珍しい魔獣と出会う
魔王城に逃げ込んだ当日はシェリーザと酒を浴びる程飲みまくった。そのため次の日は二日酔いでダウン。一日中、ベッドで寝込む羽目になった。まあ、魔王城で特にやることもないからいいんだけど、頭痛と吐き気が辛かった。もうあんなに飲まないように気を付けよう……。
と言っても、美味い酒を前にしたら同じように飲みまくるだろうな。二日酔いで苦しむたびに同じこと何度も考えたし。これが人の性ってもんかね。
ちなみにシェリーザも二日酔いで苦しんでいたらしい。まあ、酒精が強いのに飲みやすかったし、ついつい飲み過ぎたようだ。しょうがないね。
ということで、今日は魔王城滞在三日目。一日目は到着後に即酒宴、二日目は一日中ベッドの住人だったから、実質今日が魔王城で活動する初日かもしれない。といっても、特にやる事も無いので、朝食を食べた後は腹ごなしに魔王城周辺の森を散歩している。
ちなみに魔王城周辺は森で囲まれており、魔族が住む村は少し離れたところに位置している。なんでも、歴代の勇者は魔王城に乗り込んで魔王に戦いを挑むのが当たり前だったようで、魔王城の周辺に戦闘力を持たない魔族がいると巻き込まれて被害がでるから離れた場所に村があるそうだ。
魔王城にも特定の魔族しか訪れる事はなく、また魔王城に関わる者は大体グレンの事情を知っているので、魔王城周辺ならば出歩いても見知らぬ魔族と出会う心配はないので問題ない。加えて気配感知のスキルもあるので、よほど隠密に長けた者以外ならば事前に察知できる。
「……ん、何かいるようだけど変な感じだな」
そうやってのんびり歩いていると何か獣らしき気配を感じた。この辺りの森には何種類かの魔獣が生息しているので気配感知に引っかかるのも珍しくはない。だがその気配は弱々しい。普段ならば面倒事を避けるためにも無暗に接触はしないのだが、今回はちょっと気になったのでその気配のする方向へと向かう。念のため、自分の気配は断って近づこう。
気づかれないよう慎重に近づいていくと、目にしたのは鮮やかなエメラルドグリーンの毛皮を持つ魔獣だった。尻尾が複数あり、額には鮮やかな虹色の宝石のようなものがついている。尻尾が一本で額の宝石が赤色ならばカーバンクルなのだが、目の前にいる魔獣は少し特徴が違う。もしかすると特殊な個体なのかもしれない。
あと、毛にところどころ付着しているのは血だろうか。歩みもふらついているし、地面には血痕が続いている。どうやら怪我をしているようだ。だから気配が弱かったのだろう。
基本的にカーバンクルは警戒心が強く、おとなしい魔獣だ。滅多に人前に出る事はなく、仮に見つけたとしてもすぐ逃げだしてしまう。だが、決して弱い魔獣などではなく、逃げきれないと感じたら火や風の魔法で攻撃してくるので注意は必要だ。
ただ、今目の前にいるのがカーバンクルとは少し特徴が違うので、それに当てはまらないかもしれないが、まあカーバンクルとしておこう。
「んー、目にしちまった以上、このままサヨナラってのもなぁ……」
悪意を感じるわけでもないし、このまま放置するのも後味が悪い。一応これでも勇者なので回復魔法は使える。なのであの魔獣の怪我の治療をするとしようか。ただ、回復魔法を使うと俺の存在がバレるだろうが、まあ構わないだろう。仮に攻撃されたとしても余裕で逃げ切れるだろうし。
というわけで、カーバンクルに近づき、回復魔法を使う。
「エクスヒール」
一応俺が使える最上位の回復魔法を使ってみた。カーバンクルは急に自分の近くに俺の気配が現れたのに驚いたのか、ビクッとこちらを見ながら距離をとった。まあ、回復魔法の効果は発揮出来ているのでもう離れても問題は無い。
「クルルルル……!」
カーバンクルは俺に対して威嚇してきている。まあ、いきなり気配が現れたらびっくりするもんな。敵だと思われても仕方ない。
「まあ落ち着け。急に現れたのは悪かったが、怪我を治してやっただけだ」
「……クル?」
俺の言葉を理解したのか、カーバンクルは自分の身体を調べ出す。どうやら怪我は治ったようだな。毛に付着している血は洗い流さないと取れないだろうが。
「じゃ、俺は行くから。もう怪我すんなよ」
特にカーバンクルに対して何かしたいわけでもないし、怪我が治ったのなら去るとしよう。ちなみにカーバンクルの額にある宝石は高値で売れるが、俺には興味ない。金に困ってるわけでもないしな。カーバンクルという珍しい魔獣が見れただけで満足だ。
「……」
さーて、魔王城に帰るかー。と、魔王城へと戻っているのだが、あのカーバンクルの気配が消えない。少し距離を開けてついてきているようなのだ。立ち止まって後ろを振り返ると、カーバンクルが目に入る。俺が立ち止まると同時に、カーバンクルも立ち止まったようだ。
「なんでついてきてんの……?俺に何か用でもあるのか?」
「クルル」
俺の問いかけに頷くカーバンクル。何か用があるらしい。というか、人の言葉を理解するってことは、カーバンクルは高い知能を持つ魔獣のようだ。
「なるほど。だが俺はお前の言葉がわからない」
「クル!?」
流石に勇者であっても魔獣の言葉はわからない。なんとなく、鳴き声のニュアンスや身体全身を使った動きで『マジで!?』みたいな感じで驚いているのはわかるが。今みたいな単純なものならわかるかもしれないが、流石にカーバンクルの用件を鳴き声とボディランゲージで伝えきるのは無理な気がする。
「ああ、そうだ。シェリーザならお前の言葉もわかるはずだ。帰るとこだし、もし俺に伝えたいことがあるならついてこい」
「クルー」
おそらくは、『わかった』とでも言っているのだろうか。カーバンクルは歩みを再開した俺についてきている。こいつの用件が何かは知らないが、シェリーザに通訳してもらってからだな。魔王様なら魔獣の言葉もわかるだろう。
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「というわけで、こいつが何言ってるか通訳してくれ」
「クルルル」
魔王城へと戻った俺は、そのままカーバンクルと一緒にシェリーザがいる執務室へと突入した。
「急に何だ。……うん?珍しいな、カーバンクルか?通常の個体とは少し違うようだが……、どういった経緯があったんだ?」
シェリーザは取りかかっていた書類にサインをすると、こちらを見てそういってきた。まあ、それも普通とは違ったカーバンクルと一緒に来られてはそう聞かざるを得ないわな。
「森で散歩してたら怪我してるこいつを見つけてな。回復してやったらついてきたんだよ。何か俺に用があるみたいなんだが、何言ってるかわからんから連れてきた」
「ほう、そうなのか?」
「クルル」
カーバンクルはシェリーザに近づくと喋りはじめる。
「クル、クルルルル、クルールル」
「それは災難であったな。しかし集落の結界からでなければそうはならなかったろうに」
「クルー……、クルルー……」
「ふむ……、カーバンクルの集落は閉鎖的であるからな」
「クルルルルルル、クールル」
「なるほど。まあ、気まぐれだと思うぞ?なあ、グレン」
「いや、そう言われてもこいつが何言ってるかわからんから答えようがないんだが?」
通訳してくれよ。何のためにここに来たと思ってるんだ。
「ああ、すまんすまん。こやつはカーバンクルの集落から追い出されたようでな。意気消沈しているところにシャドウクロウに奇襲されて、かろうじて撃退したものの怪我を負ったそうだ」
シャドウクロウは大型のカラス系統の魔獣で、確か光り物に目がない習性を持つ魔獣だった気がする。ああ、このカーバンクルの額の宝石に惹かれて襲い掛かったのか。
「それで怪我をしていたのか。しかしなんでカーバンクルの集落から追い出されたんだ?」
「自分たちと違う風貌をしていたからだろう。お前も知っているかもしれんが、通常のカーバンクルは額の宝石は赤色。だが、こやつは複数の色が混ざった虹色のような宝石だ。さらに、尻尾が九本もあることから集落内で気味悪がられていたようで追い出されたとのことだ」
「そいつはまた……」
かわいそうな話ではあるが、人の世界にも同じような話はごろごろ転がっている。狭いコミュニティでは同族意識というか、自分らと違う奴に寛容ではなく、差別意識を持つ者が少なからずいるからな。
「こやつがついてきたのは、何で自分を助けたのかというのが知りたかったからだそうだ。お前のことだ、どうせ気まぐれだろ?」
ああ、さっきの問いかけに戻るわけか。
「まあそうだな。珍しい魔獣と見つけたが、そいつが怪我をしてたからとりあえず治しておこうって感じだったな。敵対してきそうな感じもしなかったし」
「クルル……?」
「この風貌が気味悪くないのか?だってさ」
「なんでだ?別に他の奴と同じである必要はないだろ?というか、こいつのような変異体って通常の奴とは違って強い力を秘めてるんじゃなかったかシェリーザ」
「そうだな」
魔物や魔獣は突然変異を起こす奴もいる。そういった奴は普通の奴とは違って肉体強度が高かったり、通常は使えない魔法を使えたりする。
「つーわけで自分を卑下するんじゃないぞ。むしろ他の奴と違う俺、特別でスゲーって感じでいりゃいいんじゃないか?」
「クル……」
「でも集落には戻れない、と言っているぞ」
「いや、戻る必要なくないか?」
「ク?」
「まあそうだな。私もそう思うぞ?見たところ、内に凄い魔力を秘めている。そこら辺の魔物よりも強いから、わざわざ集落に戻る必要はないのではないか?」
俺は普通のカーバンクルは目にしたことないから比較できないが、やっぱ変異体の方が強いんだな。どちらかというとカーバンクルは弱い魔獣だ。だがシェリーザがそこいらの魔物よりも強いというのなら、その通りなのだろう。伊達に魔王をやってはいない。
「カーバンクルという枠にとらわれず、自分の好きに生きるといい。この世界は自由だ。決して神々のおもちゃなどではない」
「後半部分は言われても意味がわからんだろうに。つーかやっぱり神のこと嫌いなんだな」
「当たり前だ。というか、あの話を聞かされて好きになろうという奴がいるか?」
「ま、違いない」
この世の生物が神々の駒でゲームに使われていると聞かされて好きになろうと思うわけがない。まあ、教会の狂信者とかであれば光栄に思うのかもしれないが。
おっと、今はそんなことはどうでもいいか。この変異体のカーバンクルが今後どうするかが本題だ。
「それでお前はこれからどうするんだ?」
「クー……」
「そうすぐには決められんだろう。しばらくこの魔王城に滞在してゆっくり考えるとよい」
「クル!?クルル!?」
「うむ。私はシェリーザ。一応、魔王をやっている」
「クルルルルー!!」
すごい勢いで跪いたな。まあ、魔の者にとっては頂点に位置する魔王って急に言われたらそうなるのかね。全部の魔獣がそうというわけでもないとは思うが、こいつは敬うことを知っているのだろう。
「ああ、気にするな。ちなみにお前の隣にいる奴は勇者だぞ?」
「クルーーー!?」
あ、なんか目を回して倒れたぞ?自分を助けたのは魔の敵である勇者ってことで驚いたのか?それとも、魔王が勇者と仲良さげに話しているのに混乱でもしたかね。
「はっはっは。うむ、やっぱり普通の奴はお前が勇者だと聞くと驚くな」
「驚きすぎて気絶したけどな。で、こいつはどうする?」
「このままというのもかわいそうだろう。客間にでも連れて行ってやろう」
シェリーザはそういって執務机の上にあるベルを鳴らした。
「お呼びでしょうか?」
ノックと共にラスカルの声がする。相変わらずベルを鳴らしてからノックするスピードが早すぎる。ドアの前に控えてるってレベルだ。
「うむ。入れ」
「失礼いたします」
「そこで寝ているカーバンクルを客間で休ませてやれ」
「かしこまりました」
眉一つ動かさずカーバンクルを抱きかかえて退出ラスカル。カーバンクルが伸びている理由や尻尾が多い理由などのツッコミどころをすべて無視してシェリーザの命令を聞くのは執事の鏡といっていいな。俺にはとてもできそうにない。
「さて、これで用件も終わりだろう。お前もさっさと出てけ」
「おいおい、冷たいじゃないかシェリーザ。何か暇つぶしに付き合ってくれよ」
「ん?書類仕事の手伝いがしたいって?」
「おっと、休養を思い出した!またな!」
暇だからといってわざわざ書類仕事などしたくはない。ここは撤退だ。仕方ない、昼飯までの間トレーニングでもして時間潰すとしようかな。




