102.赦す
奈落の森から離れた山の中。
わたしはサーティーンって人に襲われていた、ヴァジュラさんを助けた。
「……君のもとへ、行って、いいのかい?」
ヴァジュラさんが弱々しく尋ねてくる。
最初に会ったときみたいに、何を考えてるのか、わからない感じではない。
「キリエ様」
人間姿になったチャトゥラさんが、険しい表情をしてる。
うん、彼の気持ちもわかる。
エレソン様を殺したと、彼は言った。
そしてヴァジュラさんもそれを認めた。
おそらく、わたしの知らない事件は、本当に起きたのだろう。
その犯人(推定)である、ヴァジュラさんを仲間に入れたくはない。
気持ちは理解できる。でも。
「チャトゥラさん。わたしは、彼女とも、仲良くしたいです」
「…………」
「あなたがわたしの、そして仲間の身を案じてくれるのは、すごく伝わってくるわ。ありがとう……でも……わたしは信じたいの」
「信じる? 何を?」
わたしはヴァジュラさんを見て言う。
「エレソン様を、よ。だってヴァジュラさんに名前を付けたのは、エレソン様なんでしょう?」
わたしは知らなかったけど、魔物の世界において、名前を付けることって、とても重要な意味合いを持つらしい。
「もしもヴァジュラさんが、悪い人だったら……エレソン様が名前を付けるわけないわ。そうでしょう?」
「「!」」
チャトゥラさんも、そしてヴァジュラも、目をむいていた。
エレソン様はすごい人だと聞いてる。
そして、とても優しくて、とても優秀な人だってことも。
そんな彼女が、ヴァジュラさんが悪人だったとして、見抜けないわけがない。
エレソン様が仲間に入れて、名前まで授けたってことは、悪い魔物じゃないってことと同義だと思う。
「チャトゥラさん。前にも言ったけど、わたしは過去、この森に何があったのかは知らないわ。でも……わたしは過去ではなく、今を生きている」
わたしはしゃがみ込んで、ヴァジュラさんのことを抱きしめる。
「今のヴァジュラさんは、少なくとも悪いことは何もしてないわ。ねえ、仲間に入れたいの。だめかな?」
ヴァジュラさんの身体が震えていた。
ぎゅっ……とわたしの身体に、しがみついてくる。
……ああ、やっぱり無理してたんだわ。
あの憎たらしい態度は、演技だったのね。かわいそうに。
「もう大丈夫よ、ヴァジュラさん。みんなが怒っても、みんなから嫌われても、わたしがそばに居るわ」
「…………」
ヴァジュラさんは、泣いていた。
声を殺して、まるで泣いてる姿を見られたくないようだった。
そんな風に泣いてる彼女が、かわいそうで、わたしは抱きしめてあげた。
彼女の心にある、悲しみや苦しみを、完全には理解できない。
事ここに至っても、ヴァジュラさんは本音を語ってくれない。
……それでも、今ここで表に出してる感情は、本物だ。
何か辛いことがあって、泣いてるひとを、わたしはほっとけない。
「ねえ、チャトゥラさん。彼女を……」
「……わかりました。私は、何も言いません。あなたが決めたことを、私は否定しません」
「チャトゥラさん……ありがとう」
わたしが笑いかけると、彼は顔を赤くし……でも、困ったように、頬をかいた。
「キリエ様は、ずるいです」
「え、なにかずるしたかしら?」
「あなたにそんな最高に素敵な、最強の笑顔を向けられたら、断れないじゃないですか」
素敵かしらね……それはわからないわ。
でも……かれも赦してくれて、本当に良かった。
「さ、帰りましょうか」
「……キリエちゃん」
「なぁに?」
目を赤く泣きはらした彼女が、わたしに頭を下げた。
「……あり、がとう」
……ふふ。やっと、本音が聞けたわ。
わたしはヴァジュラさんの頭を、よしよし、と撫でてあげたのだった。
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