第四十話 いつも仲良しな幼馴染……え? じゃないの!?
三連休で桐生さん分は補給して頂いたでしょうか、どうも疎陀です。
さて、前々からお話の通り今回から新章突入です。突入ですが、有り難い話桐生さん人気が予想以上に高かったので、『ここで智美編とかして桐生さん登場しなかったらきっと感想欄が荒れる……!』と怯えたのでプロットを大幅にいじる事にしました。桐生さんもいっぱい登場しつつ、『智美も涼子も可愛い!』となる……と、いいな~。では、よろしくお付き合い頂ければ~。あ、ちなみに今日は仕事で六時半アポが一件あるので夜の投稿はたぶん、無理っす。
いつからの付き合いを『幼馴染』と定義するかによるが、間違いなく賀茂涼子と鈴木智美という二人の少女は俺、東九条浩之に取って立派な『幼馴染』と言っても良いだろう。智美とは保育園の年少、涼子に至っては家も隣同士で両親も仲が良かったため、生まれた時から知ってる間柄だ。まさに幼い頃から馴染んだ間柄、これが幼馴染じゃないとすると、一体何が幼馴染だ、という感じではある。そういう意味では小学校からの付き合いである瑞穂も幼い頃から馴染んではいるものの、どうしても『幼馴染』感はない。精々、手の掛かる妹だ。
さて……まあ、なんで俺がこんなことを言ってるかと言うと、だ。
「――だから、涼子! それは違うって言ってるでしょ!」
「違わないよ! 智美ちゃんが間違ってるんだもん! 私、間違って無いもん!」
「むきー! 涼子、アンタ何時だってそうじゃん! 本当にいい加減にしなさいよね!」
「智美ちゃんこそ! なんでそんなにデリカシーが無いの? バッカじゃない!?」
「はー? 誰が馬鹿だって!?」
「智美ちゃんですー。馬鹿なのは智美ちゃんなんですー」
「……」
「……」
「……ねえ、東九条君?」
「……なに?」
「……これ、なんとかしなさいよね? 貴方、幼馴染でしょ?」
「……出来る事と出来ない事がある」
涼子が手作り弁当を振舞う――ここ数週間で既に恒例行事化して来たこの昼休みの時間。いつもはある程度和やかに進むのだが……今日は少しばかり、様相が違う。
「もう! ホントに涼子なんて知らない!」
「こっちのセリフです! 智美ちゃんなんか知らないんだから!」
「……」
「……」
「「……ふんっ!」」
そう言って盛大にそっぽを向く二人に、俺は小さくため息を吐いた。
◆◇◆
「……お疲れ様。大変だったわね、今日は」
帰宅後、なんやかんやあってリビングでぐでーっと伸びている俺に、苦笑を浮かべながら桐生が淹れてくれたコーヒーをコトリとテーブルの上においてくれる。ありがとうと礼を言って、俺はそのコーヒーを一口、口に含んだ。
「……はぁ……うめぇ」
「それは良かったわ。それにしても……あの二人、喧嘩するのね。私、びっくりしちゃった」
「アイツらはな~。なまじ、お互いが近すぎる分、ちょっとした事で直ぐ喧嘩するんだよな」
本当に。古くはパッキンアイスのさきっちょ付いてる方をどちらが食べるかから始まり、俺の家でのお泊り会でのチャンネル争い、最近ではファッションの事なんかでちょいちょい衝突している。っていうか、マジでそろそろいい加減にしろ下さい。
「……凄いわね。良くそれで、仲良く出来るものね」
「アレだよ。子猫のじゃれあいと一緒。お互い、どれぐらいの力加減でやれば良いか図ってるだけだっての。だからってワケじゃねーだろうが、アイツら二人とも、人当りが良いだろ?」
「……そうね」
「涼子は智美で、智美は涼子で人間関係学んでんの。だからまあ、日常茶飯事と言えば日常茶飯事なワケだよ」
「貴方は?」
「男子と女子じゃ色々違うだろ? そもそも俺は、パッキンアイスは一人で両方食べる派だったし」
「……貴方ね?」
「仕方ねーじゃん。俺らは三人で幼馴染だし。パッキンアイス、分ける奴いねーもん」
どうしたってハミ子は出て来るの。それが俺なの。
「……まあ、そういう事もあるのかもね。それで? 大丈夫なの?」
「とりあえず、瑞穂と茜からは鬼電、鬼メッセが届いている」
今日は余程機嫌が悪かったのか、瑞穂からは『智美先輩、鬼気迫るものがあるんですけどー! 練習、めっちゃきついんですけど!』というメッセが届いてるし、茜からは『おにい、なにしたの? 涼子ちゃん、凄い怒ってるんだけど?』とのメッセが届いた。というか、茜。それは俺のせいじゃないからな。なんでも理由を俺に求めようとするその姿勢、お兄ちゃん、どうかと思うな~。
「……なんか、川北さんと貴方の妹さんが一番可哀想になって来るわ」
「まあな。言ってみればアイツらが一番被害者かも知れん。瑞穂なんか殆ど智美の舎弟扱いだし」
怖いね、体育会系って。
「……ちなみに貴方の妹さんと川北さんもよく喧嘩するの? 幼馴染なんでしょう?」
「……あの二人って意外に大人なんだよ。身近に反面教師がいたせいか、『争いは何も生まない』って悟ってんの」
「……冷静ね」
「つうか涼子と智美がアホ説まである」
なんであいつら、成長しないんだろう。もう十七歳だってのに、やってることは三つぐらいから変わってない。アレか? 三つ子の魂百までもってヤツか。
「……でも、ちょっとだけ羨ましいかも」
「そうか?」
「だって……どれだけ喧嘩しても、必ず仲直りするんでしょ? それって、お互いに切っても切れない縁、って事じゃないの?」
「……まあな。それこそ、姉妹ぐらいの付き合いだし」
「そういう仲だからこそ、思いっきり喧嘩も出来るのね。そういう関係性、ちょっと憧れるかも」
そう言って遠い目をする桐生。
「……私、友達いないし」
「……」
……そうだよな。コイツ、友達いないもんな。だからこそ、喧嘩にも憧れに近いものがあるのかも知れん。相手がいないと、喧嘩も出来ないもんな。
「……その……する?」
「……な、なにをよ?」
「両手で体を抱きしめて後ずさるな! なにすると思ってんだよ!」
このむっつりが!
「そうじゃなくて……アレだよ。ホレ、もしその……微妙な『憧れ』みたいなもんがあるなら……俺としてみるか、喧嘩?」
「……へ?」
「だ、だから! こう、なんか不満があれば聞いてやるし! まあ、それが理不尽なら俺も怒るし……こう……」
上手く言えん。上手く言えんが、なんとなく俺の言いたいことは伝わったのか、桐生はクスリと笑って見せた。
「……ありがとう。でも、遠慮しとくわ」
「そっか」
「ええ。もちろん、意見の主張はするけど……」
――あなたに嫌われたくないし、と。
「……別に喧嘩しても嫌いになる訳じゃないぞ?」
「ふふふ。その言葉だけで十分です。ありがとうね、東九条君」
「……さっきお前も言ってたけど、涼子と智美の仲が切っても切れないっつうなら、俺とお前だってもう、切っても切れないっていうか……その、なんだ? 別に遠慮なんかしなくてもな? その……」
「……そんなに私を喜ばしても、何も出ないわよ?」
「……別に出してもらおうとは思ってねーよ。このコーヒーで十分だ」
そう言ってカップを掲げる俺に、桐生は柔らかく微笑んだ。
……で、済めば良かったんだけど。
翌朝、眠たい目を擦りながら登校した俺の姿を見つけた智美は、大股で近付いて来て。
「――おっはよー、ヒロ! 私、涼子と絶交したからっ!」
……え? なんでこうなるの?
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