第六十七話 動き出す時が来たんだよ、みんな
公式での発売日は今日になる私、疎陀の新刊が出ます。二年振りくらいの新刊なんで結構ドキドキしてる。悪役令嬢許嫁共々、そちらもお願いできれば!
「……未来は俺の手の中、か」
「そうね。いつだって、貴方は……違うわね。貴方達は、貴方達の未来を好きに作る事が出来る。望んだ形にね?」
「話だけ聞けば壮大な話だよな、未来を好きに作るって」
「そうね。でも、それが普通の事よ? 誰だって、未来を変えられるのよ。だって、自分の事なんですもの。努力すれば、なんだって叶うわよ」
「……お前が言うと含蓄があるな」
「そうね。私、努力をしてきた人間ですもの」
おかしそうに笑って。
「……後悔しない人間なんて、世界の何処にもいないのよ。後悔先に立たずって言葉もあるぐらい、『後』で『悔』いると書いて後悔なんだし」
「……」
「そこで立ち止まって、何もしないならそれっきりよ。でもね? そこで歩き出せる人間は、必ず自らの未来をより良いモノに出来ると私は信じてる。そして」
同様に、貴方はそれが出来る人間だと。
「私は……その事も、信じてる」
「……そっか」
「ええ」
「……じゃあ、お前の期待に応えない訳には行かねーよな」
「そうよ。だって貴方は強くて、優しい人間ですもの。きっと、三人の未来をよりよくしてくれるって信じてるわ」
「……ちょっと待て。期待が大きすぎる気がするんだが」
俺、別に強くもないし優しくもないぞ?
「良いのよ。私が勝手に信じてるだけだから。だって、貴方は未来の旦那様よ? 旦那の事を信じられない妻が何処にいますか」
「……照れ臭いんだが」
「……言わないで。私もちょっと恥ずかしかったから」
そう言ってお互いに顔を見合わせて苦笑い。なんだ、この茶番劇。
「……でもまあ、ありがとうよ」
でも……まあ、なんだ。悪い気はしない。
「頑張りなさい、東九条君。どれだけ失敗しても良いじゃない。どれだけ間違ったって良いじゃない。胸を張って、正々堂々間違ってきなさいよ」
心配しないで、と。
「前も言ったでしょ? 例え、世界中の皆が貴方を間違っていると、認めないと言っても――私は、貴方の味方よ、東九条君!」
そう言って、笑顔を浮かべて見せて。
「……だから、それは俺のセリフだろうが」
「あら? 言い続けた方のモノになるのではないの?」
「なんねーよ。なんだよ、その特別ルール」
それでも、少しだけ方針は見えた気がした。
◆◇◆
「……そっか」
翌日の放課後、俺は涼子を呼び出して屋上に上がっていた。昨日智美と逢った事、喋った事、そして――これからの事。そのことを、涼子には話をしておかないといけないと思ったから。だって、俺たちはずっと『三人』で居たから、その三人の誰かにこの話をしないなんて、選択肢として無かった。
「……思った以上に色々考えてたんだね~、智美ちゃん」
「……だな」
「良かったよ。私の幼馴染は脳みそまで筋肉で出来ているかと思ってたんだけど……そうじゃなくて」
「……お前な?」
「じょーだんだよ、浩之ちゃん」
そう言ってクスクスと笑う涼子。その後、視線を中空に向ける。
「……そこまで考えて、浩之ちゃんの告白を『抑えた』のかぁ~。それは智美ちゃんにちょっと悪い事をしたかもね」
「……そうだな。俺が――」
言い掛けた俺を手で制し。
「浩之ちゃんだけじゃないよ? 私も……勿論、智美ちゃんだって、皆この関係を是としたんだから」
「……」
「この関係を『続けたい』と思ったのは智美ちゃんだけかも知れないけど、この関係でも『良い』と判断したのは私達だから……だから、結局皆悪いんだよ」
「……誰も悪く無いかも知れないけどな」
「……そうだね。もしかしたら……誰も、悪くは無いのかも知れないね」
少しだけ寂しそうに笑う。
「……それで? 浩之ちゃんはこの関係を『どう』するつもりなの?」
「……」
「まだ、今のままで続けて行く? それとも、此処で終わりにする?」
「……どっちが良い、って聞くのはズルいか?」
「ズルいとは思わないよ? だってこの話は、私達三人のことだもの。私だって登場人物だし……もっと言えば、主役の一人ではあるじゃん?」
「メインヒロインだしな、お前」
「メインヒロインは智美ちゃんかな? ひょっとしたら、浩之ちゃんの物語のメインヒロインは別の人かも知れないけど?」
「……茜か?」
「なにそのシスコン。私、浩之ちゃんのそういう所、ちょっと嫌い」
そう言って『んべ』と舌を出す涼子。そんな涼子の仕草に頭を少しだけ掻く。
「……ねえ?」
「……なんだ?」
「もし、私がこの関係を終わらせたいって言ったら、浩之ちゃんはどうするの?」
「どうするって……どうも出来ないだろ、そんなの」
涼子の気持ちは涼子だけのものだ。それを『止める』なんて権利は俺にはない。智美にだってない。それは、涼子だけの気持ちだ。
「……そうだよね。結局、誰か一人がこの関係を終わらせるって言ったら、破綻しちゃうもんね~」
「……」
「……難しいね~、幼馴染って。私、今まで二人と幼馴染でイヤだったことなんて無かったけど……今はちょっとイヤかな」
「……んな寂しい事言うなよ」
「御免。でも、それぐらい結構今は辛いかもね」
いつになく、弱気な態度を見せる涼子。その姿が、なんだか小さく見えた。そんな姿に、少しだけ言い淀み――でも、これは言わなくちゃいけないと、思い直して。
「……俺は、今のままの関係が良いとは思えない」
俺の言葉に、びくっと涼子が体を震わしたのが分かった。
「……そっか」
「……このままで、すべてが丸く収まると……上手く行くとは思えない。もしかしたら、今は時期じゃないかも知れないけど……それでも、このままが良いとは思えない」
「……そうだね。このままじゃいけないかもね」
「……寂しいけどな」
「……ううん。それで良いんじゃないかな? 浩之ちゃんの決定がそれなら、私はそれに従うよ。だから――」
浩之ちゃんは、浩之ちゃんの好きな様にすれば、良い、と。
「……わりぃな」
「……良いよ。いつかはこんな日が来ると思ってたから」
「……」
「……智美ちゃんには、いつ話す?」
「……そうだな。早い方が良いから、ちょっと予定を確認して――」
ポケットから携帯電話を取り出し――気付く。
「……秀明?」
そこに、秀明からの着信があった事を。
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