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戦士(勇者)の日常②

 今日はトレント狩りの日だ。昨日は休日だったのでダラダラと過ごした。まあ、休日でも最低限のトレーニングはして身体がなまらないようにはしている。


 冒険者は体が資本だからな。怠けりゃその分体力が落ちるし、いざって時に対応できなくなるのは困る。訓練なんて面倒なことはやりたくないのだが、回り回ってそれが響いてくる。


 トレント狩りという仕事ができなくなれば、今のような一勤一休なんて生活は出来ないからな。後の面倒にならないようにするためならば、今の面倒は黙ってやるのが俺のポリシーだ。


 トレント狩りはギャナンにあるダンジョンで行っている。ダンジョンではなく、街の外にも魔物は生息しているが、狩られればそれで終わりだ。新たな生息地、個体を見つけるのは面倒だ。ギャナンのダンジョンにはトレントだけが出現する階層があるし、倒しても倒してもモンスターが枯れるということはない。


 それに、ダンジョンは一度到達した階層なら入り口の転移水晶からすぐに移動することが出来る。また、各階層にある転移水晶からは入り口に戻ることもできる。どういう原理かは知らないが便利なものだ。


 そういうわけで、俺はトレントが出る十一階層に行く。ちなみにギャナンのダンジョンが何階層まであるのかはわからない。今現在も攻略組と呼ばれる連中が五十階層くらいまで到達したらしいが、まだ先があるという。まあ、俺には関係ないけどね。


「おう、トレントハンター。今日は木材狩りの日か」

「ああ、昨日は休みだったからな」

「休みが多くて羨ましいねぇ。ほら、入っていいぞ」


 ダンジョンの入り口には警備兵がいて、冒険者以外の人が入らないように見張っている。このギャナンという街はダンジョンの入り口が街の中心部にあるからな。


 ダンジョンを資源として活用するために取り込むような形で街を作り、ダンジョンに多くの冒険者が入りやすいような街づくりをしたらしい。だから、戦う術を持たない一般人が間違っても入り込まないように警備兵がいるのも当然ってわけだ。


「お、見えてきたな」


 通路のような道を少し進むと、中央に青白く光る転移水晶が鎮座する部屋に到着した。この転移水晶がダンジョン内の階層を好きに移動できるものだ。俺は十一階層に行くイメージをしながら転移水晶に触れる。すると部屋一面が光ったかと思えば、今まで居た場所とは違う場所になっていた。思った通りの十一階層に移動したようだ。


 ダンジョンは階層ごとに地形が変わる。そしてその地形に合ったモンスターが出現する。十一階層は森林エリア。トレントが出るにはおあつらえ向きってわけだ。しかもここの階層はトレントしか出現しないのが素晴らしい。


 この次の十二階層も森林エリアでトレントも出るのだが、そこには虫系のモンスターも出現する。俺はトレント以外には興味ないので、この十一階層がいいんだ。


 さて、森林エリアという事で辺りは木々だらけだ。トレントはこの木の中に紛れている。いわゆる擬態というやつだ。侵入者が近づくと攻撃してくるので、トレントを見分ける事が出来ないと奇襲を受けることになる。


 トレントを見分ける事ができる、もしくはトレントの奇襲を避ける事が出来ないとこの階層を突破するのは難しい。まあ、パーティを組んでこの階層まで来るのであれば、大抵は魔法使いがいるので、どの木がトレントかは容易にわかる。魔法使いは魔力を見る事ができるからだ。トレントは魔力を帯びており、普通の木はそこまで魔力を帯びていない。つまり、周囲の木と比べて魔力量が多い木があればそれがトレントだ。


 ちなみに俺も見分ける事が出来る。勇者ってジョブは基本的に他のジョブが出来る事を何でもできるらしい。ただ、剣聖のように剣を極めた者よりもスキル効果は低いらしいけど。


 そういうわけで、周囲の木々を観察しながら十数分程歩いていると、周りの木々より魔力を多く持つ木を見つけた。


「あれっぽいな」


 俺は背負っていたシャープネスアックスを両手に持つと、そのままその木へと走り出した。シャープネスアックスは魔力を通すと切れ味が増すマジックウェポンだ。俺のトレント狩りには欠かせない相棒ということになっている。


 正直な話、普通の斧でもトレントは簡単に倒せるのだが……。この斧があるからこそ、こうやってトレントを狩れているという印象を周りに与えたいので使っている。俺の実力じゃなく、武器がいいから一人でトレントを狩れるっていうね。


 トレントは擬態がばれているのがわかっているのだろう。地中から根を使って俺に攻撃をしてくる。だがそんな攻撃に当たるわけはない。地中から足に伝わる振動で、どこに攻撃してくるか俺には簡単にわかる。そのままトレントの木の側まで来ると、俺はシャープネスアックスを振りかぶる。


「横一閃!!」


 そしてそのままトレントを一閃。その一撃は途中で止まることは無く、トレントを横に真っ二つにした。俺はトレントが倒れるのに巻き込まれないようにその場から少し離れると、トレントは音を立てて倒れた。


「うん、楽勝だな」


 トレントは根から養分を得るため、こうやって横に真っ二つにすれば倒す事ができる。とはいえ、普通は俺のように一撃で切り倒すなんてことは聞いた事はないが。


 俺はシャープネスアックスを背負うと、倒れたトレントの側まで近づく。あとはこのまま倒したトレントを持ちかえれば今日の仕事は完了だ。俺はそのままトレントを右肩へ持ち上げると、引きずるようにして元来た道を戻る。木全体を持ち上げるよりかは引きずる方が楽だからな。


 本当は収納というスキルや魔道具のアイテムバッグがあれば、大きさや重さに関係なく入れる事ができるので簡単に運べる。実は俺は収納を使うことができる。しかし、収納のスキルは希少なスキルであり、魔法系ジョブのごく一部の人しか覚えない。俺はただの戦士ということになっているため、使えるのはおかしいということで公では使っていない。


 ならばアイテムバッグを使えばいいと思うかもしれないが、アイテムバッグは高価で希少なため手に入れるのは難しい。それに持っているのがばれれば目立ってしまう。


 まあ、俺の力ならトレント一本くらいなら引きずっていけるのでそこまで気にしなくてもいいだろう。転移水晶近くのトレントを狩るようにしているので、長くても三十分程度で転移水晶のところまで辿り着ける。それくらいなら我慢してそのまま運ぶさ。




 特に問題も無くダンジョンの入り口まで戻ってきた。一番近いところにあるトレントを狩っているので、途中で問題など起こるはずもない。たまに冒険者とすれ違う位だな。


「お、トレントハンター。もう戻ってきたのか。相変わらずお早いお帰りで」

「近場のトレント一本倒して持ち帰るだけだからな。そこまで時間はかからんさ」


 いつものように声をかけてくる警備兵に答え返すと、少し離れた開けた場所まで移動する。ここは俺がいつもトレントを持ち帰ってくるせいなのか、俺がトレントを置く専用のスペースのようになっている。


「あ、兄ちゃんお疲れー!」


 声をかけてきたのは七、八歳くらいの少年だ。俺がトレントを狩って戻ってくると、いつも声をかけてくる。


「おう、トレント狩って戻ってきたってマードック商会に伝えて来てくれ」

「了解っ!」


 このまま引きずって直接持ってくのは往来の邪魔になるからな。人を呼んできてもらって運んでもらう方がいい。俺はそう言って少年の方に銅貨を数枚渡すと、少年は元気よく返事して走っていった。


「おーい、トレントハンター!待ってる間暇だろ!?どうだ、串焼きでも食わねえか!?」


 声をかけてきたのは近くで串焼きの屋台を開いてる男だった。ダンジョンの入り口周辺には様々な屋台が出ている。この串焼き屋もそのうちの一つだろう。


「へぇ、何の串焼きだ?」

「オーク肉だ!ただ、うちのはタレが違うぜ!どうだ?食ってみねえか?」


 確かに美味そうな匂いだ。商会の面々が来るまで時間もあることだし、軽く腹に入れるのもいいだろう。


「よし、それなら一本貰おうか」

「へい、まいど!」


 代金の銅貨を三枚払い、代わりにオーク肉の串焼きを貰う。軽く焦げがついた香ばしい匂いは食欲を刺激され、俺はそのまま串焼きにかぶりつく。


「おお、言うだけのことはある。このタレはいいじゃないか」


 確かにただの塩焼きとは違う。馴れ親しんだオーク肉も、タレによってこうも変わるのか。少し味が濃い気がするが、身体をよく動かす冒険者にはちょうどいい。ただ、エールが飲みたくなるのが懸念だ。


 だが、いったい何を使ってこのタレが出来ているのかが俺の舌ではわからない。まあ、お貴族様みたいにいつもいい物食ってるわけじゃないしな。美味けりゃなんでもいいか。


「だろ!?まあ、詳しいことは秘密だがよ、何種類ものハーブとかを組み合わせてこの味を作り出したんだよ」

「これならもう少し高くても売れると思うけどなあ」

「俺にとっちゃ、多くの人に食ってもらいたいからな。値段は赤字にならなきゃいいさ」

「なるほどな。そんじゃ、もう一本貰おうか」

「あいよ!」


 屋台の男が串焼きを用意している間に、近くにある別の屋台でエールを注文する。トレントを納品するまで酒は飲まないつもりだったが、これはエールが必要だ。うーん、軽く腹を満たすくらいのつもりだったんだがなあ。まあ、たまにはこんな日もいいもんだ。少し早いが屋台で昼食と洒落込もうかな。


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