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コミカライズ開始記念! 『写真立ての中の君は』

コミカライズ連載開始記念! ということで、本日9月17日、コミカライズ連載が開始します! ラノベ屋デビュー10年にして初のコミカライズという事でテンションがだいぶ上がってます! いや……嬉しい、嬉しい!! ぜひ、ぜひ、コミカライズの方も応援頂ければ! 面白いですから!!


「……あ」

 土曜日の夜、明日は小テストがあると言う事で勉強でもしようかと鞄を開けて気付く。

「……やべ」

 英和辞典、忘れて来た。いや、まあ忘れて来たというかデフォルトで置き勉だからいつも通りと言えばいつも通りなんだけど……ふむ。

「おーい、桐生?」

 部屋を出てリビングへ。本を読みながらテレビのニュース番組を見ている桐生に声を掛ける。と、いうかだな?

「……また器用な事してんな? それ、頭に入るのか? 本読みながらテレビなんて見て」

「テレビは流してるだけよ。気になるワードが耳に入ったら画面に視線を向けるくらいのものね」

「あー……音楽聞きながら勉強するみたいなもん?」

「まあそうね。私は音楽聞きながら勉強はしたこと無いけど……あれでしょ? 歌詞が気にならなくなったら集中出来てるんでしょう?」

「それはどうか分かんないけど」

 俺も音楽聞きながら勉強したりするけど、基本は歌詞の方に意識向くし。気付いたら歌ってたりして茜のすげー冷たい目で『音痴が歌うな』って言われた事もあるしな。

「それで? 何か用事かしら? コーヒーでも淹れましょうか?」

 ぱたんと本を閉じてそう言う桐生。

「淹れてくれるのか?」

「まあ、コーヒーぐらいはね」

「あー……そっか。それじゃ貰おうかな」

 勉強しながらコーヒーも良いかも知れんし。

「そうだ。桐生、今暇――じゃないか。本読んでるんだし」

「暇だから本を読んでる、っていう所よ。それに……」

 そう言って少しだけ視線を下げて頬を染めてチラリと視線をこちらに上目遣いで向けてくる。


「そ、その……貴方が遊んでくれるなら……忙しくても暇を作るんだけど……?」


 ……おい、止めて? 可愛いから、それ。

「あー……そうなるとちょっと厳しいかな?」

 それを誤魔化す様に視線を逸らしながらそんな事を言って見せる。そんな俺に、桐生が訝し気な視線を向けて来た。

「……遊んでくれないの? それじゃ、なんで暇かどうか聞いたのよ?」

「俺のクラス、明日英語の小テストがあんだよ。だから良かったら教えて貰えないかなって……」

 学年一位を入学からずっとキープしている才女だしな、桐生。そう思ってお願いする俺に桐生は花の様な笑顔を浮かべて見せる。

「そう言う事ね! 分かったわ、それじゃ教えてあげる!!」

「ええっと……良いのか? 俺から言い出してなんだけど……なんか『遊ぶ』って感じじゃないぞ?」

「良いわよ。確かに遊ぶって感じじゃないけど」


 ――貴方と一緒に居れるなら、と。


「……光栄です」

「ええ、そう思って頂戴。それで? それを言いに来たの?」

「ああ、違う違う。実は小テストだってのに英和辞典忘れて来てな? ちょっと貸して貰えないかと思って……」

「……呆れた。貴方、明日テストなのに英和辞典忘れてくるなんて……本当にやる気があるのかしら?」

 そう言って言葉通り呆れた表情を浮かべる桐生。う……め、面目ない。少しだけ肩を落とす俺に、桐生はにこやかに笑んで見せる。

「……なんてね? 冗談――でもないけど、それでもかまわないわ。むしろ、こういう時二人暮らしって便利よね?」

「……まあな。もしお前が何かを学校に――は無いか。家に忘れた時は俺を頼れ。なんせ、殆どの教科の教科書は学校のロッカーに入っているからな!」

「自慢できる事じゃないわよ。まあ、いいわ。それじゃ東九条君、辞書は私の部屋の机の上のブックスタンドにあるから持ってきてもらえるかしら?」

「おう!」

 ………………ん?

「おう?」

 へ? なんて言った、桐生? きょとんとする俺に、桐生の視線に険が増す。

「なに? 貴方、私に借りる辞書を持って来いって言うの? 言っておくけど、貴方に頼りにされるのは大好きだけど、『あて』にされるのはちょっとイヤよ? 貴方に支えられるだけも嫌だけど、貴方を支えるだけも嫌だもん。私は二人で一緒に歩みたいの」

「いや、それは俺もそう……」

 ああ、いや、そうとばっかりも言い切れないけど。

「……なんで言い淀むのよ? まさか貴方、私に頼りっきりに……」

「じゃなくて。桐生は嫌かもしれねーけどよ? やっぱり桐生は女の子だし、こう……守ってあげたいと言うか……」

 なんて言うか……桐生の事をただ『甘やかしたい』って気持ちもない訳じゃないんだよな、やっぱ。こいつ、昔は『女の子扱いされて嬉しい』って言ってたしさ?

「そ、そう……なによ、嬉しい事言ってくれるじゃない」

 頬を先ほどよりも赤らめ、チラチラとこちらを見やる桐生。なにそれ、かわい――じゃなくて!

「その……桐生の英和辞典を持ってくるって事は……桐生の部屋に入るってことだよな?」

「そうだけど?」

「……不味くね?」

 一つ屋根の下で暮らしてはいるが……それでも、流石にお互いのプライベート空間に足を踏み入れるのは少しだけ躊躇もするぞ?

「今更でしょ? 風邪の看病の時は部屋に入ったのだし……言わなかったかしら? 私、朝が弱いから部屋の鍵は開けてるって」

「そりゃ、言ってたけど……」

 言ってたけど……流石に桐生が居ない時に桐生の部屋に入るって……

「東九条君なら変な事、しないって信じているから。部屋に入って、辞書を取って、自分の部屋から勉強道具を持ってきなさいな。その頃には桐生彩音特製の美味しいコーヒー付き家庭教師が待っているから」

「……」

 ……まあ、桐生が良いって言うなら……

「……分かった。それじゃ部屋に入らせて貰うな?」

「ええ。時間がもったいないから早く持ってきな――」

 そこまで喋り、桐生はにこやかな笑顔を悪戯っ子の様な表情に変える。



「――ちなみに下着類は箪笥の二番目の引き出しに入っているからね?」



「いらねえよ、そんな情報!!」

 何言ってんだ、コイツ! そんな俺にくすくすと笑って見せる桐生に肩を竦めてリビングを後にして桐生の部屋に。

「……お邪魔しまーす」

 誰も居ないのは分かっている。分かってはいるが……なんとなく、そんな事を言いつつ部屋に入る。部屋の中からは俺の部屋と違う、なんとなく『甘ったるい』、桐生の香りが漂っている気がして、見るとは無しに桐生の部屋を見回して。

「!? っ!!!」

 部屋の箪笥が目に入り、桐生の悪戯っ子の表情が思い浮かぶ。要らん情報のせいでなんとなく視線が釘付けになりそうなのを意思の力で振り切り、机に向ける。

「えっと……英和辞典、英和辞典、と……」

 机の上のブックスタンドに立った漢字辞典、教科書、参考書の中から目当ての英和辞典を発見し、そちらに手を伸ばして。


「……って、あれ? 俺?」


 机の上、向けた視線の先に写真立てが一つ。そこには今まさにシュートを打たんとして、膝をぐっと畳んでゴールに真剣な目を向ける俺の写真が。ええっと……これ、もしかしてアレか? こないだの市民大会か?

「……なんで?」

 写真立てを手に取った俺の頭に、『はてな』が浮かぶ。と、まるで地震でも起きたかのような『ドタドタ!』という音が廊下から響く。何事!? とドアに向けると同時、ドアが勢いよくバタン、と開いた。



「ひ、東九条君!? ちょっと待って! 部屋の中をみな――」



 顔を真っ赤にして、肩で息をする桐生の視線が俺の手元の写真立てに向けられる。今の今まで真っ赤だった桐生の顔が、今度はさーっと血の気が引いたように青くなる。

「そ、それ……」

「ええっと……」

 プルプルと震える指先で俺の持っている写真立てを指す桐生。ええっと……

「その……勝手に触って申し訳ない。申し訳無いんだけど……」

 これ、なに? そう思い首を捻る俺に、桐生は青くなった顔を下げたり上げたりした後、諦めた様に小さくため息を吐いた。

「その……こないだの市民大会の写真よ」

「それは分かるんだけど……」

「……賀茂さんが写真を撮ってたのよ。まあ、写真というより動画を撮ってそっから切り取ったって感じらしいのだけれど……その……」

「……うん」

「か、賀茂さんに動画を見せて貰ったのよね? そ、それで……そ、その、その時の貴方が、こう……す、すごく……」


 格好、良くて、と。


「……賀茂さんにお願いして……一枚、写真を焼き増しして貰って……飾っている次第です」

「……次第ですか」

「……はい」

 ええっと……え? これ、どういう反応が正解? ありがとうと言うのも違う気がせんでもないし……


「その……御免なさい!」


 そんな事を考えていると、目の前の桐生が俺に頭を下げる。ちょ!

「な、なんで桐生が頭下げるんだよ!?」

「だ、だって……気持ち悪くない? 盗撮……では言い方悪いけど、勝手にこっそり撮った貴方の写真を部屋に飾っているなんて……気分を害したりしないかなって……」

 しゅん、と俯く桐生のその姿に。


「……んなワケ、ないだろ?」


 苦笑を浮かべて俺は桐生の頭を撫でる。ちょっとびっくりはしたけど……でもまあ、なんだ? 悪い気はせんよ。

「その……自分で言うのもなんだけど……ちょっとは格好いいって思ってくれたんだろ?」

「ううん」

「なら――う、『ううん』? あ、あれ?」



「……ちょっとじゃないもん。凄く、だもん。凄く……格好良かったんだもん……」



 少しだけ拗ねた様にそう言って俺の手に頭をぐりぐりと猫の様に擦り付けてくる桐生。ったく……嬉しい事を。

「……それじゃ怒る事はねーかな? 有難い話だよ」

「……ホント?」

「……逆にさ? お前、俺が部屋にお前の写真飾ってたらどう思う?」

「……ちょっと嬉しいかも。それだけ大事というか……思って貰えてるんだな~って」

「だろ? だからまあ……そんなに気にしなくていいぞ?」

「……これからも飾っても良い?」

「あー……まあ、うん。大事にしてください?」

 何言ってるんだろ、俺。そう思いながら写真立てを桐生に返すと、桐生は嬉しそうにその写真立てを一度抱きしめると、丁寧に机の上に置きなおした。

「ふふふ。ありがと」

「あー……どういたしまして」

「でも本当に良かったわ。引かれたらどうしようって、そう思ったもの」

「引きはしないぞ。っていうか、よく考えたらまあ、あり得る事だしな」

「あり得ること?」

「涼子、マネージャーみたいな事してるって言っただろ? だからまあ、小さい時から俺のビデオとか写真とか良く撮ってくれてるんだよ」

「……ああ、そう言えばそんな事も言ってたわね」

「だからまあ、そう言う意味では賀茂家には俺のビデオやら写真やらが沢山あるんだよ」

 捨てたと言う話も聞かんし、多分まだあるんじゃないか?

「……」

「……なんで不満そうな顔?」

「なんとなく……ちょっとズルいと言うか……羨ましいなって」

「……」

「だって……そのビデオやら写真やらには鈴木さんも川北さんも映ってるんでしょ?」

「そりゃ……」

 まあ、同じチームだったしな。

「賀茂さんだってきっと映ってると思うし……そう思うと、その……私だけ」


 想い出が少ないな、って。


「……仕方ないのは分かってるのよ。分かってるけど……」

 そう言って苦笑を浮かべ、『我儘言ってごめんね?』という桐生。そんな桐生に頭をガシガシ掻くと、俺はズボンのポケットからスマホを取り出すと、頭に回していた手を桐生の肩に置く。

「……え? ひ、東九条君!? 何を――」


「はい、チーズ」


「――え?」

 カシャ、という音が鳴る。動揺した桐生の肩から手をどかして俺は今撮った写真の写りを確認。うん……まあ、良いんじゃない? 手元のスマホを操作して桐生のスマホに今の写真データを送る。

「ほれ、桐生。スマホに今の写真、送っておいたから」

「え? え、ええ!?」

 未だに動揺が隠せない桐生にそっぽを向き――自分でもなれないことしてると思ったんだよ!!

「その……なんだ? 俺とお前の想い出が少ないのはまあ……仕方ないって言うか。でもまあ、これから増やしていけば良いんじゃないかというか、なんというか……」

 ……何言いたいんだろ、俺? なんでこう、格好つかないかな~……

「……ふふふ」

「桐生?」

「ありがとう、東九条君。凄く、凄く嬉しいわ」

 スマホを先ほどの写真立て同様、ぎゅっと胸元に抱え込んで桐生は本当に嬉しそうに笑んで見せる。あー……まあ、そこまで喜んでくれると、まあ……うん。

「……これ、そう言えば初めてのツーショットね?」

「そうだな……っていうか、ツーショット云々よりもそもそも写真を撮った事すら初めてじゃね?」

「確かにそうね? ちょっと勿体ない事を――ああ、でもまあいいかしら?」

「良いって?」

「だって私、最初はその……物凄く感じ悪かったでしょ?」

「……まあ」

「その時の写真とか見たら自己嫌悪を覚えそうだし……そう言う意味では過去を振り返るんじゃなくて、未来を見た方が良いじゃない?」

「大袈裟な」

「大袈裟なものですか。もし、私たちの話がドラマ化とかしてみなさい? 私、最初の出逢いのシーンとか見たら自己嫌悪で立ち直れないわよ? 東九条君になんて酷い事言ったんだ、って」

「ドラマ化することはないから安心しろ」

 何処の世界に高校生の日常生活ドラマ化するような奇特な人間が居るんだよ。

「ま、冗談はともかく……俺が言いたいのは、これから沢山、想い出作ればいいだろって事だよ」

 これから長い時間、一緒に過ごすんだしな。そう思って笑顔を浮かべる俺に、桐生も嬉しそうに。



「――うん! たくさん……たくさん、想い出作ろうね!!」



 綺麗な綺麗な笑顔を浮かべて見せた。



◆◇◆


「そ、それでね? もうバレたから良いかと思うんだけど……」

「良いかと思うって……って、おい? なんだそのアルバムは?」

「そのね! 賀茂さん、凄いのよ!! あの試合だけじゃなくて練習中も沢山動画とか写真を撮っててね! それで、皆で品評会をして各々好きな写真を持って帰ったの!!」

「持って帰ったって……ああ、あの時か? 俺が実家に帰った日か? 確か皆、この家に来たんだよな?」

「そう!! 凄かったのよ! 鈴木さんなんて『端から端まで、全部!』って! 私、負けてられないって!! それでも万が一、この写真を持ってる事がバレて東九条君に嫌われたら嫌だなって思って、泣く泣くアルバム一冊にまで厳選したんだけど……私だって全部欲しかったんだから!! 東九条君が許してくれたんだから遠慮しなくていいわよね!! もう一回、賀茂さん達と品評会して東九条君の写真、全部『お迎え』するわ!!」

「……やめてくれ、恥ずかしいから」




コミカライズを今の桐生さんが見たら凹みそう……でも、3話くらいの桐生さんがもうデレの片鱗を見せてますよ!!

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