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 アニラがスリーを討伐したあと……。



「おまえたち、終わったか?」



 人間姿のチャトゥラが、アニラ、メドゥーサたちのもとへやってきた。

 アニラはこくんとうなずいて言う。



「おまえがビリだぜ、チャトゥラよぉ。こんなザコ相手にとろいんじゃあねえの?」

「なんだと!」



 チャトゥラががるるる! とうなり声を上げる。

 だがアニラは真剣な顔つきで言う。


「おれが倒したやつは、守護者ガーディアンのルークを名乗っていたが、実力を隠してやがったぜ。形成不利とさとって退却する頭ももってやがった」

「! ……そうですか。逢魔なる魔王は、我らが思ってる以上に力を持ってるのかもしれませんね」

「だな。オレ様たちももっと力を付けなきゃいけねーわな」



 チャトゥラ、そしてメドゥーサも同意するようにうなずく。



「じゃあ、わかるだろ? あの牛女の協力が、今後も不可欠だってことはよぉ」



 牛女、つまり聖十二支デーバがひとり、白澤のヴァジュラのことだ。

 ヴァジュラは未来を見通す目を持っている。



 今回の襲撃を未然に防げたのも、ヴァジュラが未来を予知したからに他ならない。



「キリエはすげえ力を持ってるが、魔王種に覚醒したばかりで、しかもあのように平和主義者だ。ほかの魔王種どもからすれば、格好の餌だろう」

「……弱いから、みんなキリエを狙うっていいたいの?」



 メドゥーサが不愉快そうに顔をゆがめる。

 愛するキリエをザコ扱されたのが、不服だったようだ。



 アニラは「勘違いすんな」と断りを入れる。



「キリエは強い。だが、魔王種の力は強大だ。強すぎるゆえに、コントロールが難しい。初心者の魔王は、この力のコントロールを身につけるまでは、自分で扱える程度の出力しか出せねえんだよ」



 初心者であるキリエは、無意識に力を絞って使ってる、らしい。

 チャトゥラがうなずく。



「あのお方からは、誰よりも強い力を持つにおいがする。いずれこの森だけじゃない、多くの民を救う真の魔王になるでしょう」

「その前に殺されちゃ意味がねえってことだ。わかるな、チャトゥラ?」



 キリエの周りにいる魔物の中で、古株はチャトゥラとアニラ、そしてマーテルだ。

 その中で一番、ヴァジュラに恨みを抱いているのは、ほかでもない、チャトゥラである。



 彼は先代聖魔王エレソンを殺したヴァジュラを、どうしても……許せなかった。

 エレソンを愛し、忠義を尽くしてたからこそ……。



「……貴様はどうして割り切れる? 腹は立たないのか?」

「むかついてるよ。だが……ヴァジュラを殺すのは得策じゃねえ。キリエの前で、敵を殺せるのかおまえ?」

「それは……」



 キリエは何より血と暴力を嫌う。

 だが……時には戦わねばならぬこともあるのだ、今日みたいに。



 そうなったときキリエの前だと何かと都合が悪い。



「魔物の世界の掟は、弱肉強食。だが……キリエはそれを知らん。オレ様たちにとって当たり前の、敵は殺して食べても問題ないって行為を……あの子は受け入れてくれるとは、オレ様は思えない」



 メドゥーサは倒したナナを食らった。

 彼女からすれば、なんてこない、当たり前の行為。



 しかしあの場にキリエがいたらおそらくは、泣いてしまっていただろう。

 ……キリエの前では戦うことも、殺めることもできない。



 となれば、先手を打ち続けるしかないのだ。

 そのために、未来を見る力がどうしても必要なのである。



「エレソンの件は、残念だった。オレ様も割り切れねえよ。でも……オレ様は同じ失敗を、キリエで繰り返したくない」

「…………」



 チャトゥラも同じ思いなのだろう。

 ぎゅっ、と唇をかみしめていた。



「……まさか、貴様のような粗忽者に、諫められるとはな」

「うるせえ、ほっとけ馬鹿犬」



 アニラはごんっ、とチャトゥラの頭を拳で叩く。



「んじゃ、帰るか」


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