134.上級天使・ミカエルとガブリエル
キリエの召喚した天使が、仇敵、逢魔の拠点を一撃粉砕した。
……その様子を、少し離れた上空から見つめる人影があった。
「おー! すげーです! あの神候補、やるでーす!」
召喚天使を見つめるのは、美少女とも美少年とも見れるような、人物。
赤く長い髪、中世的な顔つき。
頭の上には天使の輪、背中からは2対の白い翼が生えてる。
キリエの天使に近い見た目をしてるが、こちらのほうがより強い力を孕んでるように見える。
「まさか山一つ吹っ飛ばすなんてすげえです! あにうえみたいですー!」
きゃっきゃ、と赤髪の天使がうれしそうに手をたたく。
「下級天使【程度】を召喚できるくらいには、神格が上がったってことですねぇ」
神格。つまり、神としての格。
神としての強さは、その神を信じるものの数、そして強さに依存される。
より多くの信者を集めること、より強い祈りを集めること、神格はあがり、強くなっていく。
「おそらくは、ヴァジュラ、マコラを配下に加え、さらに今回の件でヴァジュラたちを救ったことで、信者どもからより強く信頼されるようになった。その結果、下級天使召喚を身に着けたんですねえ。うんうん、どんどんと神の道を上がっていってるです。神候補の監視担当として、鼻が高いです」
うんうん、と赤髪の天使がうなずいてる。
そこへ……。
「ミカエル」
赤髪の天使とは、別の天使が現れる。
青髪で、どちらかというと青年っぽい見た目をしていた。
「おー、ガブリエルです。何か用です?」
「……ミカエル。おまえの仕業だろ? 神眼もちの白澤と、キリエとを接触させたのは」
赤髪天使……ミカエルは「はて?」と首をかしげる。
「何言ってやがるです。言いがかりもいいとこです。監視担当は、神候補に直接干渉してはならないです。ルールお忘れです?」
「確か直接干渉はできない。だが、白澤に、神眼が見せた未来、という形で、キリエ・イノリが奈落の森にいるという情報を流したら、どうだ?」
なるほど、あくまで白澤ヴァジュラが、自分の能力を使って、キリエを知ったというふうに誘導したのであれば、直接干渉にはならない……。
「さあ、どうですかね?」
「おまえ……どんどんあの堕天使に似てきてるぞ……」
「旧あにうえと一緒にすんなやです」
んべ、とミカエルは舌を突き出すと、ばさりと翼を広げる。
「ガブリエル、おめーの担当する神候補、消えたです?」
青髪天使ガブリエルは、ふるふると首を横に振った。
「ですよねー。神候補が、下級天使ごときの力で、死ぬわけねーです」
「当たり前だ。だが……今回のことで、私の神候補はキリエ・イノリを完全に敵と認識したようだ。戦いは激化するだろう。下手したら、神候補同士の戦いになるやもしれん」
山一つ吹き飛ばす力を持つ、キリエと同等の力を持った神候補。
ふたりが激突すれば、地上が大変なことになるのは、目に見えてる。
だがミカエルはけらけらと楽しそうに笑う。
「大丈夫です。大地が壊れれば壊れるほど、うちの神候補の出番が増えて、神格が上がるです。望むところです」
「……おまえ、まさかそこまで考えて」
「だから、そういう腹芸は苦手です。たまたまです」
ばさばさ、とミカエルは翼をうごかし、天へと上っていった。
残された天使、ガブリエルは、倒れ伏すキリエ・イノリを見ながら言う。
「あれが、今回最も神に近い、神候補の一人か。……だが、所詮はまだ目覚めたばかりのひよっこ」
ふん、と鼻を鳴らすと、ガブリエルは言う。
「私の神候補……逢魔には絶対に勝てん。絶対にな」




