接触
冥界から地上に出るには2つの方法がある。もしかしたらそれ以外にもあるかもしれないが……
1つはヘスティアのように召喚してもらう事、これは術者が魔法を解くか死んでしまうと強制的に冥界に戻されてしまう。術者を守り操る必要がある。
もう1つは試練の門を外から開けてもらう事、これは外界との連絡が絶たれている冥界では極めて難しい。過去に1人だけ試練の門から出れた魔物がいたが力の弱い魔物だった。今はどうなっているか分からない。
ヘスティアは今冥界と地上を自由に往き来出来る唯一の存在になった。
各国の代表はヘスティアを懐柔しにかかるだろう。
今は冥界を統一しようと反発しあっているがもし手を組むようなことになれば戦いに明け暮れていた屈強な者達が一斉に地上に出てくる事になる。神に対して強い憎悪を持つ者に世界は滅茶苦茶にされるだろう。
それは神の意思に反する事だ。ダークエルフは闇に染まってしまったが本来の役割を全うしようとしている。
ここカール村は何処にも属さずに冥界を見守ってきたダークエルフの集まりだった。
神が本当にいるのかは正直信用できなかったがヘスティアの危険度は更に増した。
相手はヘスティア1人ではないかもしれない。
「ヘスティアの力は強力ですが彼女自身国は持っておらず巨大な城に複数の従者がいるだけです 私とポコもお供します きっと力になれるでしょう」
冥界の事が分かってない以上イレーネ達の協力はありがたかった。冥界に来て始めに感じた嫌な視線は地上から来た者を監視する意味があったようだ。
あのままポコに出会わなければ凶悪な奴等に捕まっていたかもしれない。
ヘスティアのヤバさは本物だ。他にも同等の力、それ以上の者がいるかもしれない。
魔王は暫く黙っていたが自身の抱いた謎をイレーネに聞いてみた。
「過去に試練の門から出た魔物がいたと言っていたが…… その魔物の事を何か知らないか?」
「ええ 知っていますよ 彼は多眼族の魔物でよくこの村に遊びに来ていました 心が優しく村の者とも仲が良かったのです 何故試練の門が開いたのか…… いなくなってからもう数十年経ちましたが何も知らない土地で無事に暮らせているのか…… 名をカイルと言います 何か知っていますか?」
!
私の名と同じだ……
魔王は話がこじれてしまいそうなのを懸念してそれ以上は何も聞かなかった。
イレーネも何かを感じたのだろう、話はそれで終わった。
ファナーカ達がイレーネから冥界の話を聞いていた頃と同時刻、ヘスティアの城に客が訪れていた。
「久しぶりだえ グランヴェール王 共も付けずに1人で来るなんて…… ククク死にに来たのかえ?」
グランヴェール
冥界に数ある国の1つ、グランヴェール王は元々人間だが魔物や人をまとめあげ一代で国を築いた実力者だ。
一国の王の突然の来訪にヘスティアは殺気を漂わせている。
ズズズズ……
「やめとけやめとけ! 今殺り合ってもお前が消し炭になるだけだぜ それよりも面白い話をしようぜ!」
グランヴェールは殺気を一蹴してヘスティアの力が半減していることを暗にほのめかした。
やはり知っておったか……抜け目無い奴め!クククだがここまでは計算通り上手くいった。
ヘスティアの自信の正体はこれだった。
冥界から抜け出す手段を持っているヘスティアに同盟を求めてくる実力者は必ず現れる。
これにファナーカ達をあてようとしていたのだ。
ヘスティアとシエルは冥界にとって貴重な存在なのだ。
「先ずはお茶でも飲みながらゆっくりと話し合おうかえ……」
ヘスティアは執事にお茶の用意をさせた。




