第八十一話 学生の本分はやっぱ勉強だよね!
瑞穂とのシュート練習に付き合って帰宅。『今日も遅かった……』と不満そうな顔をする桐生さんをあやし……あやし? ともかく少しだけお喋りをして自室へ。通学カバンをベッドに放り投げた所でスマホが鳴った。茜だ。
「もしもし?」
『あ、もしもし、おにい? 今、大丈夫?』
「おー。大丈夫だ。どうした? なんかあったか?」
後は飯食って風呂入って寝るだけだからな。暇だよ、暇。
『瑞穂から色々聞いたよ? まあ、秀明からもだけど……仲直りしたんだって、二人』
「あー……仲直りっていうか……まあ、仲直りか」
『三人の関係性も一歩進んだって聞いたし……良かったね、おにい』
「……あんがとよ。ああ、そういえばお前にも報告して無かったな」
こいつも色々動いてくれてたのにな。申し訳ない。
『ん? ああ、良いよ、私は別に。自分のしたい様にやっただけだし』
「……さよけ」
『さよ、さよ。まあ、少しぐらいは感謝してるんなら今度の長期のお休みにでも京都に遊びにおいでよ』
京都ね~。そう言えば行ったのはもう一年近く前になるのか?
「あー……そうだな。なんだ? お前も寂しいのか? お兄ちゃんに逢えなくて」
『私? まあ、寂しくないって言ったら嘘になるよ? ずっと一緒に暮らしてた家族と離れ離れだし。自分で決めた事だから、文句も言えないけど……全然平気です! っていうほど私も強い子じゃないしね~』
「……まあ、そっか」
しっかりしてる気がするがコイツだってまだ十六歳の高校一年生だ。そりゃ、ホームシックに掛かってもおかしくないし――
『後、明美ちゃんが煩い。『浩之さん成分が足りない』って唸ってる。正直、ちょっと怖いんでなんとかして欲しいです、はい』
――うん、コイツ、俺を生贄に差し出す気だな? やっぱりしっかり者だわ、この妹!
「……明美、なんて?」
『一年近く顔を出してないとか、東九条の分家としての自覚が足りないとか、色々言ってるけど……要約すると『浩之さんに逢いた過ぎて死ぬ』って言ってる』
「……」
『……愛されてるね~、おにい』
「……どうしよう。全然、嬉しくない」
『そんな事言わないであげて……主に私の平和の為に』
「……」
『ちなみに来るんなら三泊ぐらいは覚悟してよ? 明美ちゃん、『浩之さんに東九条の歴史を叩きこむ』って京都の旧所とか名所をマッピングしてるから』
「……マジか」
『聞いて驚け。なんと、そのマッピングしてる所がまあ、定番の京都旅行のデートスポットなんですぜ、旦那』
「……キャラがぶれてるぞ」
『おっと、失礼。でも、何が凄いって『デートスポット?』って聞いたら真っ赤な顔して『そうじゃありません! こ、此処は私たちのご先祖様が』って東九条の歴史を語りだしたところだね。私たちの家って思った以上に凄かったんだね~って再確認しちゃった』
「……そりゃスゲーな」
だって、京都の旧所とか名所でデートスポットになる程の定番コースに俺らのご先祖様の逸話があるって事だろ? それもそこかしこに。
「……まあ、考えとく」
『考えとくと言うより、絶対来てよ? これ以上明美ちゃん放置したらきっとクスリの切れた患者みたいになるから』
「……またタイムリーな。想像が付かんが」
『明美ちゃんがそうなるのが? それとも、クスリの切れた患者が?』
「両方だな」
俺の傍には居ないしな、そんな患者。明美だって、いつだって凛とした大和撫子だし……そんなポンコツな姿、見た事無い。
『でも大体想像つかない? あれよ、アレ。瑞穂からバスケ取り上げたって想像してみて?』
「……ああ」
『ね?』
「分かりやすいほど分かりやすい例えだな、それ」
『雪を見た犬と一緒だからね、ボールとコートのある瑞穂って。嬉しくて走り回ってるんだよ、あの子』
「……なんか言い方が酷い気がするが……」
『こんなもんだもん、私ら。正直、身長やプレイでは負けるつもりは無いけど……あのバスケに対する情熱だけは逆立ちしても勝てないね』
「お前でもか? お前も結構バスケ好きだろ?」
『そりゃ好きだからわざわざ京都の高校まで来てるんだけど……それでも瑞穂には勝てないよ。あの子、バスケする為に生まれて来た様なモンだもん』
「……確かに」
『最近、おにいも瑞穂のお手伝いしてるんでしょ? 瑞穂、嬉しそうに言ってたよ? 『浩之君が手伝ってくれてる!』って』
「そうかい」
浩之君が手伝ってくれてる、ね~。つうか、アレは手伝っているっていうか――
「……あれ?」
『ん?』
「浩之『君』? あいつ、俺の事『浩之先輩』って呼んでる気がするけど……」
『ああ、対外的にはね。私ら三人で居る時は皆君付け、ちゃん付けだよ?』
「……懐かしいな」
そう言えば小学校までは秀明にも『君』付けで呼ばれていたし、俺も小学生の頃は誠司さんも『誠司君』って呼んでたっけか。アレだよアレ。某イケメン男性アイドルグループの事務所と同じ感じだよ。
「……何時からだっけ?」
『『先輩』呼びとか、『さん』づけになったの? 中学校に上がったぐらいかな~。瑞穂も秀明も『流石に先輩に『くん』付けとか『ちゃん』付けはヤバい』って言いだして』
「……お前は?」
『私はバスケの後輩だけど、それ以上に幼馴染だし。別にそこまで涼子ちゃんも智美ちゃんも気にしてないなら良いかな~って』
なるほど。関係性の差か。
『ま、そんな事はどうでも良いの。ともかく……瑞穂、ちょっとオーバーワーク気味だからよく見てあげてね、って話がしたかったの』
「……智美にも言われたよ」
『んー……でも、多分、智美ちゃんも知らないと思うよ? あの子、学校の練習した後にロードワーク出てるし、朝は朝で走り込みしてるから』
「……マジかよ」
『マジ。『まあ、それでも全然ミニバスの時に比べたら楽だけどね~』ってこないだは言ってたけど……大丈夫かなって』
「……そうだな。確かに、それは心配だな。体を休めるのも練習なのに――」
『ああ、違う違う』
「――それじゃ……え? 違う?」
『練習自体はウチの高校でも同じくらいやってるし、瑞穂の体力なら大丈夫でしょ。そうじゃなくて』
一息。
『天英館ってさ? 一応、進学校でしょ? 勉強、大丈夫かなって』
……『浩之せんぱーい! 勉強、教えて下さい!!』と瑞穂が教室に涙目で乗り込んで来たのは翌日の朝の事だった。
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