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117.重力剣と竜王剣




 アニラは13使徒のひとり、スリーと相対していた。

 スリーは魔王と契約して力をもらっている、守護者ガーディアン魔物モンスターだ。



 強敵を前にしても、しかしアニラは余裕を崩さない。

 腕を組み、相手を見下ろしながら言う。


「どうした? かかってこねぇのか?」



 アニラは余裕綽々の態度をとる。

 一方スリーの額からは、つつ……と汗が1筋落ちた。



 スリーはわかっているのだ。

 目の前に居る、竜魔王は、格外の化け物であると。



「このような竜を従える……聖魔王、やはり恐ろしい存在……」

「なんだ、こねえの? じゃあ……消し炭になるだけだぜ?」

「!?」



 スリーは目を見開き、体をこわばらせる。

 一瞬でアニラは距離を詰めて、スリーの間合いのうちにいたからだ。



 相手との距離はかなり間は空いていたはず。

 だがその距離を音もなくつめてきたのだ。



 アニラは手のひらをスリーの腹部に当てる。



「爆ぜろ」



 ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン……!!!!!!!

 凄まじい爆風が周囲に広がる。



 アニラによる魔法攻撃だ。

 それを至近距離から受けたのだ。



 通常なら消し炭になっているところ……。



「ちっ……妙な力使うじゃあねえか」



 ところがスリーはアニラから離れたところに立っていた。

 彼はにこりと笑ってみせるものの、その額には大汗をかいている。



「いや……さすが暴虐竜殿。凄まじい火力でありました」

「初撃で殺せなかったやつは、久しぶりだ。やるじゃあねえか」

「お褒めいただき光栄の至り。しかし今のはわしの力ではなく、逢魔様より賜った王剣の力ゆえ」



 二人のやりとりを見ていたメドゥーサが、首をかしげる。



「……王剣って?」

「魔王と契約することで獲得できる、特別な力を持った武器のことだ」



 スリーの手には小さな短刀が握られている。

 短刀の能力で、一撃を躱したのだろうとアニラは考えた。



「察するに重さを変えるとか、そういう能力だろう」

「さすがは竜魔王、ご明察。こちら、重力じゅうりょく剣:おもりと申す」

「ほぅ……」



 アニラは不審がる一方で、メドゥーサは尋ねる。



「……名前なんてあるの?」

「そのとおり、王剣にはそれぞれ固有の名前があります。●●剣:××というふうに。●●には剣の性質、××には名前が」



 しかし……アニラは不愉快そうに顔をしかめる。



「舐めてるのか?」



 その一言だけで、スリーがハッ、として、感服したように言う。



「さすが、ご慧眼であられる」

「ふん……! まあ良い。そっちがその気なら、こっちも同じ土俵で戦ってやる。【来たれ】」



 アニラが右手を前に出す。

 すると空間がゆがみ、そこから……



「! 王剣……! アニラ……あなたも持ってるの? 魔王なのに?」



 アニラの手には、自らの身長と同じくらの大きさの、大剣が握られていた。

 紅蓮の刀身は美しく、まるで燃えているように輝いている。



「これはキリエと契約し、守護者ガーディアンとなったことで手に入れた王剣。その名も、竜王りゅうおう剣:あぎと

「竜王剣……顎。キリエと契約?」



 アニラが竜王剣を軽々と持ち上げて、肩に担ぐ。



「我ら聖十二支デーバは、全員がキリエの守護者ガーディアンなんだよ」

「! ワタシも?」

「そう。だから、おまえさんも訓練すれば王剣が使える」



 アニラは竜王剣を片手に、スリーに近づく。

 スリーは重力剣を横に振るった。



 ずんっ、とアニラの体が沈むも、彼女はのっしのっしと歩いてくる。

 まるで本当の王様のように、だ。



「魔王の力は使わん。この竜王剣、守護者ガーディアンの力だけで戦ってやろう。【貴様と同様】に」

「ふふ……光栄の至り」

「ほざけ。オレ様相手に、舐めたまねしくさって」



 メドゥーサはアニラたちの会話について行けなかった。

 だがアニラがどうやら怒ってることだけはわかった。



「重力……20倍!」



 スリーが重力剣を振るう。

 アニラの体がさらに、地面に沈む。



「アニラ……!」

「ふん……下らん」



 アニラは竜王剣を手に持って、振るった。

 それだけだった。



 ずばぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!



 ……アニラの一撃は、大地を引き裂いた。

 そこはただの平原であった。


 

 しかし彼女の一撃により、地面は無理矢理引き剥がされて……。

 そこには、縦に一直線に伸びる、長大な崖ができていた。



 アニラの放った斬撃はあまりに強く、彼らの間にあった大地をプリンのように引き裂いたのである。



「御見事」



 スリーの体は縦に真っ二つにされていた。

 それでも笑っている余裕。



「まさか魔王の力どころか、王剣の能力すら使わず、20倍の重力剣を突破するとは」

「ふん! 貴様とてオレ様と同じだろう。次は本物で来い。かみ殺してやる」

「ははは、それはご勘弁いただきたい」



 ぽん、という軽い音とともに、スリーが消えた。

 さっきまで彼の立っていた場所に、紙でできた人形が舞い落ちる。



 メドゥーサは近づいてそれを手に取る。

 真っ二つにされた紙の人形を見てつぶやく。。



「これ……なに?」

「身代わりだ」

「身代わり……?」

「ああ、式神ともいう。本体は別の場所にいるだろうよ」



 つまりさっきのスリーは分身体であり、本物はちがうところにいて、遠隔操作していたということだ。



「やつめ……ムカつく男だ。次は倒す」



 何はともあれ、13使徒の襲撃については、3-0でキリエ側の勝利だった。



 

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