りなさい」
『合点承知! おらぁ!』
くま吉くんが爪でヤシの実をひっかく。
すると、ぱっかんとふたが開いて……。
な、なんですかこれ……?
中には、か、カレーライスが入ってました。
し、信じられない……。
フォティアトゥヤァの郷土料理、カレーライスですよこれ!
『姉ちゃん、なぁにそのかりーって?』
カレーライスよ。
とっても辛くておいしいの……。
いや、いやいや、さすがにおかしいわ。
なんでヤシの実のなかにカレーライスが入ってるの?
『うはー! ほんとだちょーうめーい!』
くま吉くんがヤシの実に顔を突っ込んで、ふがふがとカレーを食べる。
『ぴゅい~! たべたーい!』『すらもー』
わあわあ、とみんながくま吉くんのカレーを食べたがってる。
『ぐーちゃん、木の実じゃんじゃんおとして! おいらがふたをぱっかーんするから!』
『ぴゅ! がってん!』『すらもやるー』
スラちゃんは水の刃を飛ばして、ヤシの実を落とす。
みんなが協力してヤシの実をぱかんと割るのだが……。
『こっちには白い液体が!』『うっそ、焼いた肉が入ってるよ!?』『ぷるるんってしてるこれなぁに?』
お、おかしいわ……。
なんか、木の実の中に、料理が普通に入ってるんですもの。
こんな木の実初めて……いったいどうなってるの?
「さすがキリエ様。このような美食を作り出してしまうなんて」
『すごいですわ、あなた様がいれば、この森の食糧問題は一気に解決します!』
……うん。
気にしないことにしよう。
理屈はわからないけども、確かなことはひとつ。
ノアール神様が、この不思議な木の実を施してくださったということ。
ありがとうございます、神様。
さぁ、みなさん。
神様にお礼を言いながら、いただきましょう。
『『『はい! ありがとうございます、キリエ様!』』』
うんうん……うん?
いや、わたしじゃなくて、神様。
これはノアール神様が施してくださったのです。
神様に感謝を……。
『やっぱ姉ちゃんはすげえや!』『おみずもごはんもたっくさん!』『これでけんかしなくてすむー』
……まあ、いいか。
聖職者でもない子らに、いきなり神様を感じろと言われても無理な話。
ならば、わたしは彼らの代わりに、神様に祈ろう。
ありがとうございます、と。