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第五十六話 茜ちゃんからの電話


 桐生お手製の『肉じゃが』を食した夜。結構な量があったため膨れた腹をさすりつつ、俺は自室のベッドに寝転がり食休みを取っていた。味は……なんだろう。決して不味くは無かったが、無茶苦茶旨い訳でも無いというか……無難? 無難な味だった。まあ、さして味は重要ではない。自分の為に作ってくれた、という事実が結構嬉しかったりするのだ。

「……ん?」

 寝転がった俺の耳に『ブー、ブー』と何かが振動する音が机の上から聞こえて来た。視線をそちらに向けると。

「……茜?」

 机の上に置かれたマナーモードのスマホが振動していたのだ。画面に映し出される文字は我が妹である茜の名前。

「……もしもし」

『もしもし、おにい? 元気?』

「元気だけど……どうした?」

『いや~ちょっとおにいの声でも久しぶり――でも無いね』

「……そうだな」

 コイツ、数日前にも掛けて来たしな、電話。涼子が智美と喧嘩したら必ず茜に愚痴り、そのまま茜が俺に文句を言う流れだし。

「……また涼子から電話が有ったのか?」

『ん? なんで涼子ちゃんから電話があんの?』

「いや……今日、智美と遊びに行ったからさ。何処からかその情報を仕入れた涼子がお前に愚痴を言ったのかと……」

『涼子ちゃんは別にスパイじゃありませんので。そんな事まで知ってるワケ無いじゃん』

「そっか……まあ、そうだよな」

『でも、智美ちゃんと遊びに行ってたのは知ってるよ、私』

「……お前がスパイ?」

『私はただの女子バスケのグッドプレイヤーですよ。秀明から電話掛かって来たから』

「……ああ」

 俺と智美、それに涼子もまあ仲良し幼馴染ではあるが、秀明と瑞穂、それに茜も幼馴染っちゃ幼馴染だし仲も良い。

『なんかおにいが智美ちゃんと凄い美人連れて遊んでた姿を目撃したって言ってたよ。その凄い美人ってのが件の許嫁さん?』

「あー……まあな」

『凄い美人なの?』

「……否定はせん」

 涼子、智美と共に三大美女って呼ばれてたらしいし……主観的に見ても美人さんだとは思います、ハイ。

『ほへー。そっか~……でもまあ、なんていうか……おにいも凄いよね? その取り合わせで一緒に遊びに行くって』

「なにがだよ?」

『だってさ? それって両手に花かも知れないけど、両手に核弾頭でもあるじゃん?』

「……」

 いや、核弾頭って。

『智美ちゃんはおにい大好きだし、許嫁さんは……秀明曰く、仲が良さそうに見えたって言ってたし』

「……まあ、最初に比べれば仲良くはなったかな?」

『でしょ? なに? おにい、ラブコメの主人公かなんかなの? ヤレヤレ系なの?』

「……俺のクラスメイトと似たような事言いやがりやがって……ちげーよ」

 っていうか、誰がヤレヤレ系だ、誰――


 ……ん?


「……おい」

『ん? なーに?』

「今、聞き捨てならんことを言っていた様な気がするが……なに? 智美が俺の事を好き?」

『うん』

「……」

『……え? 気付いてないとか言わないよね?』

「……いや、気付いてないとは言わんが……え? 知ってんの?」

 え? お前も気付いてんの、それ?

『むしろ知らないワケなくない? 何年一緒に居ると思ってんの? まあ、智美ちゃんの好きは家族愛も含めてだろうけど……少なくとも、押し倒したらぎゅっと目をつぶってプルプル震えながらもしっかりおにいを受け止めるぐらいには男として好きなんじゃないかな~とは思うよ?』

「女子高生が押し倒したりとか言うな!」

 そんな子に育てた覚えはないぞ、お兄ちゃん!

『まあ智美ちゃんはまだまだお子ちゃまだからね~。その辺りの自覚はあっても、行動に移すのは難しいんじゃないかな~』

「……」

『あれ? どうしたの?』

「いや……なんとなく、涼子と同じ事言ってるなと」

『涼子ちゃんの方がもうちょっと大人だからね~。現実が見えていると言いましょうか』

「……なにその上から目線。あれ? お前、俺らより年下だったよな?」

『『妹』でしょ? 年下に決まってんじゃん。でもまあ、そういう幼馴染の機微的なモノは私らの方が上かもね』

「幼馴染の機微って」

『だっておにい達ってさ? 幼馴染拗らせてるでしょ?』

 うぐ……ひ、否定は出来ん。出来んが……

「……なんだよ、幼馴染拗らせてるって」

『智美ちゃんはおにいに依存しているし、おにいはおにいで智美ちゃんに依存している。涼子ちゃんはそんな二人を良しとはしないで、それでも黙って見守っている。ほら? 幼馴染拗らせてる』

「……別に俺は智美に依存してないと思うんだが?」

『そんな事ないよ? だって今日、智美ちゃんと遊んだんでしょ?』

「遊ぶと依存になるの?」

『黙って聞く。それって、約束してたの?』

「……いいや」

『でしょ? こっからは想像だけどさ? おにい、昨日は涼子ちゃんと一緒に居たんだよね? 涼子ちゃんから聞いたけど』

「まあ、うん」

 桐生も居たけど。

『そんでそれを聞いた智美ちゃんが『ズルい!』って言って突撃訪問して来たんじゃないの? あの二人、絶賛喧嘩中だし』

「突撃訪問では無いが……大体あってる」

 まあ、突撃電話ではあったな。

『もし秀明が『茜~、バスケしようぜ~』なんて約束も無しに来たら絶対断るわよ?』

「……どっかで聞いた事あるフレーズだが」

『野球しようぜ~』と尋ねて来る眼鏡君が浮かんで消えた。

『でも、おにいはそんな智美ちゃんの突発的なお話を快く受けて、一緒に遊びに行きました。なんでよ?』

「別に快く受けて無いが……なんでって……」

 なんでって……仕方なく無いか? だって智美だぞ?

『……きっとさ? おにいは思ったんじゃない? 『智美だから仕方ない』って』

「……エスパー?」

『エスパーじゃないよ。おにい見てたら分かるもん。きっとおにいは『智美だから仕方ない』『智美のいう事は聞いてあげないといけない』『智美は俺がいないとダメだ』って、そう思ってるんだよ』

「いや、俺がいないとダメだとは思って無いが」

『本当に? 『仕方ねーな。面倒見てやるか』って思った事……ない?』

「……」

 それは……まあ、無い訳ではない。無い訳では無いが。

「……でも、幼馴染だったら普通じゃね?」

 幼馴染ってのは、普通の友達よりもきっと、濃度の高い生活を送っている。だからこそ、智美も涼子も大切で、大事で――言ってみれば、それは家族に近い関係性で。

「智美も涼子も……姉であり、妹であり――」

『家族だって?』

「……」

『家族じゃないよ、おにい。智美ちゃんも涼子ちゃんも密度の濃い『他人』なんだよ?』

「……だけど!」

 言いかけた俺の言葉を遮る様に。



『おにい達の関係性ってね? 共依存に似てると思うんだ、私』



 ある意味で残酷な言葉を茜は俺に投げかけた。


『面白い!』『面白そう!』『続きが気になる!』『っていうか続きはよ』と思って頂ければ評価などを何卒お願いします。

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