12.偽の聖女は、治癒力を馬鹿にされる
《ハスレアSide》
キリエが冒険者の欠損すら治療した、一方その頃。
彼女が元いた王国、ゲータ・ニィガ王国の王都にて。
天導教会の聖女ハスレアは、神殿の前へとやってきていた。
「キリエ様を追い出すなんて何考えてるんだ!」「キリエ様を連れ戻せ!」「そうだそうだー!」
王都民たちが、神殿の前で抗議の声を張り上げていた。
みな、キリエに優しくしてもらった人たちばかりだ。
彼らにとってキリエは大切な存在であり、ゆえに、彼女を王都から追い出した神殿に憤りを覚えてるようである。
……自分の方が優れてるのだと、彼らが知れば、きっとキリエ戻ってきてほしいの声も聞こえなくなるだろう。
そう思い、ハスレアは王都民たちの前にでる。
「ごきげんよう、皆さん! あたしはこの神殿の聖女、ハスレアと申します」
王都の人たちが怒るのをやめて、ハスレアの言葉に耳を貸す。
「キリエはもう戻ってきません。彼女の追放は、王太子殿下が決めたことなので、撤回もあり得ません」
……と、勝手にハスレアが言ってしまう。
まだ、王都民たちは神殿がキリエを追い出したと思っていた。
そこへ、王太子が追放したという事実が伝わってしまう……。
これが原因でさらにひどいことが起きるのだが、それはさておき。
「ですが、ご安心を! 聖女キリエの代わりは、この聖女ハスレアが務めさせていただきます!」
キリエにできたことが、自分にできないわけがない。
そう思って、彼女は自信満々に言い放つ。
王都民たちはハスレアの言葉に疑問を抱いてる様子。
その中の一人、子供を抱えた女が前に出てきた。
「聖女さま、この子の治療をお願いできますでしょうか? 指を包丁で切っちまったみたいでね」
食堂を営んでいる女と、その息子のようだった。
なんでこんな下民の言うことを聞かねばならないのか。
まあいい。
力を示す必要があったのだ。
「いいでしょう」
まあこの程度の切り傷くらい、簡単に直せる。
キリエの治癒力がどんなものか知らないけども、自分よりも勝っているなんてことはありえない。
なぜなら自分は王都を守る結界を、ひとりで維持できるほどの、聖なる力の持ち主だからだ。
「あたしに任せなさい。あたしの力で、こんなのすぐに治りますので」
ハスレアは聖女の力を使う。
このものを癒したまえ……と。
1分……5分……10分が経過。
そして……ゆっくりと目を開ける。
「どうでしょう?」
息子の切り傷は、きれいさっぱり治っていた。
どうだ見たことか、といハスレアは得意げに鼻を鳴らす。
だが……。
「あ、ああ……どうも……」
女はどうにも微妙な顔をしていた。
周りの人たちもそうだ。
「……どんくらいかかった?」「……10分」「……いや時間かけすぎじゃね?」
王都民たちの不満の声がハスレアの耳に届く。
せっかくこちらが力を使って、わざわざ助けてやったって言うのに。
なんだ、その不満そうな態度は、とハスレアは憤る。
と、そのときだった。
「すまない! 急患だ! 通してくれ!」
ドタバタ、とハスレアの前に、慌てて男たちが駆け込んでくる。
彼らは王都を守る騎士の人たちだった。
「どうかいたしました?」
「騎士団長が腕を怪我しちまったんだ! 静謐の聖女様に治療をお願いしたい!」
必死になって部下が叫ぶ。
担架に乗せられていたのは、端正な顔つきの美青年だ。
彼は辛そうにうめいている。
ハスレアは得意げに鼻を鳴らす。
「聖女キリエはおりませんので、あたしが治療します。どれ、怪我してる箇所を見せて……ひ! ひぃいい!」
ハスレアは患部を見て思わず叫ぶ。
騎士団長の右腕が……完全に食いちぎられたからだ。
「東の森で豚人の連中と戦いになり、負傷しちまったんだ。まだちぎれてまもない! 聖女様、どうか団長の腕を治してください! 聖女様ならこれくらいできるんですよね!?」
いや、何を言ってるんだろうか……?
部下らしき騎士に向かって、ハスレアは首を強く振る。
「そ、そんなの無理です!」
「なっ!? ご、ご冗談を! 静謐の聖女様は、四肢が欠損していたとしても、一瞬で治してくださりましたよ!?」
「な!? なんですって!?」
ハスレアはキリエの治療する姿を見たことがない。
どの程度の治癒の力を持ってるのか知らないのだ。
……しかし。
「四肢の欠損なんて、治せるわけないでしょ!!!!!」
今の聖女ができるのは、せいぜい切り傷ややけどなどを、治すくらい。
失ったり、ちぎれた部位を治すことなんて、ありえないのだ。
「何言ってんだ」「キリエ様は一瞬でなおしてたぞ」「腕がちぎれても、失った部位も生やしてくれたぞ」
街の人たちの言葉に耳を疑った。
何を馬鹿なことを……と思ったのだが、部下の騎士も真面目な顔で言う。
「街の人たちの言う通りです。聖女キリエ様なら治してくださった」
……王国の騎士がウソを言うとは思えない。
なら、本当にキリエはそんなことできるというのか……?
「お願いします聖女様! 団長が死んでしまいます!」
「そ、そんなこと言われても……む、無理なモノは無理だもの……!」
「そんな!」「このまま騎士団長が死んだらあんたのせいだぞ!」「そうだそうだ!」
街の人たちが非難してくる。
そんなこと言われても困った……。
「くそ! こうなったら錬金術師ギルドへいくぞ! 高いが……完全回復薬を買うしかない!」
騎士団は団長を連れて、神殿の前から立ち去っていく。
部下の男が振り返り、ハスレアをにらみつける。
「団長の腕が戻らなかったら、あなたのせいですからね。今回の件は報告させてもらいますから!」
そういって、彼らが立ち去っていく。
いや……なんであたしのせいなんだ? とむかついていた。
「あーあ」「がっかりだよね」「キリエ様の方がすごかったんだな」「一瞬でどんな怪我も病気も治してくれたしね」
街の人たちからは、失望の声が漏れる。
それがさらにハスレアの自尊心を傷つけた。
「うるさい! だまれ下民ども! あんな女すごかないわよ! あたしのほうが優れてんだから! なにが一瞬でどんな怪我もなおしたよ! そんなのウソに決まってるわ!!!」
と、彼女は事実を認めないようである。
一方実際にキリエの方がすごいと、民たちは今目の前で、ハスレアの治癒の力を見て、確信を得ていた。
「もう駄目だ」「キリエ様のいない神殿に価値なんてない」「高いけど薬を買うしかないのか……」
落胆のため息をつきながら、街の人たちが去って行く。
「なによ……それ。まるで、キリエの方がすごくて、あたしはたいしたことないみたいじゃないの!!!!」
事実、その通りなのだ。
街人たちのなかでは、すっかり格付けが完了してしまったようだ。
「キリエ様どこいったんだろう」「キリエ様の居場所を誰かしらないだろうか」「知り合いに探してもらおう」
……みんな、キリエ、キリエ、と口々にあのしゃべれない欠陥聖女の名前を呼ぶ。
ここに、聖女がいるというのに。
「何なのよ! ちくしょう! ちくしょおおう!」
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