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第四十二話 別に浩之君はやれやれ系主人公じゃないよ、って話


 入口でこちらを睨むような視線を向けて来る涼子。その視線に最初に反応したのは智美だった。

「……なにしに来たの、涼子? ヒロは私と一緒に帰るの。涼子は一人で帰れば?」

「……智美ちゃんこそなに言ってるの? 今日、部活じゃないの? さっさと部活行けば?」

「お生憎さま。今日は私、部活休みなの~。さあ、ヒロ! 帰ろ!」

「ちょっと! なんで浩之ちゃん連れて行こうとしてるのよ! 智美ちゃんこそ一人で帰れば良いじゃない!」

「ざーんねん。先に約束したのは私です!」

 徐々にヒートアップしていく二人。そんな二人を見て、教室に残っていたクラスメイト達は凍り付いた様に動かない。と、そんな中、一人の勇者が現れた。

「おー、浩之。相変わらずモテモテだね~。モテる男は辛いってか?」

 にこやかに俺の肩に腕を回してそう言う男、そう、藤田だ。藤田! お前が神か!

「おう、藤田! どうした?」

「いや、どうしたって……我が校が誇る美女二人に囲まれてる羨ましいヤツがいると思って来てみたら親友の浩之君じゃないかと思ってね~。いやいや、あやかりたい、あやかりたい」

「あ、あはは~」

 いつでも代わってやんよ、こん畜生。そんな俺の想いが通じたのか、藤田がにやけ切った面構えで、二人に向き直る。

「どう? こんな朴念仁放っておいて、俺とデートとか――」



「「――藤田くんは黙ってて」」



「――はい」

ギンっと擬音の付きそうな視線で睨まれてスゴスゴと退散しようとする藤田。おい、藤田神! もうちょっと仕事して! 此処で藤田に逃げられる訳にはいかんのだよ!

「涼子、智美! 俺は藤田と帰るから!」

「……は? ひ、浩之? お前、なに――」

「なあ、藤田? 今日は一緒に帰る約束してたもんな!」

「そ、そんな約束――」

「んじゃ、そう言う事で! じゃあな、二人とも!」

 そう言って藤田の腕を引いて教室内を走る。

「ちょ、ヒロ!」

「浩之ちゃん!」

 後ろから聞こえる二人の声を聞きながら、俺は教室を飛び出した。


◆◇◆


「……いやな? 別に俺も大して用事があった訳じゃねーから良いんだけど……それにしたってもうちょっとさ?」

「いや、本当に済まん。此処は俺が奢るから、好きなモノを食べてくれ」

「ワクドで奢るって言われても」

 駅前にあるファーストフード店、『わくわくドーナツ』。通称ワクド。『ドーナツ』という名前を付けながらドーナツを一切売ってないハンバーガー屋である。真っ向からJAROに喧嘩を売っている様なスタンスは我が校の生徒には人気である。安いしね、此処。

「まあでも浩之がそう言うんならご馳走になろうか。俺、ビッグワクドのセット。ドリンクはコーラね」

「はいよ。んじゃ俺は……ダブルチーズにしとこうかな」

 レジで注文を済まし受け取ると、藤田と並んでテーブル席を陣取る。部活帰りの時間帯になると混む事もあるが、放課後直ぐのこの時間帯は比較的空いており、俺たちはなんなく席を取る事が出来た。

「ホレ」

「さんきゅ。それにしても……怖かったな、鈴木も賀茂さんも。あんな怖い顔、俺初めて見たぞ? なにしたんだ、浩之?」

「いや、俺は何にもしてないって。つうか、お前にしろ瑞穂にしろなんで俺のせいにするんだよ?」

 なんか冤罪率が高い気がするんだが?

「だって鈴木と賀茂さんだぜ? あの二人が怒るとしたらお前絡み以外なくね?」

「……なんでだよ?」

 んな事ねーぞ? あいつら……特に智美なんか結構直ぐ怒ってる気がするんだが?

「高校入学当初な? 今年の新入生には三大美女がいると噂されてたんだ」

「誰だよ? 俺、その噂聞いたことねーんだけど」

「まあ、お前の耳には入らんだろう。なんせ当事者だし」

「……俺も三大美女なの?」

「アホか。鈴木、賀茂さん、それに桐生だよ、三大美女は。美女度的には桐生の方がランクは高いんだが……いかんせん、その……」

「……ああ」

 悪役令嬢だもんな、アイツ。

「でも、鈴木は誰にでも人当りが良いし、賀茂さんはちょっと引っ込み思案だけどなんか守って上げたくなる可愛さがあるだろ? なまじ桐生の人気が落ちた分、鈴木と賀茂さんの人気が上がったんだが……そこに、いつでも居るお邪魔虫が居たわけ」

「……もしかして、俺?」

「もしかしなくてもお前。一時期、『東九条浩之を亡き者にする会』の結成まで真剣に検討されたんだぞ? 鈴木と賀茂さんのいる所では三大美女の話なんて出来んだろ? だからまあ、必然的に近くに居たお前の耳には入って無い訳」

「『東九条浩之を亡き者にする会』って……

いや、怖いんだけど。

「ちなみに会長は俺」

「お前、今すぐそのワクド返せ」

 冗談だよ、と笑いながら自分の側にトレイと寄せる藤田。おい、本当に冗談なんだろうな? なんか目が笑って無かった気がするんだが?

「ま、お前はずっと鈴木と賀茂さんと居るだろ? だからあんまり気付かんかも知れんが、あの二人って基本、そんな怒る事ないぜ? 鈴木はまあ、バスケの時は怒ってるかもしれんが、それだって注意のレベルを超えないだろ?」

「……まあな」

「んで賀茂さんに至ってはそもそも怒ってるところを見た事無い。となると、必然的に一番近い存在であるお前絡み以外では怒る事はないんじゃね? って推測に行きつくの。あの仲良し二人が喧嘩するなんて、よっぽどの事じゃないとないんじゃね?」

「……それが、俺って事か?」

「……ま、それ以外にもあの二人が一番『大事』なのはお前だろうな、って事ぐらいは簡単に分かるし」

「そうか?」

「そうだよ。だってお前、見た目は冴えないじゃん?」

「……悪かったな」

「まて。まだ続きがある。対して、あの二人は引く手数多だ。にも拘わらず、お前の側にずっと居るのはなんでだよ? 見た目以上に大事なモンがあるから、側にいるって事だろうが?」

「……」

「まあ、こうしてお前と付き合ってみるとお前は人の事を思いやれるし、気配りも出来る、良いヤツだってのは分かるけどな。スルメみたいなヤツだよな、お前。噛めば噛むほど味が出る的な」

「もうちょっといい例えは無いのかと言いたい。言いたいが……そもそも、そんな大層な人間じゃねーぞ、俺」

「それを決めるのはお前じゃなくて二人だよ」

「……」

「ま、そういう訳できっとお前が何かしたんだろうと思ってる。深くは聞かんが」

「本当に無罪を主張するが……まあ、助かる」

「おう」

 そう言って藤田はコーラに口を付ける。既に残りの量も少なかったのか、『ズズズ』という音が聞こえて来た。

「あー……それにしてもお前は羨ましいよな~、浩之」

「絶賛幼馴染二人の喧嘩に巻き込まれてる俺がか?」

「そこは若干同情するが……いや、待てよ? 美女二人がお前の為に喧嘩してるなんてご褒美じゃね?」

「ご褒美なモンか」

「当事者はそうかも知れんが……アレか? お前、漫画とかアニメとかで見る『やれやれ系』の主人公かなんかか? 俺は巻き込まれただけだぜー、みたいな?」

「そういうつもりは無いが……」

「んじゃさっさとどっちかと付き合えよ? そうすりゃ片方フリーだし、喜ぶ男子が増えるぜ? やれやれ系じゃないんだったら、好意を持たれてるのぐらいは分かんだろうが。お前がどっちかに告白したら、絶対に付き合う事が出来ると思うが?」

「……まあ」

 ……俺だって別に馬鹿なワケじゃない。無論、絶対とは言わないが、ある程度の好意を寄せて貰ってるのは分かるし……正直、告白すれば付き合えるんじゃね? ぐらいの事は分かる。それこそ、最初に桐生と昼飯食った時だって敵だなんだって言ってたしな。

「んじゃなんでさ? どっちが良いか決めあぐねてんのか?」

 まあ、タイプが違う美女だもんな~と呑気な事を言う藤田に、俺は苦笑を浮かべて。



「――まあ、今のままなら『絶対』に無いさ。俺が涼子と智美……どっちかと付き合うなんて事は」



 


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