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異世界防衛戦線-刃と翼編-  作者: ミネアポリス剣(ブレイド)
序章2
22/23

22.三災獣(トライディザスター)-4

22.三災獣(トライディザスター-4



倒した外来種の中に子供がいる。

子供は親の死骸の中でまだ生きている。

チビ、セシリアはそう恭士郎に言った。

「そうか」

恭士郎は緋本刀(ひほんとう)を雌の死骸に向ける。

今回の任務(クエスト)の内容は『討伐』だ。

生かしておく必要はない。

むしろ生かしておいたら、その外来種が成長してまた依頼主の旅団を襲いかねない。

そうなればあとあと責任問題になりかねない。よし、殺そう。

そのまま腹に刀を突き込んでとどめを刺せば終わりだ。

恭士郎の携帯電話に着信があったのはちょうどそこまで考えたときだ。

「はい、外人部隊、伊達です」

電話の主は恭士郎の取引相手だ。

「お世話になりますベルンハルト財団東城です緋本原(ひほんばら)旅団から新種外来種の討伐に向かったとの情報を受け電話いたしましたお手数ですが現在の進捗を教えていただけないでしょうか?」

ゆっくり喋れよ。

言って直るとも思えないので声には出さない。恭士郎は三体いた新種のうち二体を討伐したことを伝える。

「ああちょうど良かった実は財団の外来種解析チームから要望がありまして新種外来種の『生きた』サンプルがあれば財団にお譲りいただけないでしょうかもちろん報酬は出させていただきますよまた回収後に解析結果は旅団と外人部隊に展開させていただきたいと考えています」

「いくら出す?」

「解析チームは3000万縁を提示しています」

いい価格だ。旅団の報酬より高い。

この追加報酬があればチビを買い取った時に作った借金も返済できる。

恭士郎は金を借りるのが嫌いだった。

日本で公務員やってたころはローンを組まずに現金を貯めて車を買うくらいには借金が嫌いだった。

たとえ勤務地がド田舎であっても。

これは外人部隊では異質に取られる価値観だった。


ーおめー変わってんな!金は借りるに限るぜ!貸した奴は寝首を掻かなくなるし死ねば返さなくていいんだからいいことずくめだぜ!


これを言ったのは歩く借金スコット・スコフィールドだが、この考え方はスコットに限ったことではなく外人部隊の主流の考え方だった。

だが恭士郎には関係ない。

人から金を借りている。

その状態こそが極めて不愉快で許しがたい状態だ。

許しがたい状態は正さねばならない。

たとえどんな手を使ってでも。

そういうわけで借金がなくなるこの提案は是非受けたい。

既に討伐した外来種とその付属物は恭士郎の持ち物にするということで旅団とは握っている。

財団からの報酬も全て恭士郎のものになる。

皮を剥ぐためにやった握りだが役に立った。

「よし、その話乗ったぞ」

「ありがとうございます」

できれば価格交渉してもう少しつり上げたいところだが、外来種のサンプルを欲しがる競合他社に心当たりがない。

あれば相場も分かるだろうが、こればかりは仕方がない。

「ところで」

「はい」

「お前、産婆をしたことあるか?」

「あるわけないでしょそんなの」

「奇遇だな、俺もだ」



「お前ら働け!追加報酬がかかってるぞ!」

状況は急に忙しくなった。

「えっと、まずお湯を準備してください!あとは綺麗な布がいります!」

遠隔で研究員の東城が指示を出す。

「アイシン!湯だ!布は車にある毛布を使う!」

「分かった!」

女神エクレールは文句を言わない。言おうとしたが追加報酬と聞いて言うのをやめたのが正解だがとにかく車を取りに巣穴の外にすっ飛んでいった。

「チビ!来い!」

セシリアを呼ぶ。やってもらうことがある。

「腹を切る。ガキの場所を教えろ」

セシリアは雌に子供がいることが分かっていた。恭士郎には見えない精霊というものが見えるからなのか、その能力が使えるかもしれない。

この状態では腹を切って子供を取り出すより他ないがその際に子供を斬り殺しては元も子もない。

セシリアは死体の腹部をなぞる。

わずかに精霊の動きが見える。子供はまだ生きている。

「場所は分かるか?」

セシリアは首肯、精霊は胎児の体を包むように展開している。かろうじて輪郭が分かる。

「こいつで切る場所に印をつけろ」

恭士郎に渡された狩猟鉈を刺そうとして分厚い表皮に遮られる。

「よく見ろ、筋肉の目に沿って切れ」

それならチビの貧弱な腕でも刺せる。

言われた通りに刃を立てるとわずかに刃が入る。

「刃を引け」

刃を引いて浅く切り込みを入れる。

胎児を傷つけない位置を恭士郎に指示するのだ。

「いいぞ、後はやる」

恭士郎は緋本刀(ひほんとう)をセシリアがつけた切り込みに刺し込む。

セシリアがわずかしか切り込めなかった分厚い肌をあっさりと穿つ。

恭士郎はタバコの煙を刀身に吸わせる。

大気操作の奇跡(スキル)によるものだ。

刀身の周りに空気を集める。

「チビ、方向を指示しろ。ガキに当たりそうになったら止めろ」

恭士郎が刀身に精霊を集めたことで、刀と胎児の位置がセシリアには見えている。

「スコシ、ミキ、テス」

セシリアの指示に沿って慎重に刃を進める。

子供に当たったら追加報酬がパーだ。

チビがいなければ断ってた案件だ。

こいつは育てれば伸びるかもしれん。

「よし、切れたぞ」

時を同じくしてエクレールが戻ってくる。

「お湯と毛布を持ってきたわよ!」

ついでにあと二人労働力がいる。

「せ、セシリアちゃん、はぁ、はぁ、僕がきたからにはもう大丈夫だ・・・」

「サンプルの受領に上がりました財団のキャラバンが外に控えています」

任務(クエスト)に同行していたランドセル男とベルンハルト財団の研究員だ。

女神が車を取りに行く道中で見つけて拾ったらしい。

「よし、お前ら手伝え!ガキを引っ張り出すぞ!」

「了解」「キャラバンには生命維持装置があります」

男手が増えたのはありがたい。

恭士郎が腹の開口を広げ、残る二人が引っ張り出す。

中からは親をそのまま小さくした外来種が体を丸めていた。

「頭部はこの時点では一つだけなんですね成長の過程で増えるのかそれとも雌雄の違いによるものか興味深い」

「若造、無駄話は後にしろ」

「あれ、出てこなくなった?」

「へその緒が絡まってますね」

「よし、切ろう」

へその緒を切り胎児を取り出す。

これで一安心か。

「あれ、こいつなんか息してなくない?」

え?

「本当ですこれはまずいですよ首を上に向けて速やかに気道を確保しないと」

ここまできて死産かよ。

冗談じゃねえぞ俺の追加報酬はどうなるんだ?

「よし、首を上に向けた。この後どうする?」

「小職に言われても回答しかねます。人工呼吸ならやりませんよ!」

「お前ら落ち着け!」

落ち着けといった恭士郎も何か策があるわけではない。

持ち上げたり揺さぶったりして何も起こらない。

おろおろと慌てふためく男どもを見て、セシリアは冷静さを取り戻していた。

セシリアは自身の周りに精霊を呼び寄せる。


風鎚(エアハンマー)


そして、空気の塊が胎児の腹部に命中した。

「チビ!てめえ何して

やがる。という言葉は胎児口から飛び出した大量の羊水によって遮られた。

羊水が詰まって息が出来なかったのだ。

「ほら、あんた達、早く暖める」

エクレールが湯と毛布を持ってきた。

とりあえずこれで窮地は脱したわけだ。

恭士郎は新たなタバコに火をつけようとして失敗。

「くそ、今のでしけっちまった。おい若造、タバコくれ」

「小職は吸わないので持ってません」

クソ野郎が。




一命を取り留めた三災獣(トライディザスターの子供はベルンハルト財団の武装キャラバンに収容された。

「それでは、報酬は後日振り込ませていただきます」

走り去るキャラバンの後部、ノギスと稲妻が交差したロゴが見えなくなったところで次の作業に入る。

「皮を剥ぐぞ。お前ら手伝え」

目の前には討伐した三災獣(トライディザスターの死骸が二つ。

討伐した雄と巣穴から運び出した雌のものだ。「いいかチビ、外来種の皮や骨は企業や旅団が買うことがある。できるだけ死骸を損傷させずに討伐するよう心がけろ」

恭士郎はこのことを『帳簿係』から教わった。あのおっさんも若い頃は『狂犬(マッドドッグ)』と呼ばれた腕利きで、外来種の皮や肉を売って小遣い稼ぎしていたということだ。

『帳簿係』は『軍曹(サージ)』に教わったと自慢していたが、恭士郎は『軍曹(サージ)』とは面識がないのでどこが自慢なのかは分からなかったが。

まずは図体のでかい雄から皮を剥ぐ。

狩猟鉈を刺して肉から引き剥がしていく。

内側から皮を破らないように慎重にやらねばならない。

こういうことは何度も失敗して覚えるしかないし、実際恭士郎は何度も失敗した。

皮を剥ぎ終わるとピックアップトラックに積んでいたロープを近くの木に繋いで皮を吊す。そこから狩猟鉈の峰で皮下脂肪をこそぎ落としてバケツに入れる。

「チビ、お前は脂を取れ。俺はもう片方の皮を剥ぐ」

狩猟鉈を渡されたセシリアは恭士郎がやったように狩猟鉈の峰を使って脂をこそぎ落としていく。

これは相当な重労働だった。皮の内側に張り付いた脂は少し力を込めたくらいでは取れず、力を入れすぎると皮を傷つけるかもしれない。それに、セシリアの背丈では上側の脂を落とすには背が足りなかった。

「せ、セシリアちゃん・・・困ってるね・・・肩車してあげようか・・・」

「やかましい!お前はこっち手伝え!」

セシリアに近づいたランドセル男にエクレールが鍋で沸かしていた熱湯をかける。

「あぢぢぢぢ!なんだこのババア!」

「やるかこの野郎!」

生産性のない争いを横目にセシリアは上を見る。

木の間から渡り鳥が南へ向かうのが見えた。

翼を広げて空を滑る渡り鳥を見ながら恭士郎が言っていた言葉を思い出す。


奇跡(スキル)を操作するのはイメージすることが重要だ。奇跡(スキル)を使ってやりたいこと、やったらどうなるか、それらがしっかりイメージできるほどうまく操れる。


イメージする。小さいものを高い場所へ運ぶイメージ。

空を渡る鳥のようなイメージ、翼のイメージ。

ーアクティブスキル:飛翔


セシリアの背中に青い、光の翼が出現するとセシリアの体を上に持ちあげる。

「え、ちょ!?」

エクレールは驚愕する。人間が空を飛ぶほどの奇跡は高度などというものではカタがつかない。

勇者とか救世主とか、一人いれば一つの世界の問題が全て片付けられるレベルの有力な転生者が生涯の半分を費やして研鑽して出来る『ことがある』くらいの代物で、9歳の子供が鳥を見てたら覚えられるようなものではない。

それをこの娘は使いこなしている。

しかも、空を飛ぶだけではなく、セシリアは体を空中に制止させている。

すごい集中力と精度だった。

「せ、セシリアちゃん・・・落っこちたら危ないから下で受け止めてあげるよ!うお!?熱っ!?熱い」

下からセシリアをのぞき込もうとしていた変態に熱湯をぶっかける。

「チビ、そっちが済んだら次はこっちだ」

恭士郎はすでに雌の皮を剝ぎ終えていた。

「あ、そっちはやります」

雌の方はランドセル男がやることになった。

「いいか、皮を破くなよ?」

この5分後にランドセル男は恭士郎にチン毛を燃やされることになる。



セシリアがこそぎ落とした脂はエクレールが湧かしていた湯の中に投下された。

脂身から脂を抽出するためだ。

「うお!?危な!?」

脂がはねて暴れ回る。

はねなくなったら出来上がりだ。

その間に死骸の頭をかち割ると脳みそを取り出す。

脳みそは皮をなめすのに使える。

これも『帳簿係』の入れ知恵だ。

セシリアに取り出した脳みそを皮に塗るように指示する。

その間にこちらは肉を捌いておく。

部位ごとにバラしたら串にさして煙で燻して燻製にする。

脂がはねる鍋の風下に突き刺す。

食えるところは持って帰って食う。

風上側にも肉を置く。骨に近い部位、これはそのまま食う。

哺乳類側に近い上半身と鳥類側に近い下半身で肉質が異なるので苦労したが、バラしてしまえば割とどうとでもなる。

「チビ!脳みそ塗ったらこっちに来い!飯にするぞ」




「なかなかいけるな」

三災獣(トライディザスターの肉は食用にするには悪くなかった。

肩や胸の部分は濃厚な旨味と締まった筋肉の噛み応えがいい。

染み出した脂で米が食いたくなる。

エクレールが作っていた飯盒から直に飯をかき込む。

肉自体の味がよく出ている。

塩胡椒くらいあればいいかと思っていたがそれすら必要なさそうだ。

翻って、下半身側はチキンのような淡泊な味わいだ。肉が裂けやすく食いでがいい。

「あんた、よくそんなに食べる気になるわね」

エクレールは恭士郎の食いっぷりにいつも驚かされる。

体格はいい方だが巨漢と言うほどではないその体躯のどこに肉が入るのか分からない。

肉がうまいのはエクレールも異論はなかった。

「股が熱い・・・」

ランドセル男は股間を庇いながら肉を食う。

最後にセシリアだが、飯盒を持ったままぐったりしている。

「あんたがこき使うから疲れちゃってるじゃない」

エクレールの非難も恭士郎は意に介さない。

「一休みしてから食えばいいだろ」

恭士郎はぐったりしたセシリアの肩を叩くと抽出していた脂を持って、火で乾燥させていた皮に塗っていく。

これで固くなった皮を柔らかくする。

脂を出し切った脂身は肉カスとして回収して後で酒のつまみにしよう。

残った脂の中にはバラしきれなかったくず肉を投入して揚げる。

厚みがありすぎる部位は油で揚げれば火が通る。

フライドチキンと思えばいいか。

「おいチビ、肉が冷めちまうぞさっさと食え」

「無茶言うな」

食っていて、ふと思いついた。

「これ、レバ刺し食えるんじゃね?」

善は急げで恭士郎は外来種の肝臓を取り出して切るとそのまま口に放り込んだ。

「あんまうまくねえな」

残りのレバーは焼いて食うことにする。

ニラがあればレバニラ炒めに出来るが、レバーは足が早いからすぐに食った方がいい。

残った食い切れない部分は腸に詰めて持って帰ろう。

皮が出来上がるまでもう少しといったところか。

皮が出来上がったら旅団に報告、二枚ある皮の一枚を証拠品として提出することになるだろう。

新種の外来種だったが、討伐してみれば捨てるところがない優良物件だった。

「チビ、今回の働きは外人部隊に俺から報告しとくぞ」

半ば眠りこけているセシリアに恭士郎は淡々と告げる。

「報告して、どうなるの?」

米を食いながらエクレールが訪ねる。

任務(クエスト)をこなした実績として集計される」

実績が積み上がれば、次の仕事も来る。

積み上げた実績は独り立ちした後で飯の種になる。

それは外人部隊に所属する転生者にとっては金や肉にも勝る報酬だった。

「ああ、僕の方も報告しといてください」

ランドセル男も便乗してきた。

「報酬も後で支払ってやるよ」

今回の任務(クエスト)、突発ではあったが、思いの他得るものがあった。

「よし、皮が出来たな。お前ら撤収すっぞ」

一行はピックアップトラックに報酬を目一杯詰め込むと緋本原(ひほんばら)への岐路についた。


任務(クエスト)三災獣(トライディザスター討伐


参加者:20名

逃亡:10名

死亡:7名



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― 新着の感想 ―
[良い点] セシリアちゃん、大活躍! そしてさよならチン毛……。
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