17.Chase-1
執筆に使っていたポメラを紛失したので書き直しになってしまった。悲しい。
ルーキーははじめちょい役立ったけどなんか出番増えた。
17.Chase-1
セシリア・イシュトバーンと女神:エクレールは町中を走る。
後ろには二人を追う3人の男。
セシリアは考える。この状況をいかに脱するかを。
かつての伴侶、オイゲンの言葉を思い出す。
物事はコインの裏表だと、ある側面からでは短所になる事柄も、見方を変えれば長所になる。
セシリアの体は小さく、細かった。
これでは世継ぎを作れないとイシュトバーン家の家臣に嘲笑された短所だったが、それが長所になる局面が今だった。
追手を撒くには大人が入れない狭く、入り組んだ道を選べばいい。
そうすれば追手はついてこれないだろう。
幸いなことに、このヒホンバラという町は狭路や隘路が多く、セシリアだけが潜り込める道は多くあった。
「あー、そこ無理、入れない・・・」
セシリアの示した道に異を唱えたのは薄黄色の髪の女神で、今セシリアを保護しているキョウシロウの愛人だった。
セシリアの脳裏に愛人を見捨てる選択肢が即座に浮かび、消す。
今この愛人を失うのはまずい。
セシリアには蛮族に奪われたイシュトバーン家の家宝を取り戻す使命があった。
その使命を完遂するのは今のセシリアでは不可能だった。蛮族が操る火を吹く杖と鉄の馬は今のセシリアが敵う相手ではない。
キョウシロウが現れなかったら今頃は鉄の馬に踏み潰されていた。
なぜキョウシロウが自分を救ったのかはわからない。
分からないが、家宝を取り戻すには有力な貴族であり強力な魔道士でもあるキョウシロウの協力は不可欠だった。
セシリアは先祖還りと呼ばれる体質で、精霊が見える能力があった。
イシュトバーン家では気味悪がられてたけど、オイゲン様だけは素晴らしい才能だと褒めてくれた能力だ。
キョウシロウは大掛かりな儀式も詠唱もなく風の精霊を操る能力があった。
あれほどまでに精霊に愛される人間が存在するといっても誰も信じないだろう。
それほどまでに有力な魔道士でありながら、キョウシロウの底は未だ見えない。
キョウシロウが見せた火の精霊を呼ぶことなく小さな火種を炎に変える魔法はセシリアの理解を超えていた。
さらにキョウシロウはその理解を超えた技術を惜しげもなくセシリアに教えるとまで言ってきた。
セシリアの理解が及ばない極めて高度な魔法すら、キョウシロウにとっては取るに足りない児戯に過ぎないということなのだ。
だから今愛人を失うのは非常にまずい。愛人を見捨てたとなればキョウシロウの協力が得られなくなるリスクが極めて高い。
「コッチ!」
作戦を考え直さなければ。何かこの愛人を生かした状態で追手を撒く手段を考えなければ。
「ちょっと、セシリアちゃん・・・待って・・・」
愛人はすでに息があがり始めていた。
「いやー売れた売れた儲かった!じゃあ俺様はスーパーカーを買いに行ってくるぜ!じゃーなー!」
「私もここまで、緋本原支部には行っとくこと」
港でもらったキャビアを金に変えたあとスコット、アンジェリーナと別れたルーキーはこれからのことを考える。
まず第一に考えないといけないのは住む場所の確保だ。
思えば、転生してから今の今まで住む場所の心配したことは一度としてなかった。
転生したての頃は外人部隊に拉致されて訓練の名目でほかの転生者とタコ部屋に押し込まれてクソまずい飯が出ていた。
この生活は外来種の討伐任務をバックレて脱走したことで終わりを迎えた。
一緒に出撃した他の転生者はルーキーより5秒だけ勇気が長続きして、全員外来種に食い殺された。
仲間の死は証明してくれた。あのときの判断は10000000%正しかったと。
タコ部屋を失ったあとの住む場所はすぐになんとかなった。
金に困って通行人に助けを求めていたら警察と呼ばれるこの世界の治安部隊に拘束されて留置場に送られた。
自動小銃を向けられたとき、すぐに降伏し抵抗の意思がないことを示したにも関わらず石を詰めた靴下でタコ殴りにされたが、屋根の下で寝られるなら耐えられた。
野宿して生きたまま外来種の餌なるよりマシなのは明白だし留置場の飯はタコ部屋より人間の食い物に近いものが出た。
そしてタコ殴りにされた痛みが引ききらないうちに留置場の生活はあっけなく終わった。
ヤクザと呼ばれるこの世界のマフィアが襲撃をかけてきた。
警察より優れた装備と練度を持ったマフィアは瞬く間に警官を挽肉に変えていった。
どうにも、警察が撃った弾が幹部の娘に当たったとかでその報復で襲撃を受けたということらしい。
完全に破壊された自分の房から引きずり出されたとき、泣きながら命乞いしている警官が尻穴に爆弾を突っ込まれて爆殺されるのを横目で見た。
特に念入りに殺されてたことからそいつが幹部の娘を撃ったという警官だろうか?
真相はもう分からないが、自分を石を詰めた靴下でタコ殴りにした警官なのは間違いないので多少気分は晴れた。
ヤクザに捕まったあとは『牧場』と呼ばれる施設で飼育されていた。
なんでも、転生者の臓物は祝福と呼ばれる機能強化があり、臓器移植に使用した際に拒絶反応が出にくいからそれなりの値段になるらしい。
大事な売り物だからということで『牧場』ではまともな飯が出た。
栄養配分も考えられてて『牧場』の転生者は自分含め目に見えて健康になっていったが、健康になりきった転生者はどこかに連れて行かれて二度と戻ってこなかった。
さすがにまずいと思って一度脱走を試みたが失敗した。
転生時に授かった奇跡を使ってヤクザに抵抗したが、ルーキーの技量では自動小銃に勝つのは無理だった。
奇跡で一個火球を作る前に鉛玉が10発以上飛んでくるんだから勝負になるわけがない。失禁しながら泣いて許しを乞う以外に選択肢はなかった。
反乱への制裁として電流が流れる警棒で下の穴から固体と液体をすべてひり出すまで感電させられた。
連帯責任として同室と隣室の転生者も同じ制裁を受けたらしく、そのことを恨まれて他の転生者からリンチを受けるようになり自分の人生を諦めたとき、救いが現れた。
「異人の活きのええやつ、20人ほどくれや」
港湾労働者組合、港町の漁師だった。
外洋で海洋性の外来種と戦闘を行うための『消耗品』を買いに来た漁師にヤクザは渋面を作った。
ヤクザからしたら分解してパーツ単位で売ったほうが利益率が高いから当然の反応だった。
当然の反応をした幹部が蟹切狭で斬り殺されたことで、活きの悪い20人をはした金で提供することになりヤクザは泣くほど喜んだ。
そして漁船だ。
あとは過去の話でわかる通り、艦艇5隻、敵味方合わせて100人の転生者のうち、生き残ったのはルーキーと一つ目の筋肉バカ、愛想のないオバハンの3人だけだ。
はっきり言えることは、漁船はこれまでで一番死に近い場所だったが、これまでで一番飯がうまかった。
ーなんだろう、死に近づくほど飯がうまくなる法則でもあるんだろうか?
その法則が真かどうかはさておき、ルーキーは今このとき衣食住の心配をしている。そのことが死から遠い場所にいることを約束してくれて泣くほど嬉しい。
「コッチ!」「ちょっと、セシリアちゃん・・・待って・・・」
涙でにじむ視界になにか異変があった紫髪の10歳弱くらいの女の子と薄黄色の髪の女が走っている。
黒髪黒目でないところからこの世界の原住民ではない。
薄黄色の髪の女は自分を転生させた女神に似てる気がしたが、女神がこんなところにいるはずがない。
ここに自分が来なくていいように転生者を絶え間なく送ってると言っていたから間違いない。
「逃がすな!追え!」「お前は周り込め!」
どうやら女性陣は追われているようだ。追っている3人組も転生者。
薄黄色の髪の女は息があがってきてたからこのままでは追いつかれるのも時間の問題だろう。
「やれやれ・・・」
ルーキーは上着の中に隠した防火斧の感触を確かめる。
そして速やかに反転。
助けるという選択は存在しない。せっかく安寧を手に入れたのに厄介事にわざわざ首を突っ込むのはバカのすることだ。
あの筋肉バカや愛想のないオバハンのようなチートじみた強さを持った転生者ならバカやっても許されるだろう。
だがルーキーはバカが許されるだけのチートではないことをこれまでの人生で嫌というほど理解していた。
そして、ルーキーは今大量の金を持っている。遊ぶ金ではない。生きて冬を越すための、命を買うための金がキャリーケースの中だ。
もし、3人組のヘイトがこっちに向いて、あろうことかこの金が奪われるような事態になれば、冬を越すためのねぐらは外来種の胃の中だ。
それだけはなんとしても回避せねばならない。たとえ神を殺してでも。
「とりあえず、緋本原支部行こうか・・・」
あそこには屋根があり、仕事があり、戦力がある。
愛想のないオバハンの話では、不動産会社にも口を聞いてくれるということだ。
転生者は身一つだ。この世界に来てしまったら最後、外人部隊から離れて生きることはできない。
一度は逃げ出した場所だが、泣いて許しを乞い、あらゆる手を使って外人部隊に縋り尽くしかルーキーがこの世界で生きるすべはないのだ。
それを理解するにはこれまでの経験は十分すぎた。
ルーキーは防火斧の柄を撫で回しながら注意深くその場を立ち去った。
逃亡劇はあっけなく終着となった。
セシリアとエクレールは袋小路に追い詰められてしまった。
「もうむり・・・走れない」
同時に女神エクレールは疲労が限界に到達しへたり込む。
「はーっ、はーっ、つ、疲れた」「ぜぇ、ぜぇ・・手こずらせやがって・・・」「ハアハア・・・お嬢ちゃん、怖がらなくていいよ。僕と楽しいことしよっか」
鬼側の転生者もすでに息があがっていた。こちらも限界だった。
一人だけ呼吸が荒い理由が異なっているを誰も指摘する余裕がない。
三人の追跡者はジリジリとセシリアとエクレールを壁際に追い詰める。
ジリジリしてるのは走る余力が残っていないからだ。
「くっ・・・」
だがエクレールもすでに走って逃げる余力はない。
エクレールはセシリアを後ろに庇いながらジリジリと後退するしかない。
―どうにかしてセシリアちゃんは守らないと
自分はもう逃げられないけど子供のセシリアはなんとかして逃さなければ。そのために最後まで諦めてはならない。
どんな小さなチャンスも見逃さないよう集中力を高める。
「おいババア邪魔だどけ」
その動きを追跡者の一人が鬱陶しそうに手で払う。
「あ?」
エクレールが一瞬後ろに視線を向ける。前には追跡者しかいないし横は壁、ババアがいるとしたら消去法で後ろしかない。
セシリアちゃんがいた。かわいい。
「テメーに言ってんだよババア!」
「は?」
こいつ何いってんだ?
「ボケたフリしてんじゃねえよ!15歳以上はババアだと義務教育で習うだろ!」
「「いや、習わない」」
キレる一人に距離を取る二人。
「なんであいつ連れてきたんだよ・・・」「知らねえよ勝手に来てたんだよ・・・」
一歩下がって責任の押し付け合いをする二人に構わず一人が前進する。
「おいババア、俺は後ろの淑女に用があるんだ痛い目見たくなかったら消えな。お嬢ちゃんかわいいね僕とお医者さんごっこしようか・・・」
「おい憲兵呼べよ」「俺等が捕まらないならそうしてるよ」
一人はどこからか革製の奥行きのある背負い鞄を出した。
真っ赤なランドセルだ。
「僕からのプレゼント・・・ハア・・ハア・・お嬢ちゃんに似合うと思うんだ」
「なんでランドセルなんだよ・・・」「男の持ちモンだろ・・・」「ツッコむとこそこかよ」「俺の世界じゃ女がランドセル背負ったら10年以下の懲役だぞ」「マジかよイカれてんな」「あいつほどじゃねえよ」
ランドセルを手に進む一人と下がる二人。
そして、後退していた追われる側が一歩前に出た。
「お前ら」
薄黄色の髪の女が両腕を顔の前に持ち上げた。
「言いたいことは言ったか?」
その両手には大型の自動拳銃が収まっていた。
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