133.それはまるで…
《ヴァジュラSide》
ヴァジュラはキリエに、エレソンの死の真相を話した。
大好きなキリエの仲間となる以上、隠し事はしたくなかった。だから話した。それ以上の意図はなかった。
……しかし、こんな事態になるとは、想定の範囲外だった。
「キリエ! 何をしてるのだ、キリエぇ!」
キリエの目から光が消え、まるで人形のようになってしまった。
その背中からは3対の翼。
彼女を中心として魔法陣が展開されてる。
それは遥か上空へと浮上し、さらなる巨大な魔法陣へと代わった。
そこから出てきたのは、一度だけ見たことのある存在……。
「天使……だと……!?」
エレソンが生きていた時代よりも、遥かいにしえの時代。
世界がまだ混沌としていた、暗黒期。
あまりに地上がどうしようもなく混沌としたとき、天よりそれは使わされた。
「まさか……ありえない。天使を顕現させるだって……!? 人間が!?」
天使とは文字通り、天の使い。
人間ごときが召喚できるものではないのだ。
それを、キリエがやってのけた。
すごいという気持ちを通りとして、恐ろしさすら覚えた。
「キリエ……! 目を覚ますんだ!」
魔法陣からでてきたるは、天使。
それは超巨大な人間の女の姿をしてた。
ただし、顔はなく、のっぺりとしており、石膏像のようだ。
背中からは巨大な翼が生え、その頭には輪っかがあった。
「――鉄槌を」
キリエが天使に向かってそう命じる。
天使はどこかに消える。
ヴァジュラは神眼を使って天使の行く末を見守る。
「円卓山……たしか、逢魔のアジトがあそこにある!」
サーティーン(※マコラ)から敵の一味との場所は知っていた。
頂上が平たく、まるで巨大なテーブルのような山、円卓山。
あそこの頂上に逢魔とその部下たちがいるという。
……その遥か上空に天使が現れていた。
天使は片手をあげると、そこに、圧倒的な光のエネルギーが凝縮されていく。
あまりの高エネルギーに、直接見たわけでもないヴァジュラはおびえてしまうほどだった。
だが、円卓山にいる連中は、頭上の天使に気づいていないようだ。
「あまりに高位すぎて、視認できないのか……!」
高い周波数の音を、人間の耳が感知できないように、あまりに高位の存在は、その存在に気づくことができないのだ。
神眼をもつがゆえ、ヴァジュラは見えるのだ。
天使が光のエネルギー球を握りつぶす。
そして、振り下ろすと……やってくる。
――神の、鉄槌が。
ドッッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
……円卓山から奈落の森まで、かなり距離が離れてる。馬車で十数日かかる距離だ。
……それなのに、ここまでその轟音が響き渡り、また森の木々を揺らしてる。
彼女らの近くにある湖の水面がまるで荒れ狂う大海原のようになっていた。
……やがて、振動が収まる。
ヴァジュラは恐る恐る、天使が下した攻撃の後を見て……絶句した。
「……山が、消えた」
巨大な円卓山が、ひとつまるごと消し飛んでいた。
なんたるパワー。なんたる……一撃。
天使を遣わせ、地上を消し飛ばす。
それはまるで……
「……神」




