129.マコラ
サーティーンはキリエのおかげで復活し、別れた仲間と再会を果たした。
「それで、サーティーン。あなたはこれからどうするのですか?」
チャトゥラはサーティーンに尋ねる。
彼はきっぱりとこういった。
「もう逢魔の元には戻らん。これからは、仲間とともに生きていく」
彼の仲間である、子猿たちがうきゃきゃ、と嬉しそうになく。
ヴァジュラはそれを見て厳しい意見を述べた。
「しかし君は元とはいえ逢魔の守護者だ。立場で言えば裏切り者。消される可能性はあるよ。君も、そして君のお仲間たちもね」
その可能性は大いにあった。
すでに一度逢魔の顔に泥を塗ったといって、血を無理矢理分け与えられ、凶暴化させられた経験がある。
その状態で敗北し、しかも裏切るとなれば、殺されるか、もっとひどい目にあうかもしれない。
サーティーンは仲間の子猿たちを見て、キリエの前までやってくる。
膝をついて、深々と頭を下げながら、キリエに言った。
「どうか、おれをあなた様の配下に、加えてはいただけないだろうか?」
サーティーンが選んだのは、逢魔と同じ魔王種である、キリエの下につくことだった。
聖魔王キリエの力は、戦ったサーティーンがよくわかってる。
彼女の下にいれば……。
「おれはあなた様のために、ぼろぞうきんになるまで働きます。だからどうか、仲間たちだけでもお守りください……」
聖十二支たちが見守る中……。
キリエはサーティーンに近づいて、彼の肩に触れる。
「駄目よ」
「……! どうして……」
しかし断ったキリエは、微笑みながら言う。
「わたし、配下って嫌いなの。配下じゃなくて、友達なら、大歓迎」
「友達……」
……相手は、魔王種。
世界最強の魔物だ(キリエは人間だが)。
大抵の魔王は、その強い力を持つ故に、かなり傲慢な性格をしてる(アニラしかり)。
だが……このキリエは違った。
ほぼみずしらずの自分を……。命を狙った相手を……許し、それだけなく、友達になろうと言ってくれてる。
「う、あ……あああ……」
なんて、優しいお方だろうか。
サーティーンはキリエの優しさに涙を流す。
「ね、友達になりましょ? サーティーンさん」
「はい……キリエ様……」
「様なんていらないわ」
「じゃあ……キリエの、姐さん?」
それでも嫌みたいだが、まあ様よりは良いと思ったのだろう。
キリエがうなずく。
「おおい、おまえら! キリエの姐さんが、おれたちを仲間にしてくれるそうだぞ!」
「「「うききー!」」」
子猿たちがぴょんぴょんと、喜び跳びはねる。
サーティーン、そして子猿たちが頭を下げる。
「よろしくね、サーティーンさん」
「キリエ、ちょっといいかい」
ヴァジュラが手を上げて言う。
「彼に名前を付けてあげて欲しい。サーティーンというのは逢魔が付けた名前だ。その名前がある限り、逢魔の呪縛からは解放されない」
魔王と名前を付けられた魔物のあいだには、パスのようなものが発生する。
サーティーンの裏切りに逢魔が気づけば、そのパスを使って、サーティーンに危害を加えてくるかも知れなかった。
その説明を聞いて、キリエはうなずくと、ちょっと考えてから言う。
「じゃあ……マコラさんで」
「マコラ……」
「ええ。エレソン様の残した日記にあったの。彼女を守ってたサルの魔物に、そう名前を付けたんだって」
その瞬間……。
サーティーンの身体が輝き出す。
新たなる名前とともに、力をもらったサーティーンは……。
守護者、マコラへと、存在進化する。
しゅっ、と背が高いイケメンへと進化する。
一見すると人間に近いが、尻尾が生えており、長いもみあげ。
頭には金の輪っかがつけられている。
鑑定スキル持ちのマーテルが、マコラを見てつぶやく。
「ゴクウという種族の魔物へと、存在進化したようじゃ」
「うき……ゴクウ。前より……身体が軽いぜ」
たんっ、とマコラがその場でバク宙してみせる。
「様々な妖術が使えるようじゃな」
「うき……! 感謝しますぜ、キリエの姉御!」
いえいえ、とキリエは微笑む。
「残りの小猿ちゃんたちにも、名前を付けないとね」
「いいんですかい?」
「もちろん! みんな友達ですもの」
……ああ、とマコラは思う。
この人の守護者になれて、本当に良かった……と。
そして、この人のタメに一生懸命働くのだと、マコラは決意するのだった。




