13.ルールを決めましょう
わたしことキリエ・イノリは奈落の森の長となった。
冒険者さんたちを助けたあと……。
グリフォンのシンドゥーラさんに頼んで、できる限り、森の魔物さんたちを集めてもらった。
『なんだなんだ?』『聖魔王様から大事なお話あるみたいだぞ』『だいじってなに?』『だいじってことだ』『なるほどそういうことか』
大小さまざまな魔物さんたちが集まってる。
彼らはわたしが治療した子たちだ。
これでもまだ全員ではないらしい。
『ごめんなさいですわ、キリエ様。治療を受けてないものたちは、どうにもいうことを聞こうとしなくて』
いえ、構いません。
話を聞いてくださる方が、こんなにたくさんいること、むしろ感謝いたします。
「聖魔王キリエ様からのありがたいお言葉だ! みな、よく聞くように!」
獣人姿のフェンリル、チャトゥラさんが声を張る。
静かになったところで、わたしは彼らに言う。
ごきげんよう、皆さん。
知ってる方もいるでしょうが、わたしがこの森の主となった、キリエ・イノリです。
『しってるー』『きりえさま~』『こないだはケガなおしてくれてありがとー』
魔物の子供さんたちがわたしに手を振ってくれる。
何と愛らしいことだろう。
『愛らしいってなんだ?』『かわいいってことか?』『ぼくたちぷりてぃ?』
ええ、そのとおり。
『『『ぷりてー!』』』
……心が筒抜けになってしまうのも、もう慣れた。
別に隠し事とかないからね。
さて。
レッドキャップさんたちは知ってるかと思いますが、この森には人間……冒険者さんがやってきました。
『ぼーけんしゃ?』『なんだそりゃ?』『にんげんさんか?』
その通りです。
彼らは武器を持っています。
魔物を……狩りに、ここへきています。
『ひょえー』『こわー』『やーだぁ』
ぷるぷると森の魔物さんたちは震えている。
仕方ないわ、身の危険を感じるんだもの。
今後また、冒険者さんたちが来た時のため、ルールを決めます。
『るーる?』『るーるとは?』『規律のことだ』『きりつってなぁに?』『るーるのことだ』『なるほど?』
子供たちは、まだわかってない様子。
その子らもわかるように言葉をかみ砕きつつ、親に向かって、わたしは言う。
ルール1、人間を攻撃してはいけません
ルール2、すぐに空の民に報告すること
ルール3、みんな仲良くしましょう
『ちょっといいかい』
くま吉くんのお母さん、くま子さんが挙手する。
どうぞ。
『人間を攻撃しちゃいけないって……でもやつらはあたいら魔物の素材を求めて、殺しに来てるんだよ? 無抵抗で死ねって言うのかい?』
そういうわけじゃないわ。
あくまで、向こうから攻撃してこない限り、襲ってはいけませんってこと。
ううん……とくま子さんが不満そう。
グリフォンのシンドゥーラさんが翼を広げる。
『では、向こうから攻撃してきたらどうしますの?』
大丈夫です。
わたしが神様のお力を借りて、みなさんに防御結界を施します。
『『『ぼーぎょけっかい?』』』
子供たち、そしてその親たちが、幸せに暮らせますよう、神様、どうかお力を。
わたしの祈りに神様が応えてくれる。
集まってきた森の魔物達の体が、ぽわんと光に包まれる。
光は一瞬で消えた。
『なにしたんだい、キリエ?』
結界をみなさんの体に付与しました。
『結界……ほんとかい?』
ええ。
みなさんにはどんな攻撃も、すべて無効化する、そういう結界を施しました。
魔物さんたちが半信半疑のようで、首をかしげている。
『みんな! みてみて~!』
そのとき、くま吉くんが、樹木王さんの枝上から、声を張り上げる。
『くま吉! なにやってんだい! 降りてきな!』
『とう!』
くま吉くんが結構な高さから、ジャンプ。
大丈夫、あれくらいなら平気よ。
くま吉くんが地面にぶつかる瞬間、ぽよーん、とバウンドした。
『わわ! すげえー! 全然いたくないや!』
グリフォン子供のぐーちゃん、そしてスライムのスラちゃんも、枝の上からジャンプ。
ふたりともぽよよんとバウンドして、地上に落下した。
『心配させないの! このばか!』
くま子さんがくま吉くんの頭を殴る。
ぽか。
『あいたー。って、あれ? バリアが発動しない?』
その結界には敵意や害意、殺意など、その人を深く傷つける外的刺激が発生したときだけ、結界が自動で展開するようになっています。
『『『????』』』
つまり、危ない! と思った時だけバリアが発動するってことです。
『『『なるほどぉ~!』』』
子供さんたちにもわかってもらえたようだ。
親御さんたちも安心したようにうなずいてる。
ん? 樹木王さん、どうしたの?
額に汗かいてるけど?
『い、いや……聖魔王様。あんた……とんでもない魔法使ってるって気づいてないのかの?』
魔法?
いえ、神様の奇跡ですけど……。
『あれは結界魔法じゃ。結界はそもそもとても高度で、並みの使い手では使用不可能じゃ。しかも、結界に自動でON、OFF切り替えさせるなんて、高度な命令は、通常なら与えることができんのじゃ。張ったら張りっぱなし。魔法が切れるまで結界は消えることはない。それが当たりまえじゃ』
当たり前じゃっていわれても……。
わたしにとっては、結界とはそういうものだし。
そもそもこの結界は魔法なんかではなく、神様が施してくださる奇跡であって、魔法じゃない。別のものだから、効果が違って当然だと思うのだけど。
『そ、そうか……』
ともあれ、この結界があれば、襲われたとしても問題ありません。
『結界が切れることってないのかい?』
大丈夫です、くま子さん。
少なくともこの森にいる限り、わたしの張った結界は永続的に張られた状態を保ちます。
『なんじゃとぉおおおおおおおおおおおお!?』
また?
どうしたの、樹木王さん?
『け、結界が半永久的に続くなんて聞いたことがない! どういうことじゃ!?』
どういうことって……わたしがいる場所から一定範囲内において、ずっと結界が続くってだけだけど。
『信じられん! 結界魔法は一定時間経過し、魔力供給が途絶えると、消えてしまうのが常識なのじゃ!』
はあ……。
まあ、魔法はそうなのかもしれないけど、これは神様の奇跡ですから。
『いやじゃから! それ魔法! 魔法じゃから!!! それを使ってるおぬしがすごいんじゃああ!』
……あまり他者を否定したくないのですが、神様の奇跡を、一聖女の力と誤解されるような言い方は、よしてもらいたいです。
これはあくまで、神様の力を借りているだけ。
すごいのは神様。
OK?
『『『OKOK! たぶん!』』』
まあなにはともあれ、これで森の方針は決まった。
あとはここで暮らす民たちが、幸せになるよう、頑張るだけだ。
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