2人の魔法使い
ファナーカは驚いて声も出せずにいた。
ミカは沈黙に耐えきれなくなり続ける。
「今朝会ってみてベル君から計り知れない魔力を感じたんだけどそれとは別の魔力の流れがベル君の中で感じたの 多分声の正体はこれ ベル君の魔力に何らかの影響を与えてると思うんだけどそれがどんな物かは詳しく見てみないと分からない でも安心して! それは今のところ悪影響を与えてるって感じもしなかった」
ファナーカは肩を撫で下ろした。
そして切り出す
「ベルの事を向こうには?」
「多分ベル君の力の事も魔王遺物の事も知られてないはず! 使ってきた魔王遺物の性質から今回の狙いは私とファナッチとユキさんの筈だから 西か北か どちらか分からないけど魔王遺物の幾つかはもう向こうの手に渡ってると見て間違いないよ!」
昨日の敵はなんとやら、まさか人間同士で争うことになるなんて、それもただの人じゃない。共に戦ってきた仲間同士が……
刺客に時間は避けられないな。
ヘスティアの復活前に何とかしなければならない。
「ベルの事を知られたらそれこそ厄介だ! 先ずはあの男を何とかしねーと」
ミカはそれは大丈夫だと言い普段の何かを企んでいる顔に戻り。
「私の町で好き勝手して無事な訳ないでしょ? この事に関してはミカちゃん少し怒ってるんだから」
ファナーカはミカのオーラの変化に久々にミカらしい姿を見た気がした。この得体の知れないオーラは魔王軍と戦っていた頃となんら変わらない。
やはりこいつは恐ろしい……
「じゃあ冥界の女王を倒す為に考えた作戦を説明するね ベル君の魔力があれば私の魔法と合わせて怒山の天候はなんとか出来るはずなの! 試練の扉まで行ければファナッチとマルマルなら力を抑えられている冥界の女王を倒すことが出来るはず! ざっくり言うとこんな感じかなー」
成る程、ミカが側にいるならベルは安心だ。
ファナーカはミカの力には信頼を寄せている。この作戦に異論はなかった。
気掛かりなのは西と北の勇者が冥界の女王にどう関与してくるのか……
召喚した女が魔王遺物の保持者だと言う事もまだ知られていないだろう。
この魔王遺物は他者には渡せない。
問題は大きく膨らんでいったがファナーカに引く気はなかった。
「ザック! ハイアー! そっちがやる気ならやってやるよ!」
ミカは2人の名前を聞いた途端うんざりしたような顔をして
「その名前を聞くだけで胸焼けしそう…… ホントムカつく! お爺ちゃんがあんな事になったのにまだ自分の事ばっかり!」
西の勇者ジェンティル・ザック
北の勇者ゴールディン・ハイアー
魔物を毛嫌いし根絶やしにすると意見しファナーカと激突した2人が独立国家を作れば間違いなく戦争が起こるだろう。
魔王遺物……死してなお人を歪める魔王の存在にファナーカも怒りを露にした。
「じゃあ私はあの男を捕まえに行くからファナッチを宿屋に戻すねー」
「待ってくれ! 俺も行く! 何も分からんうちに話が進んでいくのも気にくわねー 目的が俺達なら話は早い 魔王遺物の事も気になるしな!」
ミカは少し考えた後断ろうとも思ったがファナーカの真剣な顔に根負けして一緒に行くことにした。
ミカは空間魔法を使う際に
「その顔はズルいんだぞ……」
何かを言ったような気がしたがファナーカには聞こえなかった。
部屋から出るとそこは草原の広がる拓けた場所だった。
周りを見渡すと遠くにアードラの町が見える。
どうやら町から離れた場所に連れてこられたみたいだ。
ミカの魔法の凄さの1つに効果範囲の広さがある、世界中の動物の五感をジャックしてあらゆる場所の情報をキャッチできる。冥界の女王との戦いやベルの存在、そしてあまり知られていない西と北の情報にも詳しいミカはザックとハイアーからしたら厄介な存在なのだ。
そしてもう1つが魔法の緻密さにある。
空間魔法は行きたい場所を細かくイメージする必要がある。その場所にある建物や木々に至るまで、1度でもその場所に行かないと最低でも使うことは出来ない。
しかしミカは違う。世界中何処へでも瞬時に行くことが出来る。消費する魔力の大きさから多用することは出来ないが封印されている場所など特殊な環境の場所を除けば1度行かなくても使うことが出来るのだ。
何もない草原……一見イメージしやすそうに見える場所だが目印になるような物もない空間に移動する事はファナーカにも不可能なのだ。
やっぱりスゲーな!
何度見ても見事と言わざるを得ない。
そして視線の先には先刻の男がいた。
男は突然の出来事に一瞬たじろいだが直ぐに剣を構えた。
「そちらから来てくれるとは…… 手間が省けた くくく…… 一瞬で楽にしてやるよ」
ファナーカは男の台詞に何か言おうとしたがそれはダメだと思いぐぐっと込み上げた言葉を飲み込んだ。
「それってザコキャラがやられる前に言うフラグだよね?」
ファナーカが我慢した言葉をミカは臆することなく口にした。




