第五十二話 よく考えれば久しぶりの新キャラ登場
「ふぅー! 遊んだね!!」
アラウンド・ワンを出た頃にはお日様はすっかり頂点に来ていた。九時半から三時間だから、十二時半。そろそろ腹も減った来たところだ。
「にしても……桐生、凄かったな」
「そうだね。桐生さん、なんでも出来るね?」
「そうかしら?」
「ああ。だってあのストライク取るヤツも八枚抜きだろ? ダーツもど真ん中ビシバシ当ててたし、ビリヤードも凄かったじゃねえか」
本当に。まあ、元々多才なヤツ――というより努力家なのは知っているつもりだが、どの遊びをさせても難なく高スコアを叩き出しやがる。別に嫉妬はしないが、純粋に『すげー』と思うぞ?
「……お父様、男の子が欲しかったらしいから子供の頃からキャッチボールを良くしてたのよ。ビリヤードとダーツは……家にあるのよ。ビリヤード台とダーツ」
「……ビリヤード台とダーツが家にあんの?」
「お父様、若い頃プールバーにハマってたんだって。だから、ビリヤード台とダーツを買ったらしいわ。もっとも、家では既に埃を被ってるけど」
「……流石、お嬢様」
「『私の唯一の贅沢だ』ってお母様に頼み込んで買ったらしいわよ。ご丁寧に、プールバーみたいなダーツとビリヤード専用の部屋まで作ったらしいけど……お父様、別にビリヤードとかダーツ自体が好きだったわけじゃなくてプールバーが好きだっただけみたいで……今ではすっかり物置よ、その部屋」
そう言って肩を竦めて見せる桐生。でもまあ、気持ちは分からんでもない。ゲームとかでもそうだけど、店頭でやるとスゲー面白い気がするんだが、手元にあるとあんまりやらなくなるからな。アレだって、雰囲気もあんだろ。知らんけど。
「そういう訳で、今日やったものに関しては一日の長があっただけ。別になんでも出来る訳じゃないし。それこそポケバイ? っていうのかしら、あの小さなバイク。あれなんてきっと乗れないわよ」
「……そうか?」
……なんかイメージ、全然出来そうだが。っていうか、出来なくてもハマったら直ぐに上達する気がするな、コイツ。基本、凝り性だし。
「そうよ。それより……鈴木さん? これからどうするの?」
視線を智美に向けてそういう桐生。そんな桐生に、智美は腕を組んでしばし考えて見せた。
「んー……どうしよっか? お昼まだだし、どっかでお昼食べてその後は駅の近くのショッピングモールでウインドショッピングと洒落込もうか! って考えてるんだけど……桐生さん、食べたいものある? フランス料理のフルコースとか?」
「お昼からそんなもの食べないわよ。でもそうね? 特に食べたいものはないけど」
そう呟きながら、桐生は視線を智美に向けた。
「……というか、鈴木さん? アラウンド・ワンでもそうだけど、わざわざお気遣い頂かなくても結構よ? 鈴木さんの食べたいものを食べましょう? 好きなものは何かしら?」
「えー。でもさ? 今日は無理に誘った訳だし、桐生さんの好みに合わせた方が良いかな~って思ってるんだけど……それに、私の食べるものって結構なジャンクフードだよ? 桐生さんのお口に合うかな?」
「基本、なんでも美味しく頂けると思ってるわよ、私。ジャンクフードは食べた事ないけど、抵抗感は無いわ」
「……まあ、お前の作ってる料理だってジャンクみたいなもんだもんな」
別に高カロリーってワケじゃないんだろうけど……ジャンクって云うかファーストフードと云うか……まあ、基本、焼くだけだしな、コイツ。
「東九条君、うるさい! それはともかく……鈴木さん、そのお気持ちだけ有り難く頂いておくわ。それに……そんなに気を遣って貰ったら、次から誘って貰えなくなるかもと心配になるでしょ?」
茶目っ気たっぷりにウインク付きでそう言う桐生。そんな桐生に一瞬ぽかんとした顔を見せた後、少しだけ吹き出して智美は親指をぐいっと上げた。
「……そだね! それじゃ、桐生さん! ワクドいこ?」
「……ワクド?」
「……え? ワクド知らない?」
「え、ええ。ごめんなさい。寡聞にして知らないのだけど……どこ?」
こちらに視線を向けてきょとんとした表情を向ける桐生。まあ、ジャンクフード知らなきゃ知らないか。
「……ハンバーガー屋だな。わくわくドーナツって名前の。通称が『ワクド』だ」
「……ドーナツなのにハンバーガー屋さんなの?」
「そうだよ。ちなみに、ドーナツは一種類も売ってない」
「……それは……なに? JAROに真正面から勝負を挑んでいるのかしら?」
「そういう意味では無いと思うが……」
嘘、大袈裟、紛らわしいだもんな。大げさでは無いけど。
「ちなみに、合言葉は『おかしなピエロには負けない』」
「……何処を意識しているのか大体わかったわ。全方位に喧嘩を売るスタイルなのね?」
「たぶん、それは確実に違うと思う」
小さな町のハンバーガー屋さんだし。インパクト重視ってだけだろ、きっと。
「まあまあ、桐生さん。とりあえず食べに行ってみましょ? 美味しいよ!」
「……そうなの?」
「まあ、ジャンクフードだし味は推して知るべしって感じではある。高級料理ってワケじゃねーしな。でもまあ、少なくともお前の料理よりは幾分かマシだとは思う」
「……気にしてるから言わないで」
「これからに期待、という事で」
「ふんだ。でも……それなら、あんまり期待できないんじゃない? 私の料理と比べてマシって。所詮、知れてるって事でしょ?」
ぷくっと頬を膨らましながらそう言う桐生に『悪い悪い』と苦笑を浮かべて、さて、それじゃワクドに行ってその認識を改めて貰おうかと思った所で。
「あれ? もしかして……浩之さんと智美さん?」
そんな声が後ろから聞こえて来る。その声に視線をそちらに向けると、大柄な男が一人立っていた。百八十センチを優に越えているであろう大柄な体でこちらに向かって視線を向ける大男。そんな大男だが、俺と視線があった瞬間、ぱーっと花が開いた様な笑顔になった。
「やっぱり! お久しぶりです、浩之さん! 智美さん……っと……ええっと……初めましての方!」
にぱっと人好きな笑顔を浮かべてこちらにブンブンと手を振る大男。あいつ、誰だよ? と俺が首を傾げかけた所で。
「……え? あれ? も、もしかして……秀明?」
そんな声が隣の智美から聞こえた。秀明? 秀明って……
「……もしかして、『あの』秀明か?」
「……うん。たぶん、そう」
「なにしてるんっすか、こんな所で! あ、俺、まだ昼飯食って無いんっすよ! どうすっか、一緒に? その……そっちの美人さんも!」
近づいて来た大男に視線をもう一度向けて。
「……え? マジで? マジで秀明?」
「ちょ、流石にそれは酷くないっすか、浩之さん! 秀明っすよ! 浩之さんの弟分、古川秀明っすよ!」
そう言って……俺の可愛い後輩、古川秀明こと『秀明』は肩を落としながらそう言ってきた。え? マジで?
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