2日目の朝
その夜ファナーカは夢を見た。
何もない空間を歩いている。
遠くから何かが此方に向かってくる。
あれは狼か?狼の背に人が乗っている。
ベルだ!ファナーカは声をかけようとするが狼はファナーカの横を通りすぎそのまま走って行った。狼の向かう先には何もない真っ暗な空間が広がっている。ふと足元に違和感を感じた。何もなかったはずなのに周りには自分の知り合いが倒れている。
マルス、ジジィ、ライオネル、あれは……ユキ!?
ファナーカの脚が沈んでいく。まるで底無し沼のようにズブズブと……彼はそのまま闇に飲まれていった。
「…… さん……」
「お…… う…… さん」
「お父さん!」
ファナーカはベルの声で目を覚ました。太陽の光が眩しい。外はもうすっかり朝だ。
ファナーカはキョトンとし、辺りを見回す。
ユキは心配そうに水を持ってきてくれた。
「何かうなされてたみたいだけど…… 大丈夫?」
「あぁ変な夢を見たんだ…… 不思議な…… でも大丈夫だ!」
ファナーカは水を飲み干し身支度を始めた。
今日はミカにベルを会わせる約束をしている。
「なぁベル! 今日は父さんの友達に会ってくれるか?」
「うん! いいよ! どんな人だろう」
ベルは元気いっぱいに答えた。
身支度を済ませ先ずは町に出て朝御飯を食べる事にした。
部屋のドアを出るとそこはまた宿屋ではなかった。ここは……お店?
周りを見ると店のものらしき人が驚いた顔をしてしりもちをついていた。
突然人が別空間から出てきたことにビックリしたのだろう。ベルとユキも少し戸惑っていた。
ミカの仕業だな!そう思うとどこからか声がする。
「ファナッチー! ここだよ~!」
店の奥にミカが座ってこちらを呼んでいる。
ファナーカは店の人に謝るとミカの席に向かい
「お前は……」
何かを言おうとするもミカは聞こうとせずにユキとベルの方を見て
「ユキさんもベル君もおはよう! ここの魚料理はすんごく美味しいんだよ! 一緒に朝御飯食べよ!」
ファナーカは深い溜め息を吐き頭をかいている。
「この人が父さんの友達でミカって言うんだ! さっきの魔法はこいつの仕業だ!」
ベルは驚いた。魔法の気配が全く感じられなかったからだ。ベルは見た目が自分の歳に近い女の子なのにすごい魔法を使うミカに興味をもった。
ユキはファナーカの様子を見ながらクスクスと笑い席についた。
ミカはメニュー表を見せながら自分のおすすめを3人に紹介している。
楽しげなミカにファナーカの怒りは何処かに飛んでいった。
「ベル君は自分の頭の中になにか別の自分がいるみたいな事ってない?」
突然された質問にベルはん~と少し考えた後
「たまに声が聞こえてくるんだ 僕の声じゃない何か変な感じの それが聞こえると頭の角が少し痛くなるんだ」
ベルの答えにファナーカとユキはお互いを見合い驚いた。今まで1度もそんな話を聞いたことがなかったからだ。
いや、隠している感じではないし聞かれなかったから答えなかったんだろう。
「その胸にあるペンダントはどこで見つけたの?」
ミカの質問にベルは嫌そうな顔はしていない。むしろ楽しそうだ。
「これは村の近くにある森で拾ったんだー!」
元気いっぱいに答えるベルにミカは満面の笑みで
「綺麗な色だね! ベル君にとっても似合ってる! あっ! 料理がきたみたい!」
ミカは何かが分かったようだがファナーカはミカの質問の意図が読めなかった。
しかしミカと打ち解けて楽しそうに話すベルを見て可愛いなーと思い顔が綻ぶ。
ユキはそんなファナーカの顔を見て
「親バカ……」
と恥ずかしそうに言った。




