表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/196

12.偽の聖女は、治癒力を馬鹿にされる


《ハスレアSide》


 キリエが冒険者の欠損すら治療した、一方その頃。

 彼女が元いた王国、ゲータ・ニィガ王国の王都にて。


 天導教会てんどうきょうかいの聖女ハスレアは、神殿の前へとやってきていた。


「キリエ様を追い出すなんて何考えてるんだ!」「キリエ様を連れ戻せ!」「そうだそうだー!」


 王都民たちが、神殿の前で抗議の声を張り上げていた。

 みな、キリエに優しくしてもらった人たちばかりだ。


 彼らにとってキリエは大切な存在であり、ゆえに、彼女を王都から追い出した神殿に憤りを覚えてるようである。

 ……自分の方が優れてるのだと、彼らが知れば、きっとキリエ戻ってきてほしいの声も聞こえなくなるだろう。


 そう思い、ハスレアは王都民たちの前にでる。


「ごきげんよう、皆さん! あたしはこの神殿の聖女、ハスレアと申します」


 王都の人たちが怒るのをやめて、ハスレアの言葉に耳を貸す。


「キリエはもう戻ってきません。彼女の追放は、王太子殿下が決めたことなので、撤回もあり得ません」


 ……と、勝手にハスレアが言ってしまう。

 まだ、王都民たちは神殿がキリエを追い出したと思っていた。


 そこへ、王太子が追放したという事実が伝わってしまう……。

 これが原因でさらにひどいことが起きるのだが、それはさておき。


「ですが、ご安心を! 聖女キリエの代わりは、この聖女ハスレアが務めさせていただきます!」


 キリエにできたことが、自分にできないわけがない。

 そう思って、彼女は自信満々に言い放つ。


 王都民たちはハスレアの言葉に疑問を抱いてる様子。

 その中の一人、子供を抱えた女が前に出てきた。


「聖女さま、この子の治療をお願いできますでしょうか? 指を包丁で切っちまったみたいでね」


 食堂を営んでいる女と、その息子のようだった。

 なんでこんな下民の言うことを聞かねばならないのか。


 まあいい。

 力を示す必要があったのだ。


「いいでしょう」


 まあこの程度の切り傷くらい、簡単に直せる。

 キリエの治癒力がどんなものか知らないけども、自分よりも勝っているなんてことはありえない。


 なぜなら自分は王都を守る結界を、ひとりで維持できるほどの、聖なる力の持ち主だからだ。


「あたしに任せなさい。あたしの力で、こんなのすぐに治りますので」


 ハスレアは聖女の力を使う。

 このものを癒したまえ……と。


 1分……5分……10分が経過。

 そして……ゆっくりと目を開ける。


「どうでしょう?」


 息子の切り傷は、きれいさっぱり治っていた。

 どうだ見たことか、といハスレアは得意げに鼻を鳴らす。


 だが……。


「あ、ああ……どうも……」


 女はどうにも微妙な顔をしていた。

 周りの人たちもそうだ。


「……どんくらいかかった?」「……10分」「……いや時間かけすぎじゃね?」


 王都民たちの不満の声がハスレアの耳に届く。

 せっかくこちらが力を使って、わざわざ助けてやったって言うのに。


 なんだ、その不満そうな態度は、とハスレアは憤る。

 と、そのときだった。


「すまない! 急患だ! 通してくれ!」


 ドタバタ、とハスレアの前に、慌てて男たちが駆け込んでくる。

 彼らは王都を守る騎士の人たちだった。


「どうかいたしました?」

「騎士団長が腕を怪我しちまったんだ! 静謐の聖女様に治療をお願いしたい!」


 必死になって部下が叫ぶ。

 担架に乗せられていたのは、端正な顔つきの美青年だ。


 彼は辛そうにうめいている。

 ハスレアは得意げに鼻を鳴らす。


「聖女キリエはおりませんので、あたしが治療します。どれ、怪我してる箇所を見せて……ひ! ひぃいい!」


 ハスレアは患部を見て思わず叫ぶ。

 騎士団長の右腕が……完全に食いちぎられたからだ。


「東の森で豚人オークの連中と戦いになり、負傷しちまったんだ。まだちぎれてまもない! 聖女様、どうか団長の腕を治してください! 聖女様ならこれくらいできるんですよね!?」


 いや、何を言ってるんだろうか……?

 部下らしき騎士に向かって、ハスレアは首を強く振る。


「そ、そんなの無理です!」

「なっ!? ご、ご冗談を! 静謐の聖女様は、四肢が欠損していたとしても、一瞬で治してくださりましたよ!?」

「な!? なんですって!?」


 ハスレアはキリエの治療する姿を見たことがない。

 どの程度の治癒の力を持ってるのか知らないのだ。


 ……しかし。


「四肢の欠損なんて、治せるわけないでしょ!!!!!」


 今の聖女ができるのは、せいぜい切り傷ややけどなどを、治すくらい。

 失ったり、ちぎれた部位を治すことなんて、ありえないのだ。


「何言ってんだ」「キリエ様は一瞬でなおしてたぞ」「腕がちぎれても、失った部位も生やしてくれたぞ」


 街の人たちの言葉に耳を疑った。

 何を馬鹿なことを……と思ったのだが、部下の騎士も真面目な顔で言う。


「街の人たちの言う通りです。聖女キリエ様なら治してくださった」


 ……王国の騎士がウソを言うとは思えない。

 なら、本当にキリエはそんなことできるというのか……?


「お願いします聖女様! 団長が死んでしまいます!」

「そ、そんなこと言われても……む、無理なモノは無理だもの……!」

「そんな!」「このまま騎士団長が死んだらあんたのせいだぞ!」「そうだそうだ!」


 街の人たちが非難してくる。

 そんなこと言われても困った……。


「くそ! こうなったら錬金術師ギルドへいくぞ! 高いが……完全回復薬エリクサーを買うしかない!」


 騎士団は団長を連れて、神殿の前から立ち去っていく。

 部下の男が振り返り、ハスレアをにらみつける。


「団長の腕が戻らなかったら、あなたのせいですからね。今回の件は報告させてもらいますから!」


 そういって、彼らが立ち去っていく。

 いや……なんであたしのせいなんだ? とむかついていた。


「あーあ」「がっかりだよね」「キリエ様の方がすごかったんだな」「一瞬でどんな怪我も病気も治してくれたしね」


 街の人たちからは、失望の声が漏れる。

 それがさらにハスレアの自尊心を傷つけた。


「うるさい! だまれ下民ども! あんな女すごかないわよ! あたしのほうが優れてんだから! なにが一瞬でどんな怪我もなおしたよ! そんなのウソに決まってるわ!!!」


 と、彼女は事実を認めないようである。

 一方実際にキリエの方がすごいと、民たちは今目の前で、ハスレアの治癒の力を見て、確信を得ていた。


「もう駄目だ」「キリエ様のいない神殿に価値なんてない」「高いけど薬を買うしかないのか……」


 落胆のため息をつきながら、街の人たちが去って行く。


「なによ……それ。まるで、キリエの方がすごくて、あたしはたいしたことないみたいじゃないの!!!!」


 事実、その通りなのだ。

 街人たちのなかでは、すっかり格付けが完了してしまったようだ。


「キリエ様どこいったんだろう」「キリエ様の居場所を誰かしらないだろうか」「知り合いに探してもらおう」


 ……みんな、キリエ、キリエ、と口々にあのしゃべれない欠陥聖女の名前を呼ぶ。

 ここに、聖女がいるというのに。


「何なのよ! ちくしょう! ちくしょおおう!」


【★読者の皆様へ お願いがあります】


ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!


現時点でも構いませんので、

ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 畜生道に堕ちた畜生が「ちくしょう」と叫ぶ絵図、地獄の入口で誰かが待ってるぜ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ