元勇者
声の正体はベルの父親ファナーカだった。
ファナーカはベルの側に駆け寄り。
「大丈夫か?ベル?しっかりしろ!ベル!」
と呼び掛けた。意識が混濁していたベルは意識を取り戻し
「と…… 父さん?」
と言った。ファナーカはそれを確認すると
「後は父さんに任せておけ!」
と言ってギートの方に向かって歩き出した。
ギートはファナーカの姿を見て驚いた。
「あなたは オルファブル ネル ファナーカなのか? なぜこんな所に?」
とありえないと言いたげな顔で聞いた。ファナーカは
「そうだ そしてそこにいる子供は私の子だ!」
ギートは青ざめた。周りの冒険者がざわつき出した。
「勇者の1人であるあんたがなぜ? 魔王との戦いで死んだと聞いていたが……」
ファナーカは静かに答える。
「亡霊だよ…… お前はオルドーの商人ギートだな お前は特に魔物に対して排他的だったな 町長のマルスはこの事を容認したのか?」
ギートは
「あんな腑抜けた元勇者にあの町は任せられん! 障気が失われたチャンスなのに腰も上げんかったよ!」
ファナーカは少し考えてから
「この村は私の村だ これ以上何かちょっかいを出すなら今お前らにかけているストップを心臓にもかけて殺すが……」
ファナーカの言葉に嘘は無い、ギートは確信して更に青ざめた。
もともとストップは身体全体にかかり話すことも全く出来なくする魔法だった。
しかしそれを応用して部分的にかけ、更に100人規模に使っている。
勇者の魔法使いの力は本物だった。
「分かった このまま帰るからここは見逃してくれ」
ギートは力なく答えると
「分かった 後この獣人の子供は置いていけ」
ファナーカはそう言って魔法をといた。
ストップが解除された瞬間冒険者達は一斉に引き返していった。
ベルも意識が戻って動けるようになっていた。
ベルは獣人の子供の側に駆け寄り
「あいつらがやったんだ この子死んじゃったの?」
ベルは泣きそうになりながらファナーカに聞いた。
「いや かすかに息がある 獣人は身体が頑丈だからタイムストップでこの子の時を一時的に止めて村で治療すればなんとかなるかもしれん!」
ファナーカの言葉を聞いてベルは
「父さんお願い! 僕この子と友達になりたいんだ!」
ファナーカは冷静になったベルに安堵し
「よし! 急ぐぞ!」
と言って村に急いだ。