見誤り
ギートの言っていた事は正しかった。
魔物の子は魔物の気配のする方向を淡々と示していった。
親が殺されてしまったショックと奴隷としていつ死んでもおかしくない状況に絶望し逆らう気力を無くしてしまっていた。
魔物を殲滅しようと冒険者達は村にどんどん近づいていく。
先に偵察に行っていた先行部隊が合流した。魔物の村を発見したらしい。
「この先に魔物の村があったぜ! 全員呑気に寝てるのか静かなもんだぜ!」
100人近い人間が村に近付いているのに魔物達が気付かなかったのは森に入る前に気配を消す術式をあらかじめ冒険者にかけていたからである。
刻一刻と魔物の村に危機が迫っているなかいち早く気付いたのはベルだった。
寝ていたベルの胸元で光だしたペンダントの明かりで目が覚めた。
ベルは何かただならぬ嫌な予感が自身を襲ってくるのに違和感を感じた。
「何かが近付いてきている」
気配を消されているので完全には分からなかったがベルは窓から家を出てその嫌な予感がする方向に向かって走り出した。
探知魔法には何も反応は無かったが魔物の直感が彼をその場所へ導いていった。
ベルは自身に肉体強化魔法のサーチアイで遠くにいる人間を確認。
森の草木に身を隠し気配を消して様子を探った。獣や魔獣とは違った気配だが明らかに敵意を感じた邪悪なものだった。
「すごい数だ あれは父さんと同じ人間ってやつかな?」
ベルは初めての光景と異様な雰囲気と気配に動けなくなってしまったが遠くに獣人の子供がいるのを見付けた。
獣人の子供は首輪に鎖を繋がれていて近くにいる人間に何やら怒られているように見えた。
そして蹴飛ばされ鞭で叩かれているのが見えた瞬間ベルは飛び出していった。
「何かが現れたぞー!」
冒険者達がザワつき辺りに緊張がはしる。
ベルはギート達の前に姿を表した。
「なんでそんな酷いことをしてるんだ!」
ベルは声を荒げて言った。
突然の事に周りも呆気に取られていたがすぐに冒険者達に包囲された。
「魔物のガキがいるってことはやっぱりここが魔物の村か 魔物のくせに人間に意見しようなどと……」
ギートは続けて
「魔物は生きていてはいけない存在なんだよ ガキも同じだ。根絶やしにしてやる! こいつは餌になるかもしれん! 一人で愚かな…… 取り押さえろ!」
ギートが合図を出すと冒険者が襲いかかってきた。
ベルは冒険者達の攻撃を紙一重でかわしていく。鍛えられたベルは身体強化魔法も加わって町の冒険者にも遅れをとっていなかった。
だがベルは人を攻撃した事がない。躊躇いながらギートの方を見た。
ギートはナイフを獣人の子供に向け
「大人しく捕まらんとこいつを刺し殺しちまうぞ!」
と荒々しく言った。ベルは動く事をやめた。
ベルは冒険者に体を押さえ付けられ地面に叩きつけられた。
「ガキのくせにすばしっこいやつだ だがこれで村の奴等はても出せんだろう こいつはもう用済だな」
ギートは持っているナイフで獣人の子供の胸を刺した。
獣人は力なく地面に倒れた。
「こんな汚い物でも少しは人間の役にたったんだ! 感謝して死ねよ」
ギートが言った瞬間ベルの頭の中は真っ黒になった。何か声が聞こえてくるような気がする。
「こ…… な…… な…… ころ…… まえ……」
次は確かな声で
「こんな醜い人間など殺してしまえ お前には力がある」
ベルの意識は真っ黒な物に吸い込まれるような感覚だった。
ベルを押さえ付けていた冒険者が異変に気付く。
「な なんだ? 体が熱く……」
瞬間その冒険者の体を黒い炎が包む。
「ぎゃあぁぁ! 誰か消してくれー!」
冒険者はベルから離れのたうち回っている。
魔法使いらしい出で立ちの冒険者が
「ウォーター!」
と唱え燃えている冒険者に水をかけたが全く黒炎は消えない。
「ど……どうなっている?」
辺りを囲んでいた冒険者が騒然とする。
ベルは怒りに我を忘れて大量の魔力が体の外に溢れでてしまっていたのだ。
「な…… なんだこのとんでもない魔力は……」
ベルの圧倒的な魔力の前に冒険者は動けなくなってしまった。
「殺してやる」
ベルはそう言ってギートの前に1歩ずつ近付いていく。
ギートは見たこともない圧倒的な力の前に腰を抜かしてしまった。
「こ…… こんな者がこの世にいていいのか…… 早くこのガキを殺せー!」
辺りにいた冒険者が躍起になってベルに襲いかかろうとした時、異変に気付いた。
「身体が動かない!」
100人近くいた冒険者にギート、ベルも動けなくなっていた。
「何が起こっている……」
ギートはこの異変の正体に気付いた。
「ここまでだ」