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第五十三話 わくわくドーナツでの一幕は思ったよりわくわくしない。むしろまったり。

第十五話を修正しました。瑞穂がバスケを始めたのは小学校一年からです!


「いやーお久しぶりっす! お二人とも、お元気してましたか!」

『折角だからお昼、一緒にどうっすか!』という秀明の言葉を受け、俺と智美と桐生の三人は秀明に連れて来られる形でワクドに向かった。昼時であり、そこそこ混んではいたが四人掛けの席をなんとか確保、智美と秀明、桐生と俺が並びあう形で席に着いた。

「でも、本当に久しぶりっすね! 最後に逢ったのは……ま、まあ良いですかね! 二年振りとか三年振りとかじゃないですか?」

「……秀明、食べながら喋るな。パン屑が落ちてる。あと、口にソースがついてる。拭け」

「ああ、失礼しました!」

 そう言って口の周りをふいて二カッと笑う秀明。

「それにしても……秀明、あんた身長伸びたね?」

 智美の言葉に何が嬉しいのか、もう一度微笑み、秀明が口を開く。だから食べながら喋るな!

「今は百八十七センチあります! 浩之さんが……ああ……えーっと……」

「……一々気を遣うな。気にしてないから」

「……そっすか? ええっと、浩之さんがバスケ止めてから、そこそこ伸びては居たんですよ。お二人が中学校卒業してからは一気に二十センチ以上伸びまして! いや、寝ている時に骨が『ボキボキ』って鳴るんすよ! やばい病気かと思いましたよ、あん時は!」

 そう言ってワクドバーガー(唯のハンバーガー)にかぶり付く秀明。

 秀明は一個下の後輩で、小学校一年生の時に俺等のミニバスチームに入ってきた。元々体が弱いとか何とかで親に無理やり入れられたらしく、よく練習をサボっていた。

 俺的には瑞穂同様、初めて出来た後輩、しかも同性では初めての後輩だ。可愛くて仕方なく、そんな秀明を連れ出してよく一緒に練習したもんだ。智美も一人っ子だった為、この『弟分』をとにかく猫可愛がりしてた気がする。秀明も俺らと練習しだしてからはドンドン上手くなった。家が少し遠いため、他の三人プラス茜とは違って家に来て遊んだりはあまり無かったが……それでも中学校に上がって行動範囲が広がってからは学校こそ違ったものの俺がバスケを止めるまでは俺と秀明、智美と瑞穂と茜は良く五人で集まって練習していた。涼子? そんな俺らの練習のサポートをしてくれてたよ。

「今は何処の高校に行ってるんだ?」

「聖上っす! 今度ベンチメンバーになりました!」

 事も無げにそう言う秀明。おいおい、聖上で一年からベンチ入りだと?

 俺等の住む地域の高校バスケ界は一つの高校がずっと頂点に君臨し続けている。全国制覇を幾度も成し遂げた、名門『正南学園』

 秀明が言っている聖上学院は、正南学園が台頭してくる前にこのあたりで無敵を誇った高校だ。今でも『古豪』として大会のベスト4の常連校でもある。

「浩之さんがバスケを……そうですね、『卒業』してから、必死で練習しました! そしたら聖上の監督が拾ってくれて……それで今に至るっす!」

 秀明が聖上のベンチ入りメンバー……ね。昔は俺よりも身長が低くて、少なくともこんなガサツな奴じゃなくて可愛いやつだったが……時の流れは残酷だ。

「ポジションは? 今でもガードか?」

「あー……色々っすね。ガードは小学校からやってるからやっぱり本職ですけど、中学二年からぐんぐん背が伸びたって言ったでしょ? だからまあ、試合の場面場面で色んなポジションしてるんっすよ。フォワードからセンターまで、全部こなします。まあ、流石にセンターはまだまだ当たり負けするんっすけど……」

「……すげーな」

 バスケは全員で攻めて全員で守るスポーツであり、狭いコートを走り回っているから、サッカーや野球程ポジションが関係ないと思われがちだが、勿論そんな事はない。ガードとフォワードで求められることは当然違うし、ガードとセンターならばそれこそ全然役割が違うと言っても過言では無いだろう。

「んじゃお前……苦労しただろ?」

「どうっすかね? そりゃ、最初は『ガードやりてぇ!』とか思ってましたけど……ホラ、今では色んなポジションで試合に出れるんですから、儲けものと思ってるっす!」

 あっけらかんとそう言う秀明に俺は内心で舌を巻く。

「スリーポイントは? 今でも練習してるのか?」

「当然っすよ! 俺、浩之さんの教えを忘れた事ないっすもん!」

「教え?」

「『いいか、秀明。俺らチビの生きる道は外からのシュートだ。中には背のたけぇ奴らがいる。もし俺らがシュート外しても、きっとあいつらがリバウンド取ってくれる。でもな? だからこそ俺らはあいつらに仕事をさせないぐらいの気持ちで打つんだよ。楽させてやろうぜ、あいつらに』って」

「……俺、そんな良い事言ってたか?」

 なんかちょっと恥ずかしいんだが。そんな俺にニカっと笑って秀明は頷く。

「でも、センターやると分かるんっすよね。リバウンド取る為に飛べば接触もあるし、当然体力も使います。シュートを落としても文句言うつもりはさらさら無いんっすけど、『センターに楽させてやろう』って気持ちでガードがシュート打ってると思うと、ちょっと気分が良いですもん。ぜってー、取ってやるって思えるっす」

「……まあな」

「ま、その浩之さんの教えを守ってるから、俺は未だにスリーの練習は欠かしてないっす。もうチビとは言えないっすけど……でも、外からも打てるセンターって最強じゃないっすか?」

「最強かどうかはともかく……脅威だろうな」

 センターの全員がシュート下手くそとは当然言わんが、アウトから打って来るセンターが少ないのは事実だ。外した時のカウンターは怖いが、硬直した試合展開で秀明みたいなヤツが一人いると随分違うだろう。

「……少し、良いかしら、古川君?」

 俺の隣でダブルチーズワクドをリスみたいにもぐもぐと齧っていた桐生が遠慮がちに手を挙げる。

「ええっと……桐生先輩っすよね? 良いっすよ?」

「ありがとう。その……今の話を聞く限り、古川君、随分東九条君の事を尊敬している様に見えるんだけど……」

「そうっすね! 兄貴分って事もありますけど、俺は浩之さんを尊敬してますよ!」

「……止めろ、恥ずかしい」

「事実ですし! 浩之さんは誠司さん尊敬してましたけど、俺は断然『浩之派』ですから!」

「誠司さん……川北さんのお兄様ね?」

「おりょ? 瑞穂も知ってるんっすか? そうっす! 誠司さんもそりゃ、凄かったんっすけど……年齢も離れてますし、ポジションも違いますから。瑞穂のお兄さんって事で俺も可愛がって貰ってましたけど」

「でも、東九条君は……どういえば良いのかしらね? 『厳しかった』のじゃないかしら?」

 言葉を選んでそういう桐生。きっと、俺が話をした『なぜ、俺がバスケを止めたか』を思い出しているのだろう。聞きずらそうに……それでも、少しの好奇心と罪悪感を込めた視線でこちらにチラリと視線を送る。気にすんな。気になる気持ちも分からんでも無いからな。

「……へ?」

 そんな桐生の問いに、秀明から間抜けな言葉が漏れる。その秀明の声に、少しだけ桐生が眉を顰めて訝し気な表情を浮かべる。

「……違うの?」

「いや……浩之さんが厳しい?」

 そう言って。



「浩之さん、無茶苦茶優しいっすよ? 俺、怒られた事ないっすもん」




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