第三十九話 幕間。或いは、東九条君がただただただ幸せなだけな話
朝の投稿で『詐欺だ』と言われました。どうも、疎陀です。解せぬ……
……甘いってのはこういう事じゃね?
「……ただいま~」
「お帰りなさい……って、どうしたのよ、その大荷物」
「いや、何度も行ったり来たりは面倒くさいだろ? んでちょっと一遍に持って来たんだが……」
そう言って俺は段ボール箱をどさっと玄関に置く。ふぃー……腕が痛い。
「……随分沢山持って来たわね? 貴方、昨日出る前に言って無かった? 必要なモノだけ持ってくるって」
「いや、そのつもりだったんだけど……実家に帰ったら親父と母さんがあれもこれも持ってけって煩くてさ。あ、段ボールの一番上のタッパ、きゅうりの漬物だってさ」
「有難いけど……それは大変だったわね?」
そう。俺は昨日から実家に泊りがけで帰っていた。いや、泊りがけって程の距離では無いんだが……まあ、此処に来た時に持って来たのが服とかの一式だけだったし、一遍使うもんを持って来ないといけないな~なんて思ってたんだよ。んでまあ、部屋の整理もせなならんって事で、昨日は泊りがけで家に帰ってたってワケ。
「留守中、何も無かったか?」
「大袈裟ね。一日の事で……それにしても大荷物になったわね。お疲れ様」
「だろ? これで電車に乗るの、ちょっと恥ずかしかった」
なんせ一抱えもある段ボールだもんな。皆の視線が痛かった。
「それで……なに持って来たの?」
「参考書の類とバスケのボールだろ? 後は気に入った漫画とか……テレビゲームの本体とソフトとか?」
「テレビゲーム? 貴方、ゲームするの?」
「するって程じゃないけど……まあ、ツレが来た時に有った方が良いからな。レースゲームとかボードゲーム系のゲームは持ってるぞ」
RPGとかはしないけど。後はちょっとしたアクションゲームとか格ゲー、スポーツゲーム、パズルぐらいかな?
「……そう」
そう言って段ボールの中のゲーム機を注視する桐生。なんだか瞳がキラキラしてるんだが……なんだ?
「そ、その……東九条君?」
「どうした?」
「げ、ゲームって……お、面白い?」
「んー……まあ、つまらなくはないぞ。別に好んでやろうとは思わないけど、たまにやる分には――」
……ああ、ピンと来た。
「……やりたいのか?」
「……う、うん。私、テレビゲームってやった事なくて……ちょっと興味、あるかも」
「あー……やっぱり令嬢だもんな。ゲームとか禁止だったりとか?」
「そんな事は無いわ。私の家、所詮成り上がりだもん。お父様も若いころはゲームセンターに通ってたって言ってたし……それにお父様の会社はIT系って言ったでしょ? コンピューターは必須だし、必然的にゲーム業界と仲良くしてるから……少なくとも、『ゲームは絶対にダメ!』って程、硬い家じゃなかったかしら?」
「んじゃなんで?」
その俺の問いかけに、桐生は少しだけ顎を引いて。
「だって……私、友達いなかったんだもん」
「……」
「友達と一緒に遊ぶものでしょ、テレビゲームって。だから……私は持って無かったのよ。必要なかったし」
「……不憫な」
なんだろう。凄く悲しくなってくるんですけど。
「……まあ、それじゃ今日はゆっくりテレビゲームでもするか」
「いいの?」
「どうせ暇だしな。いいぞ」
「そう? やった!!」
そう言ってその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる桐生。なんだ? テンション高いな、おい。そんなにゲームしたかったの――
「私の初体験ね!」
「――わざとやってる?」
「なにが?」
「……なんでもない。それで? どれがやりたい?」
「どんなのがあるの?」
「あー……すごろく系のゲームとか、パズルゲーム、格ゲーにサッカーのゲーム……後はレースゲームくらいかな」
「……どれが面白いかしら?」
「好みもあるからなんとも、かな」
そう言いながら俺は段ボールを担ぎ上げてリビングへ。テレビの前にそれを置くと、ガソゴソと段ボール箱を漁る。
「……ええっと……まあ、最初にやるならコレとかコレかな?」
そう言って取り出したのはボードゲーム系のヤツとレースゲーム。
「……これってアレよね? オリンピックで総理大臣が仮装してたヤツよね?」
「仮装って。いや、まちがってはないけど……これにするか?」
「キャラクターが可愛いとは思っていたのよ」
「……髭面のおっさんだぞ?」
「そっちじゃなくて。ほら、この恐竜みたいなの」
「ああ。そっちか」
そっちなら納得だ。いや、アレが可愛いかどうかは微妙だけど。
「……ちなみにこの子はなんで猫の耳を付けてるの?」
「……さあ? 流行だからじゃね」
「流行……まあ、そうかもね。ヘアアレンジとかでもあるし、猫耳ヘア」
「そうなの?」
「ええ。女優さんとかアイドルとか歌手がたまにしてるわ。もっとも、最近と言えるかどうかは微妙なラインなぐらいには前だけど」
「へー。まあ、女の子が猫耳って可愛いしな。こう……なんか、庇護欲そそる感じがするんじゃないか?」
「……なんとなく、分かる気がするわね。犬だったら忠誠心が強くて、キツネだったら騙しそう、みたいな感じかしら?」
「そんな感じじゃね?」
いや、俺も良くは知らんけど。
「……」
「……なに?」
「いえ……東九条君も可愛いと思う? 猫耳」
「……ノーコメントで」
可愛く無いとは言わんよ、うん。なんか……浪漫があるし。
「……そう」
そう言って桐生はこちらを見つめる。なんだ?
「どした?」
「いえ……」
桐生はおずおずと両手を頭の上にそのまま、パーの形に持って行く。そのまま、コクンと首を傾げて。
「……にゃあ」
「……」
右手で口元を押さえ、そっぽを向く。いや、何アレ!? ヤバい! 破壊力がヤバい! マジ可愛い!!
「……あら? どうしたの――どうしたのかにゃ?」
「……なんでもない」
「どうにゃ? 可愛いかにゃ?」
チラリと横目で桐生を見ると……なんだよ、楽しそうにニヤニヤしやがって。
「……東九条君も好きね……じゃなかった、好きにゃ? どうにゃ?」
「……マジ勘弁。降参」
「……あ! ちょっと待って……確か」
そう言って桐生はバタバタとリビングから出て行く。
「……良かった」
いや、あんまり良くない気はするが。なんつうか、勿体ない感じが酷い。
「……うん、でもあれはダメなヤツだろ」
流石にね、うん。なんかすげーイカガワシイお店に来たみたいだった――
「お待たせにゃ!」
――って、ぶふぅ!
「ちょ、ま、え、おまっ!」
「ふふーん? どうにゃ? こないだ、雑誌で見たにゃ! 誰でも出来る、簡単猫耳アレンジヘア!」
そう。
帰って来た桐生の頭には、見事な『猫耳』があった。え? あれ、髪の毛で作ってんの? すげ。マジで猫耳に見える。
「……すげ」
「どうにゃ? 似合うかにゃ? 東九条君が好きかと思ってやってみたにゃ!」
「……うん。はっきり言ってスゲー似合う」
そもそも桐生、キャラ的に猫っぽいし。少しずつ仲良くなってきた今も、警戒心丸出しな野良猫餌付けた気分が半端ないもん。
「……そう……その……あ、ありがとう」
俺の言葉に照れでもしたのか……もしくは、今自分がしていることを思い出して急に冷静になったのか、桐生はキャラ設定を忘れたかの如く頬を赤く染めてそっぽを向く。
「……にゃ」
あ、キャラ付け忘れて無かった。
「……いや、眼福でした。ありがとな、桐生。もう良いぞ」
うん、確かにスゲー似合ってるし、正直凄く可愛いかった。いや、可愛いかったけど、流石に止めとかないとな。主に、俺の理性の為に。
「……そうかにゃ。それは良かったにゃ」
「……まだ続けるの、それ?」
もう、いっぱいいっぱいなんですけど。
「そ、そんな事言っちゃダメにゃ」
「いやダメって」
「ダメにゃダメにゃ!」
そう言って、桐生はずいっと一歩、俺に歩みを進めて。
「その……いま、私は猫にゃ!」
……なんか言い出した。え?
「……なに? 酔ってるの?」
大丈夫か、桐生? なんか俺、急激に冷静になったんだけど。なんだよ、『いま私は猫』って。
「……きゅ、急に冷静になったわね……」
「いや……あんまりに意味不明な日本語で一遍に現実に戻った」
本当に。な、桐生? お前、疲れてるんだって。
「そ、そんな孫を見るお祖父ちゃんみたいな目で私を見て……貴方だって興奮して癖に……!」
「いや、興奮って。まあ、確かに過剰反応した俺も悪かった。悪かったけど……」
「うー……うー!」
「唸るなよ」
マジで猫かよ。
「……うー!」
「って、ちょ! 危ない!」
不意に、きっとした目で俺を睨むと桐生は俺に体当たりをかまして来やがった。あぶねーよ!
「……構えにゃ」
「……いや、構えって」
「頭とかなでなでするにゃ。抵抗はしないにゃ」
「……どうしたよ? お前、今日マジでおかしく無いか?」
いや、本当に。どうした? 熱でもあるのか? なんか心配になって来たんだが。
「……」
「……桐生?」
「その……あ、あの……」
――ちょっと、寂しかった、と。
「……」
「……昨日、貴方が家に帰ったでしょ? 一人でこの家に居て……なんだか、凄く寂しくて」
「……桐生」
「ご飯も一人で食べたし、お風呂から上がっても誰も居ないし……テレビを見ても、本を読んでも……なんだか味気なくて……普段なら、貴方と話しながらご飯食べたり、コーヒーを飲んだりするな~って思うと……もう、無性に寂しくて……早く、東九条君に逢いたかったから……貴方の姿を見たら……そ、その……う、嬉しくなっちゃって」
「……その……なんだ、悪かった」
そっか。だから帰って来たとき、微妙にテンション高かったのか。
「……ううん。東九条君のせいじゃないわ。私が勝手に寂しかっただけだし」
……桐生には申し訳ないが、俺は少しだけ嬉しかった。そんな俺の表情の変化に気付いたのか、桐生が頬をぷくーっと膨らます。
「……にやにやして感じ、悪い」
「……お前はにゃあにゃあ言ってるけどな」
「もう! ともかく! 私は寂しかったの! だから、構え!」
「……はいはい。ったく……なんだよ、お前。マジで猫みたいだな」
「……そうかしら?」
「ホラ、動画とかであるだろ? 飼い主が旅行から帰ってきたらにゃあにゃあ鳴いて『構え、構え』って甘えてくるヤツ」
今の俺、なんかそんな気分。いや、嬉しいんだけどね?
「……猫扱いはちょっと不満だけど……でも、まあ、いっか」
そう言って、桐生は不思議の国のチェシャ猫の様に悪戯っぽい笑みを浮かべて、俺の耳元に唇を近づけて。
「――寂しがり屋の彩音にゃんこ、いっぱい甘やかしてにゃ? ご主人様」
……もうやめて。東九条のライフはゼロよ!
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