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異世界防衛戦線-刃と翼編-  作者: ミネアポリス剣(ブレイド)
序章
7/23

7.訓練

幼くして緋ノ本に召喚された転生者、セシリア・イシュトバーンの処遇について女神エクレールと転生者:伊達恭士郎が話し合った結果は以下の通り。


・現地語の教育と奇跡(スキル)についての教育はエクレールが行う。

奇跡(スキル)の実技の教育および生活に必要な教育は恭士郎が行う。

・セシリアが独り立ちするまでの生活費は恭士郎が持つ。


「こんなもんか」

「いいんじゃない?」

まあ後はやりながらでいいだろう。

そこまで話したところでセシリアが部屋に入ってきた。

「おう、どうしたチビ」

セシリアは緑色の瞳で二人を交互に見る。

「オフタリハ・・・」

セシリアは覚えたての日本語を一語ずつゆっくりと紡いで問う。

「オヨツキ、ハ、ツクラナイ?」

「ぶはっ!」

「うおっ、きたねえ!」

突風(ゲイル)

問の内容に女神が

口に含んだ茶を吹き出し、恭士郎が風の奇跡(スキル)で跳ね返した。

「げほ、ごほっ・・・」

顔面を茶で汚しながら気管を暴れ回る茶に苦しむ女神に代わって恭士郎が答える。

「お預けだ。お前が早く寝ないからな」

「ソウ、テスカ・・・」

残念そうなセシリアの様子に恭士郎は問う。

「で、なんでそんなこと聞くんだ?」

セシリアは白く小さい手、その薬指に付いた指輪を見せる。

「ワタクシ、オイケン、サマノ、オヨツキ、ツクラナイト」

女神は聞いている。

セシリアが幼くして政略結婚で歳の離れた王子のもとに嫁いだこと、嫁いだ先でいじめられていたこと、夫になった王子だけは優しかったこと。

いつか恩返しがしたいと言っていたけどまさかこんなことを言い出すなんて思わなかった。

「ツクリカタ、オシエテ、クタサイ」

言ってる内容のぶっ飛び具合に対してセシリアは真剣だった。

「くだらねえ」

その真剣な眼差しを恭士郎はその一言で片付ける。

ああもう、この男はいつもデリカシーがない。

言ってる内容はともかくセシリアちゃんは真剣なのに。

そう言いたいが気管に入った茶のせいで言葉にならない。

「テモ・・・」

「お前みたいな貧相な腹から貧相なガキが出てきたって喜ぶやつはいねえよ」

こいつ言葉を選ばないにも程がある。

セシリアちゃん泣きそうになってるじゃない。

なにか文句の一つも言ってやると女神が考えていると恭士郎はセシリアの前にしゃがみ込む。

「いいかチビ、いいガキを産みたきゃ丈夫な腹とでかいケツがいるんだ。わかるか?」

セシリアは首を振る。

「勉強になったな。丈夫な腹とでかいケツの作り方は分かるか?」

セシリアはまた首を振る。

「じゃあ教えてやる。早く寝て、食って太れ」

セシリアはキョトンとした目で恭士郎の顔を見ている。

「遠回りはねえぞ」

セシリアは恭士郎の鋭い顔を見る。自分の顔が映った茶色の瞳はまっすぐセシリアに向いている。

子供特有の感覚か、セシリアは恭士郎が口から出任せを言っているわけではないことが理解できた。

「ハイ」

だからそれ以上何も言わず恭士郎に背を向ける。

「早く寝ろ。明日寝過ごすなよ」

セシリアが部屋を出ると恭士郎は女神に向き直る。

「おい女神」

「何よ」

「あのことはチビに言ったのか?」

「何のこと?」

「あいつが元の世界に戻れないって話だ」

恭士郎はいつものような声量ではなく、耳打ちするような小さな声で聞いてきた。

「言ってないわよそんなの」

「上出来だ。チビには黙ってろ」

「言われなくても言わないわよ。あんたと違ってデリカシーってもんがあるの。少なくともあたしは」

二人は理解していた。セシリアは不安なのだ。

10歳にもならない子供が身一つで見たこともない、言葉も通じない世界に送り込まれたのだ。不安になるなと言う方が無理だろう。

「俺らは所詮他人だからな」

今のセシリアにとって、今ここにいない王子だけが心の支えだということを二人は理解していた。

そしてその支えを奪うほど二人共野暮ではなかった。

「スコットの野郎は2万と言ったが、俺は5万出してもいい」

「何に」

「女神サマの首から下にだ。作るか?お世継ぎ」

「クソして寝ろ!」




「つまり、奇跡(スキルを使うには2つの力が必要になるの」

女神エクレールは二人の生徒に奇跡(スキル)についての知識を教えている。

生徒1:セシリア・イシュトバーン

雪のような肌とパッチリした緑の目をした天使のような美少女は背筋を伸ばして真面目に授業を受けている。

独特な価値観を持っているけど育ちがいいのがはっきり分かる。

こういう生徒がいると非常に快適だ。

エクレールはホワイトボードに棒人間と地面と木の絵を書く。

「2つの力、あたし達は天力と地力と呼んでるこの2つなんだけど」

天力を棒人間、地力を背景に書く。

「天力と言うのは転生者が持つ力、地力は世界に満ちている力のことなの。奇跡(スキル)は天力を使って地力に干渉することで発生させることができるの」

天力が多い転生者はより多くの地力に干渉することができる。

しかし、天力が多くても地力が希薄な世界では大した奇跡(スキル)にはならない。

せいぜいスプーンが曲がるくらいか。あるいはダウジングマシンを開かせるくらい。

「日本にいたとき俺の目からビームが出なかったのは地力が希薄だったから、という理解でいいのか?」

生徒2:伊達恭士郎が話を遮ってきた。

鋭い顔つきと同じ鋭い質問だ。さっきまで窓際でタバコ吸ってたとは思えない。

自分の目の前で吸われたらうっとおしいから窓際に追い払ったのはエクレールだが。

「そうよ」

そしてその理解も正しい。

「あたしの仕事ってのが、あんたみたいに強い天力を持って地力が希薄な世界に生まれた人間を地力が濃密な世界に送り込むこと。適材適所ってやつね」

恭士郎はエクレールの話に少し思案すると机に置いてあった分厚いチューブファイルを見せてきた。

「今の話だと天力ってのは、おそらくこの理力ってやつだな。地力については記載がないが、理由が分かるか?」

「なにこれ」

「外人部隊配布のスキルマニュアルだ。この世界でも研究はされてるらしい」

「えっ!?」

冊子を見ると先程エクレールが教えていた内容とほぼ同じ内容が書かれてる。

というより、チューブファイルの厚みからしてかなり研究が進んでるんじゃないだろうか?

ていうかこの世界の人間、奇跡を研究しようとか、神に対する畏れというものはないんだろうか?

「じゃあなんであたしに教わってるのよ」

「最近は予算不足で改訂が遅れがちなんだと。『帳簿係』のおっさんがぼやいてたんだよ」

だから新しい情報がないか知りたかった、ということらしい。

チンピラみたいな顔の割に勤勉な男だ。

「エクレール?」

そこにセシリアが加わって来た。

「コノ、チリョク、テスカ、ワタクシノ、クニ、セイレイ、ヨンテ、マス」

「お、何だチビ分かるのか」

「マホウ、イイ、マス。マリョク、テ、セイレイ、ニ、カタリ、カケマス」

「話が早いな。これなら今日のうちには一つくらい奇跡(スキル)がモノになりそうだ」

「そんなに急ぐことないと思うけどな―」

二人の生徒は予想外に飲み込みが早そうだった。

エクレールは最初の板書を消すと3つの項目を新たに書き込む。

「じゃあ次行くわよ。奇跡(スキル)には3種類あるの」


・アクティブスキル

・パッシブスキル

・バフ


「この3つは発動条件で区別されるんだけど」


・アクティブスキル


これは使用者が自分で発動する奇跡(スキル)


「例えば、火炎弾(ファイアボルト)

手本としてエクレールが自身の手から火球を出す。

「俺のより小さいな」

それを見た恭士郎も同じように火球を出すが、その大きさは野球ボールとサッカーボールくらい違う。

「それは、奇跡(スキル)の性質が使用者によって変動するからよ」

エクレールが投げた火球は外の外来植物に当たって葉っぱを燃やしたが、恭士郎のそれは枝を焼き払った。

「大きさが違うのは純粋にあんたの天力があたしより高いから」

同じ奇跡(スキル)でも使用者が変われば威力も精度も違う。

また、訓練していくことでそれらは向上することができる、とエクレールは説明する。

「熟練者になると一度に2つ奇跡(スキル)を発動できたりするわ」

「ソウ、テスカ」

真面目な顔で聞いているセシリアの肩を恭士郎が叩く。

「難しく考えなくても慣れりゃ4つくらいは同時に出せるぞ」

エクレールは、は?という顔だ。

「それより上を目指すと難易度は上がるがな。俺に奇跡(スキル)を教えたババアは火球を同時に10発、自動追尾付きで出してたが、そこまでやれとは言わねえよ」

「いやいやいやいや」

このチンピラは何を言ってる?

普通の転生者は何十年もかけて練習して2つ、3つがいいところだ、とエクレールは聞いているし、他の世界に送って英雄的な活躍をした転生者でも2つ同時がたまにいるかいないかなのに。

「ねえ、あたしやセシリアちゃんにいいカッコしたくて適当なこと言ってない?」

恭士郎はやれやれと両手を出すとそれぞれ2個ずつ火球を作り出した。

「簡単だろ?」

「いや、それ、え、うん・・・」

そう言うとまた何かの奇跡(スキル)を使って火を消す。

「え、今の何?」

「風を起こす奇跡(スキル)の応用だ。火の周辺に窒素を集めて燃焼を停止させた」

「いや、風を操るって、原子の比率まで操作するって、そんなのできるなんて聞いてないわよ!」

「だろうな、俺もできるようになるまで一年かかった」

と恭士郎は手についた煤を払う。

「いやいや、普通そんな奇跡(スキル)の使い方しないわよ!」

「するだろ。タバコの消し忘れがなくなって便利だぞ」

「それはあんただけよ!」

なんだこの技術の無駄遣い。

頭を抑えながらセシリアを見ると、セシリアは何かを詠唱しながら、ピンポン玉くらいの大きさの火球をだした。

「テキ、マシタ・・・」

「え、凄っ!?」

転生者はこの世界に送られる前に、ある程度の奇跡(スキル)を覚えさせてから転生する。

このとき覚えてない奇跡(スキル)は新たに覚えることが可能ではある。

可能、ではある、だ。

普通の転生者は新たな奇跡(スキル)を覚えることなく一生を終える。

むしろそれが普通。

なのにこの子は、あたしと恭士郎がやったのを見ただけで『覚えた』。

すごい才能だ。

「駄目だな、こりゃ」

エクレールの驚嘆とは裏腹に恭士郎の反応は薄い。

「この程度の火球で倒せる外来種はまずいねえよ」

「いや、あんた、少しは褒めるとかしたらどうなの?」

この子相当優秀だよ?と言おうとするエクレールに対し、恭士郎は部屋の隅に置いてあった自動小銃を見せる。

「中途半端な奇跡(スキル)は当てにするな。チビの火の粉よりは銃のほうが強い」

セシリアは怯えた様子で身を竦ませる。

恭士郎の持つ自動小銃がどういうものか、恭士郎が嘘を言ってないことをわかっている者の反応に、恭士郎は自動小銃をエクレールに渡す。

恭士郎から見て、女神の奇跡(スキル)も銃より弱いということらしい。

「はあ・・・」

「女神、次進めてくれ」


・パッシブスキル


これは、覚えてさえいれば特定の条件が満たされると自動で発動する。


「あたしが使ってる『自動翻訳』がそれね」

エクレールが全く異なる言語の二人と意思疎通できているのはこの奇跡(スキル)の効果だった。

これは、転生先の世界と転生者の言語体系が大幅に異なる場合、転生前に付与される奇跡(スキル)でもあった。

「じゃあ俺やチビがそいつを覚えてないのはどういうことだ?」

それについても理由がある。

奇跡(スキル)の発動には天力が必要になり、この点において例外はない。

「天力は有限なの。パッシブスキルは使用者の意思関係なしに発動するから、パッシブスキルが立て続けに発動すると、自分が使いたい奇跡(スキル)が使えなくなる、なんてこともあるのよ」

自動で発動するのは強みではあるが、同時に弱点にもなりうる。

パッシブスキルを覚えすぎて、同時発動で天力を使い切って死亡する転生者も結構な数存在する。

だから覚える必要がない対象には覚えさせない。

「ほんとはセシリアちゃんにも覚えさせるんだけどね・・・あのババア・・・」

「つまり言葉を自力で覚えりゃ余計なことに理力を使わなくていいんだろ?」

「そうよ。だからセシリアちゃんは頑張って日本語覚えてね」

「ハイ」

「それで最後が・・・」


祝福(バフ)


これは常時発動している効果だ。

祝福(バフ)の効果により転生者は様々な恩恵を受ける。


例えば身体能力の向上だったり、怪我が早く治る、と言った恩恵だ。

これも効果に個人差はあるが、発動するたびに効果は増大していく。

「スコットの野郎の馬鹿力もそうだが、古株の転生者には歳取らねえ奴らもいるな」

「あんたも大概だけどね。で、セシリアちゃんはレアな祝福(バフ)がついてるわ」


祝福(バフ):状態異常無効


毒や疾病への完全耐性。

これを持ってる転生者は少ない。


「これがあると風邪も引かないわよ」

「そりゃ便利だ」


奇跡(スキル)についての説明はこれで全部ね」

「そうか、ちょうど昼前だな。飯にするか」

エクレールがそう言うと恭士郎はセシリアを連れて外に出ようとする。

「どこ行くのよ」

「外に蛇を取りに行くんだよ」

ついでに食料の取り方も教える。そういってセシリアにごついナイフを持たせる。

分厚い刃にギザギザが付いた本格的なやつだ。

「ていうか、あんた蛇好きよね」

「鶏肉みたいでうまいだろ?」

「鶏肉の方がいいわよ!」

「トリニク?」

「今度食わせてやるよ。飯食ったら家の修理を手伝ってもらうぞ。あちこち隙間風が入ってきてるからな」






To_be_Continued.

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