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異世界防衛戦線-刃と翼編-  作者: ミネアポリス剣(ブレイド)
漁船編
10/23

10.漁師たち

10.漁師たち



「意外ね、あんたに電話かけてくるような友達いたんだ」

電話から戻ってくると女神(アイシン)が無礼なことを言ってきた。

こいつは親から口の利き方を教わってないのか?

とは言っても、今の世界で恭士郎の電話をかけてくる相手は限られている。

登録した番号の多くは既に使用されていない番号が大半だからだ。

この世界は転生者には優しくない。

「スコットだ。女房と娘がここに来るとさ」

スコットがバカ笑いしながらキャビアをむさぼり食ってる写真を見せると、アイシンこと女神エクレールはスコットが誰かを理解した。

「ああ、あのヤクザから逃げ回ってたデカブツね。子供いたんだ」

女神は目からビームを出す転生者を思い出す。

スコット・スコフィールド。

通称『サイクロプス』

外人部隊が擁する強力な転生者。

戦闘力だけなら現在生存している転生者のなかでもトップクラスの逸材だと『帳簿係』は言っていた。

同時に、今生きている事実だけで転生者の中でも上位10%以上に食い込むということも。

海洋性の外来種と交戦し、20人の転生者が8人に減るほどの激戦を生き延びたあと、アクシデントに見舞われて上陸することになったので電波がつながったついでに電話をしてきたらしい。

というより、チート能力を持って送り込まれた20人の転生者が8人に減るほどの激戦はあのデカブツにとってはアクシデントのうちには入らないのか。

「入るわけないだろ。金にだらしないあいつが招いた必然だ」

恭士郎(こいつ)口が悪いな。親に口の利き方を教わってないのか。

女神はそういう目でチンピラ顔の公務員崩れを見るが恭士郎は気にした様子はないようだ。

「娘にグランドピアノを買う金がないことの方があいつには問題だろうな」

そんな考えだから金が逃げていくんだ。

と説教くさいことを言いながら恭士郎はタバコに火をつける。

さっきまでずっとタバコ咥えててまだ吸い足りないのかこいつは。

「おいチビ!」

恭士郎は煙を一息吸い込んでから工具の片付けをしているセシリアを呼ぶ。

「明日から算数を教えてやる」

「あら?どういう風の吹き回し?」

「まともな金銭感覚を身につけさせる。あいつ等みたいに漁船に乗りたくなければだがな」

「オネカイ・・・シマス」

ちょっと待て、さっきこの公務員崩れ、あいつ『等』って言わなかったか?

あのデカブツみたいなのが他にもいるの!?

「チビ、子供は寝る時間だ。明日は早いぞ」

「ハイ」

女神の驚愕を一顧だにせず恭士郎はセシリアを寝かしつけにいってしまった。


ー港


「あんんんんの!クソ役人がああああああああ!!!!!」

港の酒場は怒号が飛び交っていた。

政府の駆逐艦による被害者は海燕丸だけではない。

漁に出ている間に何隻もの『罪もない民間船』が臨検の名を借りた略奪に遭っていた。

かろうじて注水区画に隠していた分のキャビアは守り切ったため、ヤケ酒を飲む金は残ったがこれが続くようでは仕事にならない。

「しかし、あの駆逐艦、ずいぶんあっさり引き上げたよな」

野菜と潰した芋のサラダをもりもり食いながら転生者:スコット・スコフィールドは海燕丸の船長に尋ねる。

船上生活ではビタミンが不足しがちだ。転生者の祝福(バフ)ではビタミンは生成できないので食えるときに食う。長生きの鉄則だ。

「ああ、このあたりは『(くれ)』の旅団の哨戒区域やさかい、旅団とやり合うのを嫌ったんやな」

代わりに答えたのはハカセと呼ばれていた若いインテリだった。

曰く、この世界、緋ノ(ヒノモト)は皇帝を頂点とした中央集権を謳ってはいるが、その統治は必ずしも全域に行き届いてるわけではないということだ。

特に首都から離れるほど政府への忠誠心は希薄になっていき、それが行き着いたのが『旅団』と呼ばれる軍閥なんだそうな。

忠誠心が希薄な『旅団』は当然ながら政府とは対立していて小競り合いが起こることは珍しくない。

過去に政府が大きな失政をして地方で大量の死者を出したことが原因らしいが今を生きるスコットには関係ない。

実際、スコットが所属する『外人部隊』にも、政府の要人の誘拐や暗殺の依頼が舞い込んでくることはよくある、逆もしかりだ。

(くれ)の海軍力はたいしたもんやで、新造艦買うたくらいでどうにかなるもんやない」

政府としては『旅団』が力をつけることは面白くない。

だが既に現時点の旅団ですら力で押さえつけるには強くなりすぎている。ということだ。

『旅団』が配置されている場所は資源の産出地であったり交通の要衝だったりする場合が多い。だから資金力はある。

そして、旅団はその資金力をもって企業を誘致し、そこから武器を調達するのだ。

企業としても、予算だなんだと金払いが悪い政府より、政府の小役人に頭を下げなくていい権利のためならいくらでも金を出す旅団の方がよっぽど魅力的なビジネスパートナーだった。そういうわけで、今スコットがいるあたりの港湾は有力な軍閥である(くれ)旅団が押さえており、沿岸砲と巡航ミサイルで武装しているため、港の近く、地対艦ミサイルの射程圏内まで逃げ込めば政府の駆逐艦も手出しが出来ないというわけだ。

そして、あのとき海燕丸は私掠船と戦闘を行っていたため、連絡を受けた(くれ)から巡洋艦が接近していた。政府の駆逐艦の去り際が早かったのはそういうわけだった。

「あの役人ども・・・ただですむと思うな・・・」

とはいえ、政府の駆逐艦の存在は清く正しい労働者たちにとっては目の上のたんこぶ、歯の間に挟まったトウモロコシの破片だ。

駆逐艦がうろついてる海域は現在、大量のキャビアの宝庫なのだ。

何が何でも排除せねばならない。

この事実はここにいるすべての人間の共通認識だった。

「大変だなあんたら。お、そこにいるのはアンジェリーナじゃねーか!」

サラダをむさぼりながら話を聞いていたスコットは見慣れた姿を見つける。

小柄な銀髪女、転生者だ。

「げ、スコット」

船乗りどもの汚い怒号に我関せずちびちびと米の酒を飲んでいたアンジェリーナ・デオロットはスコットを認めると苦虫を噛み潰したような顔になる。

スコットが金にだらしないことは転生者の間では周知の事実だった。

そしてそのことは同時期に転生した同期のアンジェリーナが一番よく知っている。

そのスコットと同じ空間にいるとなれば自分まで金にだらしない社会不適合のクズだと思われてしまうではないか。

「なんだおめーまた訳の分からねーラジコンを衝動買いしたのか?いやだねーいい歳して財布のヒモの締まりが悪いと漁船に乗せられちまうぜ?」

「うるさい」

自分の有様を棚上げして指差して笑うスコットを睨み返す。

スコットのような俗物には理解できないだけで自分は必要なとき必要なモノを必要なだけ買っているのだ。

『たまたま』持ち合わせがなく、『仕方なく』ヒノモトマフィアから金を借りる必要があって『やむを得ず』漁船に乗せられる羽目になっただけでスコットのような無計画なアホと同列に並べられるのは屈辱以外の何物でもない。

どうせこの男は娘のウエディングドレスを買うとかいってシルクワームの養殖場を襲撃でもしたのだろう。

自分とこのウドの大木とはここにいるという事実は同じでもここに至るまでの過程が根本から違うのだ。

「いや違うぞ、買うのはグランドピアノだ。娘は3歳だぞ?そんな気の早い話俺様がするわけないだろ」

「してた」

一ヶ月前はうっとおしいぐらいに吹聴して襲撃計画まで立ててたのを完全に忘れている。

飽きっぽいにもほどがある。

「それよりおめー、一月前に買った戦車のローンの支払いも終わってねーだろ?それで新しいラジコン買ったのかよ。どうかと思うぜ俺は」

スコットはアンジェリーナを見る。

この女とは10年来の付き合いだが全然歳をとった感じがしない。

ついでに言うとスコットより年上だし、元いた世界で1人産んでる。

にもかかわらずこの女からは慈しみとか母性とかそういったものが素粒子ほども感じられない。

歳を取らないというよりは大人になる気がない、といった感じがする。

転生に至った経緯にしても、子供をほっぽり出して遊び呆けて死なせたことにキレた亭主に工具で殴り殺された、という亭主に同情せざるを得ないものだからどうしようもない。

「一つ目ェ!シラガァ!こっち来い!」

船乗りどもに呼びつけられ、2人は今後の方針を巡る軍議に巻き込まれるとととなった。

転生者の中で、特に貢献が目立ったため気に入られた、ということらしい。


ー軍議


集まったメンバーは海燕丸、江戸川丸、独尊丸、芹洲(せりす)丸の船長、そして近海の生態に明るいハカセとスコット、アンジェリーナである。

「とにかくやらにゃいかんのはあのクソ役人の始末じゃ」

海燕丸の船長の言葉に全員がうなずく。

「でもあたしらの装備じゃあの駆逐艦には勝てんで」

芹洲丸の船長は武闘派で知られているが、その船長が無理だということを誰も否定は出来ない。

退役した駆逐艦の装備の流用では最新鋭の装備に勝つのは不可能だ。

特に差が顕著なのは火器管制(FCS)で、駆逐艦のものは複数の目標を同時にロックオン出来る。

束になれば、力を合わせれば、といった次元の話ではないことはアルコールで機能が低下した脳でも理解可能な事実だった。

「空母でもあればのう」

無い物ねだりしても現状の戦力で駆逐艦は排除できない。

そうなれば次は次善の策を練る必要がある。

「そこでこれや」

ハカセがホワイトボードをガラガラと引きずってくる。

雑に書かれた近海の地図が一点鎖線で東西に分けられている。

西が旅団哨戒区域、東が境界の外。

ハカセは西に点線で丸を書き、続いて東側に実線で丸を書く。

それをさらに東向きの矢印でつなぐと説明を始めた。

曰く、海燕丸が戦闘を行った海域は東の実線の丸の部分であること。

この漁場が哨戒区域の外にあることが問題だった。

政府の小役人どもはこの丸の近傍で張っているだけで濡れ手に粟の状態だ。

定置網にかかる魚の気分を人間様に味合わせた連中は始末せねばならない。

「ちょこっと調べてみたんやけど、5年ほど前はサメはこっちにおってん」

ハカセが指したのは哨戒区域内の点線の部分。

つまりは何かの要因でサメの活動範囲が変わったということか。

「オルトロスか・・・」

独尊丸の船長が太い腕を組んで思案する。

ちょうどハカセの言った時期に漁船が未確認の外来種の被害を受けたことがある。

それ以降サメの活動範囲が移動したことから強力な外来種の存在を疑う者はおらず、すぐに『オルトロス』と名付けられ、討伐対象となった。

そして何度も旅団が艦隊を派遣したが、狡猾なこの外来種は知恵も回るようで、戦闘行動中の艦隊に喧嘩を売るようなまねはしなかった。

捕捉することが困難を極めたため討伐が保留にされていたのだが・・・。

「駆逐艦より厄介かもしれんな」

江戸川丸の船長は難しい顔でホワイトボードを睨む。

なにしろ相手は逃走と闘争を使い分ける相手だ。勝てる戦力を投入すること自体は不可能ではないだろうが、勝てる戦力からは逃げを打つ。そうなると人類側には捕まえる手段がないのだ。

「でもよ、お前がその話をするってこたあ、何か捕まえる手立てがあるってことじゃねえのか?」

「続けて」

船乗りが渋面を作る中、渋面ではなかったのが外様の2人、スコットとアンジェリーナだった。

ハカセはホワイトボードにいくつかの紙の切れ端を貼り付けていく。

オルトロスが出現(スポーン)してからの該当海域での被害の切り抜きだ。

プラスで手書きで日付と数字をホワイトボードに書き足していく。

赤文字が襲撃を受けた日付、青文字は襲撃されなかった日付だ。

これらをつなぎ合わせていくと5という数字が浮かび上がってくる。

「そこでワイは考えた。オルトロスがどうやって『勝てる相手』を見極めているのかを」

オルトロスは常に海の中にいる。

人間のように水面より上を見る能力はない。

だから積んでいる武装がどうかなどは区別が付かない。

「船が5隻以上なら襲って来んちゅうことか」

「ちょっと違うんや」

海燕丸の船長の回答にハカセは次の資料を出す。

今度は旅団の艦隊の編成だ。

最初期に対して、最近になるほど派遣した艦船の数が減ってきている。

出撃コストの問題もあるのだろうが、旅団もハカセと同じことを考えていたらしい。

しかしいずれも空振りに終わっている。

「おそらくスクリュー音や思うで。襲うんは旧型艦や民間船だけや。なんかやって区別しとるんやろな。知らんけど」

「つまり、ここの連中が持ってるぼろ船4隻を囮にすりゃオルトロスは姿を現すってことか?」

「あくまで仮説や。せやけど検証する価値はあると思うで」

「誘い出した後はどうする?」

問うたのはアンジェリーナだ。誘い出した、まででは目標達成ではない。

目的はあくまで討伐、そしてそれをしくじれば、狡猾な外来種は二度と同じ手には引っかからないだろう。

「そこであんたら転生者(とらいじん)の出番や」

船乗りたちの目線がスコットとアンジェリーナに集中する。

そこからは『何のためにお前等を呼んだと思ってる?』という無言の明言があった。

そして2人の答えは決まっている。

「いいぜ、いくら出す?」

「詳しく聞きたい」

スコットもアンジェリーナも金に困ってここにいるのだ。ここで興味があるのは金だけだった。

金払い以外の要因は断る理由になるはずがない。


ー準備


結論から言うと、スコットとアンジェリーナは借金の3倍の報奨金を提示されて二秒で了承した。

「観測用ドローン、10機ほしい、ソノブイを投下出来るやつ」

道具も『タダで』支給されると言われたアンジェリーナは早速無人観測機の手配に入る。

アンジェリーナは『生命付与(ライクライフ)』の奇跡(スキル)を持つ。

無生物にかりそめの命を与えて自動で動かすというモノだ。

高度ではあるが漁船では腐りがちだった奇跡(スキル)を存分に振るえるとあってか普段の無表情の中にも喜びの色が見える。

「水中じゃ俺様の光波斬(シュトラール)は拡散しちまうからな。武器が欲しい。こないだの銛みたいなやつがいい」

逆にスコットのビームは水中の敵には不向きだった。

ハカセの大学で発明された神経毒入りの銛が攻撃手段になるか。

刺されば有効打になる毒は強力だが未知部分が多い相手だ、毒のバリエーションの何通りか必要だろう。

「よかったなルーキー!これが終われば大金持ちだ!」

スコットは武器を検めながら同乗の転生者の肩をバシバシ叩く。

ルーキーと呼ばれた転生者は死んだような顔だ。

違いがあるとすれば死体のほうが顔色がいいくらいか。

ルーキーもまた緋ノ(ヒノモト)に転生して外人部隊に捕まったクチだった。

同じ境遇の転生者が外来種に食い殺されたり戦車砲で吹き飛ばされる中、悪運強く生き残り逃れ逃れて行き着いたのがこの漁船だった。

こないだのサメは自分を二秒でミンチに出来るほど強い転生者を二秒でミンチにできるようなバケモノだった。

これから戦う相手はそのサメが束になっても勝てないもっと強力なバケモノだと聞かされて生気のある顔が出来る道理はなかった。

この話が来たときすぐに逃げていればよかった。

「おい、他のやつはどうした?」

海燕丸の同乗者は8人残っているが、今いるのはスコットとルーキーだけだ。

「ちょっと見てみるわ」

近くで毒薬を検めていたハカセがラップトップを見せる。

同心円状のスコープの中心に光点が二つ。スコットとルーキーか。

そして6つの光点が中心から遠ざかっていく。

「ああ、こりゃあかんな。間に合わんわ」

ハカセがそういった直後、遠方で爆発音が鳴り響き、光点が消滅した。

漁船に乗せられた転生者(とらいじん)には全員爆弾入りの首枷が付いている。

これは発信器であるとともに、母船から信号を受け取れなくなると爆発して装着者を爆殺するようになっている、とハカセは説明する。

「だってよ!ここにいてよかったなルーキー!」

この後自分は逃げなかったことを後悔するんだろうな。

肩をバシバシ叩かれながら、ルーキーはかなり正確に自分の未来を予想していた。

未来視(フューチャー・ゲイザー)奇跡(スキル)に目覚めたのかもしれない。

出来れば未来を変える奇跡(スキル)の方がよかったが。

「数が減ったんはしゃあない。転生者(とらいじん)も再手配や」


ー出撃


「突然ですが臨時ニュースです!」

これから目指す海域でまた漁船が被害に遭ったらしい。

撃沈された漁船『麗王丸』から送られてきた画像には巨大な軟体生物の体の一部が見切れている。

オルトロスで間違いなかった。

「野郎ども!出撃じゃ!乗り込め!」

海燕丸からの招集に船員たちが船に乗り込んでいく。

「よーし、行くぜルーキー!グランドピアノが待ってるぜ!」

前進から力が抜けて死体のように重くなっているルーキーを引きずりながらスコットが海燕丸に乗り込む。

「10、全員いる」

芹洲丸に乗り込むアンジェリーナの上空には生命付与されたドローンが蚊柱のように付き従っていた。


to_be_continued

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