才能の片鱗
日の光の眩しさにベルは目を覚ました。
知っている匂い周りの光景、ここは自分の家だった。
気絶する前の事を思い出した。
「テッドは? みんなは?」
ベルがベッドから慌てて飛び出そうとすると部屋のドアが開いた。
母親が様子を見に来たのだ。
「ベル! 目が覚めたのね 良かった……」
母親は安堵の表情を浮かべ
「お腹空いているでしょう?今持ってくるわね」
と言って部屋を出た。
ベルは母親の顔に少し安心した。
すると父親が部屋に入ってきてベルの前で開口一番に
「バカヤロー! 森へは子供だけで入るなと散々言ってきただろう! 本当に危ない所だったんだぞ! ……本当に……無事で良かった……」
父親の真剣な表情と優しくなっていく表情を見てベルは涙を堪えながら
「ごめんなさい……」
と小さく謝った。
「もういい みんな無事だったんだ テッドも怪我をしたみたいだが元気だぞ」
父親はそういった後
「ベル お前が魔獣を引き付けていてくれたから父さんは間に合ったんだ よく頑張ったな!」
やはり助けてくれたのは父さんだったんだ。
ベルの父親は人間の魔法使いで名をファナーカという。元々は人の住む国にいたのだが魔物への差別に異を唱え国を出たらしい。
ベルの母親は鬼族で名をユキという。ファナーカと同じ魔法使いだが鬼族は額に角を生やしていてそれが魔力の源になっている。
ファナーカはベルの潜在的な力に戸惑っていた。
魔獣を圧倒する程の魔力を感じて子供達の場所が分かったのだ。
そしてそれを出していたのはベルだ。
力は正しく使って欲しいが危ない事はしてほしくない。ファナーカはベルを溺愛している。
「お父さん! ぼく何も出来なかった もう危ない事はしないよ だからお父さんの魔法を教えて欲しいんだ」
ベルは何も出来なかった自分を変えたくて父親に頼んだ。
すると母親がお盆を持って入ってきた。
「あなた 教えてあげてみたら? ベルも反省してるみたいだし」
ファナーカは少し黙ってから
「じゃあ元気になったら教えてやる! 今はしっかり休めよ!」
と観念してベルに言った。
魔獣と対峙した時大量の魔力を放出していたベルの体力が戻るまでに3日かかった。
体調が回復した朝ファナーカに連れられて近くの丘まできた。
「難しい話はいずれするが 魔法はイメージが大事なんだ まずは炎だな」
ファナーカは枯れ草を集めそこに火を着けた。
「さあこの燃える炎を見ながら同じものを作り出してみろ」
ベルは両手を前に掲げた。少しするとベルの角が光だした。
ファナーカは驚いた。ベルの手のひらには炎が出来ていたのだ。
「驚いたな。普通なら瞑想でゆっくりと自分の魔力を感じとり炎を出すだけでも一月はかかるだろうに、、、」
ファナーカは自身の好奇心からさらに
「その炎を矢の形に出来るか? この前父さんがやったみたいな」
ベルはこの前ファナーカが魔獣に放った炎の矢を思い出しながら念じた。
すると掌の炎の塊はゆっくりと矢の形を形成しだした。
何てことだ。これはベルの魔力が高いからか?
この世界の魔法は発動させる難易度によってレベル分けされている。
炎を出すレベル1に分類される魔法は一般にも多く使える人がいるが、無機物に形を作るような魔法はレベル3に属する。一般的に魔法使いと呼ばれる人はこのレベルだ。
ベルの作り出した炎の矢は紛れもなくレベル3。
ファナーカが驚くのも無理はなかった。
ベルには規格外の魔力と才能がある。
ベルの特訓は始まったのだった。