10.冒険者を助ける
魔物さんの治療を続けていった、ある日のこと。
グリフォンのシンドゥーラさんが、わたしの住んでいる、旧楽園へとやってきた。
『大変ですわ、キリエ様!』
シンドゥーラさんは、初代聖魔王エレソン様の部下、聖十二支の一匹。
凄い魔物である彼女が、焦っている。
どうしたのかしら、よっぽどのことが?
『奈落の森に人が入ってきましたわ!』
シンドゥーラさんは空を統べるもの。
たくさんの眷属(鳥さん)を抱えてるらしく、森の情報を素早く探知できるそうだ。
人……それで、魔物さんは?
『飢えたレッドキャップと戦闘となり、両者重傷ですわ』
! それは……いけません!
直ぐに向かいます!
「キリエ様。どうぞ背中にお乗りください!」
わたしの前で、フェンリルのチャトゥラさんが大きなフェンリルの姿になる。
彼の背中に乗って、わたしは現場へと急行。
樹木王さんの口をくぐって、森の中へ。
シンドゥーラさんの先導で、現場へと到着した……。
「ぐぎゃぎゃー!」「ごぎゃーご!」「がぎゃぎゃー!」
レッドキャップさん。
赤い帽子をかぶった、小さな子鬼さんたち。
その前には、傷付いた人たちがいる。
冒険者……かしら?
腕を押さえたり、額から血を流してる。
「くそ! なんて強いんだ、この森の魔物は!」
「リーダー、どうしましょう!?」
「くそ……こうなったら奥の手の魔道具を……」
やめてください!!!!
けれど、そうだ。
人にわたしの声は聞こえないのだったわ。
「おやめなさい、人の子らよ!」
フェンリルのチャトゥラさんが、人の姿へと変化する。
犬耳と尻尾の生えた、白髪の美男子になった。
「! あ、あんた【も】獣人か!?」
リーダーらしき人が、チャトゥラさんを見て言う。
も?
「いいえ、私はこの森の長、キリエ様の片腕、フェンリル」
「フェンリルだって!?」
驚いてる。
まあそれは当然か。
伝説の魔物だものね。
続いて、リーダーさんはわたしを見る。
「そっちの可愛い嬢ちゃんは?」
「この森の長、聖魔王キリエ様です」
「え、ええ!? お、長……!? ニンゲンが……!?」
はい、とわたしがうなずく。
信じられない様子の冒険者さんたち。
別に証明するわけでもないけれど、わたしはレッドキャップさんに近づく。
怪我してる様子だったので、治癒を施した。
「! おいおい魔物を治してるじゃあねえかよ!!! 敵じゃねえか!」
「愚か者。見なさい、あれを」
わたしはレッドキャップさんに話しかける。
どうして、人間を襲ったの?
『すまねえ、ただ、腹すいてたんだ』『食事分けてもらおうとしたんだ』『そしたら襲ってきて……気づいたらバトルしてた』
なるほど……。
事情はわかるけど、人を襲ってまで、他人の物を奪おうとするのは、感心しません。
しゅん……とレッドキャップさんたちがうなだれる。
「人間たちよ。この子らはお腹がすいていたのです」
「いや、だからって……刃物までだすこたねえだろ」
レッドキャップさんたちの手には大きなハサミがにぎられている。
「それは、そちらも同じでしょう?」
冒険者さん達も手には剣や杖が握られている。
「この子達はただ腹を空かせていただけです。襲った非礼はお詫びします」
わたしも一緒に頭を下げる。
「まあ……いいけど」
優しい人で良かった。
わたしは彼に近づいて、手を握る。
ごめんなさい、魔物さんが迷惑をおかけして。
わたしは治癒の力を、神からお借りして使う。
するとリーダーさんの血が一瞬で止まる……。
「って! 嬢ちゃん! 何したんだ今の!?」
なにって……治癒を。
「治癒?」
あ、あれ……?
おかしいな。わたしの声……もしかして聞こえてるのですか?
「あ、ああ……どうなってんだこりゃ。頭に直接響いてくるぜ」
……おかしい。
前は、人間に対して、このテレパシー? 能力は使えなかった。
でも、今はつかえるようになってるなんて……。
まあいいわ。
レッドキャップさんたちがご迷惑をおかけしたので、お詫びに、皆さんを治療させてください。
「い、いいのかい? 治癒って結構高いんだろ?」
かまいません。
あとお代はもらいませんので。
リーダーさんはいぶかしげにわたしを見てくる。
しかたないわ、今日初めてあったばかりだし。
それに、人類の敵である魔物に、与してるように見えるんですもの……。
「嬢ちゃん……頭のオカシイ人ってわけじゃあないんだな。魔物が敵って認識してるわけだし」
き、聞こえてたー!?
そうか……テレパシーだから、思考筒抜けなのね。
や、やだ……恥ずかしい……。
「まあ嬢ちゃんが悪いやつじゃないってことはわかった。じゃあ、遠慮無く、仲間を治癒してやってくんねえか」
よく見たら、皆さん結構ボロボロだった。
奈落の森に来るまでに怪我してたのかしら?
わたしは彼らひとりひとりに触れて、神のお力を使う。
「なんだこりゃー!」「やべえよ!」「どうなってんだこりゃあ!」
冒険者さん達が元気になる。
良かった……。
「じょ、嬢ちゃんよぉ……」
わたしはキリエです。
遅れてすみません。
「あ、いや……おれはガープ」
リーダーさんはガープさんって方みたいです。
あれ……?
よく見ると、ぴょこんと耳が立ってます。
もしかして……獣人さん?
「あ、ああ……。キリエ嬢ちゃん、あんた……ナニモノだよ」
ただの聖女ですが。
「いや……ただの聖女にしちゃ、やばすぎるだろ。だって……今気づいたが、おれの耳が戻ってる」
耳……?
ケモミミが、ぴょこぴょこ動いてる。ラブリー。
って、あれ?
最初見たときは、生えてなかったのに……。
「昔、戦で捕虜として捕まっちまったときによ、おれら全員耳と尻尾切られてたんだ」
まあ……それは、なんとおかわいそうに……。
「ああ、でも耳も尻尾も元通りだ。怪我どころか、失った部位まで戻るなんて……」
ええっと……。
それの、どこかおかしなことありますか?
「は……?」
ガープさんをはじめとした、皆さんが驚いてる。
あれ?
だって、神様の力なんですよ?
部位欠損くらい、簡単に治せます。
だって神さまは凄いんですから。
「……な、なんだこの嬢ちゃん……や、やべえ……」
獣人さん達が驚いてるわ。
確かに、神さまの信者でないかたたちからすれば、この奇跡が凄いように見えるのでしょうね。
「おっと、すまねえ。お礼を忘れていた。ありがとう、嬢ちゃん。怪我だけでなく、失った誇りまで、取り戻してくれてよ」
ガープさんはじめ、冒険者さんたちが涙を流す。
お、大げさな……たかが、取れた耳と尻尾治しただけなのに。
それに、こちらもすみませんでした。
レッドキャップさん達が、迷惑を。
「いや、おれらも話を聞かなかったのが悪かった。どうだい、一緒にご飯、食べるかい?」
よく見ると、ガープさん達が作った、大きな鍋がある。
中にはおいしそうな、スープが入っていた。
いいのですか?
「ああ。迷惑かけちまったお詫びさ。そう伝えてくれないか?」
ありがとう。
わたしはレッドキャップさんたちの元へ行く。
あの人達がご飯おごってくれるそうよ。
『ほんとうかい!』『ありがてえ!』
わたしはレッドキャップさん達と一緒に、冒険者さんたちの元へ行く。
最初は警戒していた彼らだけど、すぐに笑顔になる。
「さっきはすまん。腹減ってたら、誰でも気が立つもんな」
その言葉を、レッドキャップさんに翻訳して伝える。
『こちらも、すまなかった。改めて、ご相伴にあずかる』
その後、わたしたちは同じ鍋を囲って、ご飯を食べた。
人と魔物、こうしてわかり合えるのね……。
そうよ、だって同じ心を持ってるんですもの。
こんなふうに、たくさんの人たちが、魔物を恐い物じゃないって思ってくれたらうれしいわ。
「そんな風に考える人間がいるなんてな。嬢ちゃん、マジですげえな」
また心の声だだもれだったっ!
やだ……もう……。恥ずかしい……。
「こりゃ……【女王】に報告しねーとだな」
じょおー?
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