第三十六話 歩幅を合わせて、同じスピードで
レビュー頂きました。ありがとうございます。
「……と、いうわけだ。わかったか?」
「……うっす」
「明日までに反省文、三枚な? 四百字詰め原稿用紙で」
「……我が家に四百字詰め原稿用紙なんてないんっすけど」
「ほれ」
そう言って手渡されたのはコピーされた四百字詰め原稿用紙だった。え? なにしてるかって?
「これに懲りたら、これからはサボるなよ?」
「……はい」
「よし。それじゃ、帰れ」
職員室で、怒られてます、はい。より正確には六時間目担当の数学の教師である担任、五時間目担当の世界史の教師との二人にこってり絞られて今終わった所だ。流石に、担任の授業でサボったのは不味かったらしく……結局、補習までさせられた。いや、自分の都合でサボった生徒の為にわざわざ補習までしてくれるなんていい先生だとは思うよ? 思うんだけどね?
「……ああ、そうそう、東九条」
「……なんっすか? まだ怒り足りない……とか?」
「そういえば廊下を走っていたという情報が……」
「……勘弁して下さい」
「冗談だ。お前が遠藤先生に怒られている時に、桐生が来てな」
「……桐生が?」
遠藤先生は世界史の先生だ。この先生は補習こそ無かったものの……山の様な課題プリントを出された。
「『少し体調の悪かった私を、東九条君がずっと見ていてくれたんです。東九条君は悪くありません!』って、直訴しに来た」
「……」
「目の辺り真っ赤だったけど、お前なんかしたの? 具体的には不純異性交遊的な」
「してないっすよ!」
頭撫でたのはセーフ……だよな!?
「冗談だ。にしても驚いたぞ? あの桐生が、わざわざ誰かの為に頭下げに来るとは……」
「……先生の中でもやっぱりそういう認識です?」
「生徒の話題は耳に入るからな。『悪役令嬢』だろ?」
「……そうっすね」
「お前の為に必死に弁明する姿を見ていると、どこが悪役令嬢なんだと思わんでも無いが……どう思う?」
「……ノーコメントで」
「まあ、そんな桐生に免じて授業の欠席は見なかった事にしてやる。遠藤先生にも後で言っておくから」
「……それなら補習無しでも良かったんじゃないっすか?」
「あほか。それとこれとは別。そもそもお前、数学の成績悪いだろうが。ウチに入れるぐらいだから、数学が全く出来ない訳じゃないんだろ? 他の皆に遅れないよう、きっちり補習は受けるべきなんだよ。そもそも俺のクラスになった時点で諦めろ。俺は数学で落ちこぼれは絶対に出さん。どんな事をしてもな!」
「……横暴っすね」
「おう。天英館高校のオレンジシャツのガキ大将と呼んでくれ」
そう言ってカラカラと笑った後、少しだけ声のトーンを落とす。
「……まあな? 若いうちに色々やっておくのは良い事だと思うぞ。別に、どんな理由があっても授業をサボるべきではない、なんてつまらんことを言うつもりもない。授業より大切だと思う事があって、授業をサボるリスクが取れるんなら、自分で考えて選択すりゃいい。そのツケを自分で払えるならな」
「……教師の言葉じゃないっすね?」
「俺もそう思う。だが、心配するな! 数学サボったらガンガン補習組みこんでやるから! それぐらいは俺が助けてやろう! どうだ! 教師っぽいだろ!」
「……それは勘弁っす」
「そう思うなら授業にはちゃんと出ろ」
「……うっす」
「よろしい。それじゃ、帰って良いぞ」
ひらひらと手を振る先生に頭を下げて、俺は職員室を後にする。既に午後、五時。グランドの方では部活を一生懸命頑張ってる生徒がいるが、既に校舎内に人影はない。誰もいない校舎ってちょっと怖いよな、なんて思いながら俺は自身の教室の扉に手を掛けて。
「……なんで居るの?」
「待ってたからに決まってるじゃない」
俺の席に座って読書をする桐生の姿が目に入った。
「……悪い、待たせたな?」
「なんで疑問形?」
「いや……『待たせたな』で、良いのか? コレ? ってちょっと思ったから」
「別に謝る必要は無いわよ。むしろこちらこそごめんね。私のせいで。補習、お疲れ様」
「いや、それは良いんだが……」
なんで居るの?
「私のせいで東九条君、怒られたのよ? それを待つのは当然じゃない?」
「いや、別に先に帰ってくれてて良かったんだけど……」
「そ、そうだけど……でも! 申し訳ないじゃない!」
「いや、別に桐生が申し訳なく思う必要はないぞ? 俺が好きでやっただけだから、その責任は俺にある訳で、別に桐生に『責任取れ』なんて言うつもりはないぞ?」
「わ、分かってるわよ! 貴方がそんな事言う人じゃない事ぐらい、分かってるけど……そうじゃなくて! もー!」
俺の言葉に、頬を膨らます桐生。『私、不満です!』と体現するような仕草のまま。
「……今日は……もうちょっと一緒に居たかったのっ! それぐらい分かれ、バカっ!」
「……」
「……分かってるのよ? どうせ家に帰れば逢えるのは。でもね、でもね? なんか……す、凄く……寂しくて」
「……そ、そっか」
「だから……」
一緒に、帰ろ? と。
「……おっけー、理解した。それじゃ遅くなるし、そろそろ帰ろうぜ?」
「う、うん! ……って、ちょっと待ってよ! 本、仕舞うから!」
「はいはい」
机の横のフックに掛けた鞄を手に取って、俺は桐生を待つ。本が傷まない様に丁寧に鞄に仕舞い、桐生も鞄を持って立ち上がった。
「お待たせ。それじゃ、帰りましょう?」
「そうだな。ホレ」
「なに?」
「鞄、持つぞ?」
「……ありがとう。でも、良いわよ。アレ、私嫌いなのよね。男性に荷物持たせるの」
「そうなの? あれ? 俺、お前に本を二十冊キャリーさせられた記憶があるんですけど?」
「……重い物なら力がある方が持つのが理には適ってるんでしょうけど、自分で持てるものぐらいは自分で持つわ。私、別に貴方に頼りっぱなしになりたいワケじゃないし……自分の事ぐらい、自分でするわよ」
「そっか」
「ええ。貴方は……私を支えてくれるって言ったけど、支えられっぱなしは性に合わないわ。私は私で道を切り開いて進んでいくもの」
「……そっか」
「貴方の後ろを歩きたいんじゃないの。私は、貴方の隣を歩きたい。困った時、悩んだ時、隣に貴方が居てくれると思うのは――」
きっと、何よりも心強いから、と。
「……だ、だから! そ、その……ず、ずっと……そ、そばに、居てね?」
頬を染めた、真っ赤な顔で。
「……りょーかい」
――俺はこれからこの少女と歩んでいく。
楽な道だけでは無いのかも知れない。苦しい事も、辛い事も、泣きだしたくなる事もあるのだろう。
……それでもまあ、なんとかなるんじゃないかって、そう思う。この――『悪役令嬢』としての強さを持った、桐生彩音という少女とだったら。
「……悩んだけどな、最初は」
「悩む? なにを?」
「なにをって……そりゃ」
――許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい? ってな。
「ま、いいじゃねーか。それよりホレ、帰るぞ」
「なんか凄く失礼な事を考えられている様な――って、早い! 待ってよ!」
「隣を歩きたいんだろ? さっさとついて来い」
「偉そうに……ふんだ! 置いて行くからね!」
「ちょ、バカ! 廊下を走るな! さっき怒られたんだから!」
――さあ、歩んで行こう。
歩幅を合わせて、同じスピードで。
「だから! 走るなっ!」
――きっと、これからも、ずっと。
くぅー、疲れましたw これにて完結--じゃないです。
最終回っぽい書き方ですけど、最終回ではありません。むしろココからです。ただ、第一章完! みたいな。ラノベでいうと丁度一冊分ぐらいの分量ですし。次は……智美編か涼子編かな~。瑞穂編が一番書きたいけど、もうちょっと積み重ねた方が物語に深みが出て良いし……と、ちょっと悩んで八時間しか寝れてないので、今日の投稿は難しいかもです←
こんな話ですけど、楽しみにして頂ければ幸いです。感想は励みにもなりますし、物語に生かさせて頂いておりますので、これからもどうぞ宜しくお願いします。あと、ブックマークとか評価して頂ければうひょーってなりますのでそちらも宜しければ……