114.氷の魔狼はお怒りのようです
キリエのいないところで、魔王の部下たちが激突しようとしていた。
「【強制転移】」
敵三人組のうちのひとり、女が両手を合わせてつぶやく。
その瞬間、アニラたちの足下に魔法陣が展開。
次の瞬間、目の前が真っ白になる。
チャトゥラはうっすらと目を開けると……。
「てめえはおれとだ、犬っころ」
「サーティーン……今のはなんだ?」
チャトゥラたちがいるのは、森の中の川の近く。
アニラとメドゥーサの姿がない。
「答える分けねーだろ馬鹿犬」
サーティーンは随分とチャトゥラを嫌ってるようだ。
さもありなん、ミッション失敗の原因は、この男が聖魔王を連れてきたからだ。
「ふん……大方予想はつく……敵を強制的に転移させるのだろう。つまりは、我らを三組に分断させたか」
ちっ……とサーティーンが舌打ちして言う。
「まあ良い教えてやるよ。おまえの言うとおりだ。ナナの能力で、てめえらを三組に分断し、この森の各地に飛ばさせてもらった」
チャトゥラの予想通りらしい。
分断を狙ったと言うことは……。
「貴様らは団体で戦えば負けると思ったのだろう。こちらには魔王種がいたからな」
「ちっ……! うるせえな!」
「図星か。ふん……」
暴虐竜アニラは、最強種である魔王種のひとりだ。
彼女がいればおそらく、サーティーンたちが束になっても敵わなかったろう。
「分断したところで、アニラの相手をしてるやつは殺されるだけだが……なにか手立てがあるようだな」
「ふん……! ここで死ぬおまえには関係ないことだぁ!」
なるほど、サーティーンはチャトゥラをここで確実に葬り去ると決めてるからか、色々と重要情報をベラベラとしゃべっていたのだろう。
「てめえは殺す。そんで、あのムカつく聖魔王もぶっころしてやる」
「…………いちおう、聞いておこう」
チャトゥラは爆発しようとしてる感情を、理性で必死で抑える。
彼の脳裏にはキリエの言葉と笑顔があった。
平和主義で、優しい、あの子の。
「貴様らはどんな大義があって、我らが主を狙いに来た?」
「大義だぁ……? んなもん、ねえよ! 他の連中は逢魔様に命じられたからだろうけどなぁ……! おれはちがう!」
びしっ、とサーティーンがチャトゥラを指さす。
「てめえとその主の女! あいつらのせいでおれは任務失敗した! 他の連中からも馬鹿にされた! むかつく! だから、原因となったてめらをぶっ殺してえ! ただそれだけだぁ!」
……あまりに身勝手すぎる主張。
チャトゥラは……。
フッ……と笑った。
「な、なんだよおまえ……」
「いや、ありがとう。おまえに、大義名分があったらどうしようかと思っていたところだ」
チャトゥラの声は非常に穏やかだった。
だからこそ、サーティーンは逆に恐かった。
「殺す……! てめえはあの女と一緒に、最大限の苦しみを与えながら殺してやるよぉ!」
バキィンッ……!
何かが粉々に砕け散る音がした。
「へ……?」
サーティンは間の抜けた表情で、音のした方を見やる。
……自分の右腕が、粉々に砕け散っていた。
「ひ、ぎやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
サーティーンは恐怖で尻餅をついて、自分の腕を見やる。
「腕がぁ……! おれの腕がぁ……!!!!!」
チャトゥラが一歩、一歩と近づいてくる。
彼の周りの地面がバキバキと凍りついていく。
いつの間にか、空に分厚い雲が発生してる。
ひょぉお……と吹雪いてきた。
「貴様はあの子を殺すと言った。それは万死に当たる行為だ」
チャトゥラの怒りに呼応するように、吹雪がドンドンと勢いを増していく。
「だがキリエ様はお優しいお方だから、たとえ相手がクズだろうと、慈悲をお与えになるだろう。……だが私はちがう」
チャトゥラの体が大きくなる。
本来の、フェンリルの姿へと変貌する。
『私はあのお方とちがって、敵に情けをかけるほどの優しさは持ち合わせていない。私は貴様に、最大限の苦しみと恐怖を味わわせてから、殺してやる』
「い、いやぁ……! いやぁあああああああああああああ!」
サーティーンは逃げようとしたが……。 ばきんっ!
足が砕けた。
地面に手をついたら、腕ごとボキッと折れた。
体が地面に倒れる。
凍りついた地面は、サーティーンの肉を地面に縫い付けた。
『さぁどう料理してくれよう』
「いや、いやぁあ! た、たすけ……たすけ……てぇえええ!」
『安心しろ』
……助けてくれるのか?
『私は貴様を絶対許さない』
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