ベル誕生
時は流れ魔物が人を襲うこともほとんどなくなった。
とある森の奥深くにある小さな魔物の村に小さな男の子が誕生した。
両親はその男の子にベルと名付けた。
ただこの男の子はただの魔物の子ではなかった。
人間と魔物の混血児なのだ。
魔物には鬼族、獣人族、魚人族など様々あるが人との間に出来た溝が深く差別や迫害の対象になっている。
暮らしが豊かではなくなった魔物達の中にはごく少数変装をして人間に正体がバレないように人の町に暮らしている者もいる。
見付かれば確実に殺されるのも分かっている。
恐怖に怯えながら暮らしているのだ。
ベルは優しい両親や広大な自然に囲まれてすくすくと育っていった。
決して豊かではない生活だったがベルは幸せだった。
ベルが五歳になったある日その日は天気が良かった。朝からベルの家に賑やかな声が響く。
「ベルー! 遊ぼう!」
村の子供達だ。ベルは
「今行くよー!」
と言って直ぐに家を飛び出した。
一番年上の獣人テッドはみんなの中でもお兄さんのような存在。ヤンチャだけど面倒見が良いのでリーダーだ。
テッドの弟ダッドはベルと同じ年だ。
ダッドは控えめでいつもテッドの後ろにいる少し気弱な子だ。
女の子のリンは鳥人の子で綺麗な白い羽をもっている。
性格は真面目だがたまに抜けているところがあったりもする。
竜人の女の子シャルは大人しいが優しくみんなから妹のように可愛がられていた。
ベルは四人が大好きだった。
テッドが開口一番に
「今日は何して遊ぼうか?」
と言うとリンが
「私昨日ママから傷に効く薬草の話を聞いたの。だから森に入って薬草探ししない?」
ベルは宝探しのようで楽しそうだと思い。
「薬草探ししようよ!」
とリンに同調する。するとダッドは
「でも森には恐い魔獣がいるから子供だけで入ったら危ないってパパもママも言ってたよ」
と恐る恐る言った。テッドは
「そんなに奥に入って行かなければ大丈夫だろ!この前父ちゃんと森で狩りを手伝ったけど大丈夫だったし」
テッドがそう言うとダッドも
「兄ちゃんがそう言うなら……シャルは?」
と聞くとシャルは黙ってうなずいた。
森の中に入っていくのは初めてではなかったがそれは親と一緒に入っただけで子供だけで行くのは初めてだった。
先頭きってテッドが進んでいく。ダッドとシャルはおどおどしながら付いていく。リンは生えている草や木を見て薬草になる草を探していた。ベルはただただワクワクな気持ちでいっぱいだった。
大人になったようなワクワクはテッドも同じだった。
自分がいるから大丈夫だと恐怖よりも好奇心の方が勝り俄然進んでいく。
どれくらい時間がたっただろう。気付けば森は様相を変え薄暗くなっていった。
それにも気付かずにどんどん進んでいった。
しばらくしてダッドが
「なんか様子がおかしくなってない?あんなに明るかったのに今はすごく恐いよ……」
ここでようやくテッドも異変に気付いた。
「ちょっとこれは行きすぎたなー。少し戻ろう!」
みんなが頷き引き返そうとすると
ガサガサ!
どこからか音がした。何かが近くにいる?
獣人は人よりも何倍も聴覚が優れ気配を察知する能力にも優れていたがテッドは浮かれ、ダッドは恐怖で気付けなかったのだ。
五人は円形に背中を向け合い辺りを見回した。すると
ガサガサ
「グゥルルルルル」
唸り声をあげながら草影から熊ほどに大きな狼の魔獣が姿を見せた。
魔獣とは障気を浴びて変化した野性動物で通常の動物よりも大きく獰猛で人間も魔物も襲う。大抵は死んだ魔物の怨念等によるものが多いが薄暗くなった森は障気による影響だったのだ。
そんな事を五人は知るよしもない。
テッドは恐怖と驚きで一瞬動きが止まったが直ぐに
「みんな!逃げろ!」
と叫んだ。
しかしダッドは腰を抜かしてしまい動けずシャルもその場でへたりこんでしまった。
それを見たリンは二人を羽で包むように覆い被さった。
ベルは恐怖で言葉も出なかったがリンの前に両手を広げて立った。
テッドはライオンの獣人だった。長い赤髪の毛を逆立て指先に力を込める。四人を守るのは俺しかいない。自分を奮い立たせ叫びながら飛び出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
テッドは魔獣の後ろに素早く回り込む。魔獣がテッドを捉えようと振り向こうとした瞬間テッドは高くジャンプをして魔獣の首もとに飛び乗り落ちないように爪を立て魔獣の首に思い切り噛み付いた。
魔獣は一瞬顔が強張ったが直ぐに首を振り、テッドを振り払おうとした。
子供と魔獣では力の差が歴然だ。
「兄ちゃん!」
ダッドがそう叫んだ瞬間テッドの身体は木に強く打ち付けられていた。
テッドはそのまま地面に叩きつけられた。
シャルとリンは震えている。ベルも震えが止まらなかったが同時に怒りもこみ上げてきていた。
魔獣はゆっくりと一歩、また一歩とベルに近付いて歩いてくる。
ベルは動かない。
そして魔獣がすぐそばまで来たとき魔獣の動きが止まった。
魔獣を見据えるベルのただならぬ気配を直感で感じ取ったのだ。
どれくらい時間がたっただろう。実際の時間はさほど進んでいなかったがベルは全身から嫌な汗が大量に出てくるのを感じていた。この場を動いてしまったらみんな殺されてしまう。
ベルはそう確信し動くことが出来なかった。
その瞬間上空から
「ファイアランス!」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと同時に魔獣の頭上から炎の矢が降り魔獣を貫いた。
炎の矢に貫かれた魔獣はそのまま燃えズズンと大きな音をたてて倒れた。
魔獣の燃え朽ちていく姿を見ながらベルの意識は遠退いた。