えくすとら! その二百三十五 最終兵器桐生
西島と西島姉……だと思う人物と北大路。この三人を見つけた俺らはそのままそちらに向かって足を進める。まあ、見て見ぬふりをする選択肢は無いからな。いや、まあ、茜が暴れそうで怖い所もあるし、放っておきたい所もあるんだが……
「ねえ? なんとか言ったらどうなの?」
近づくにつれ、西島姉の言葉がはっきりと聞こえてくる。決して大声って訳じゃ無いんだろうけど……なんだろう? 凛とした声というか……三年の西島先輩がどっちかっていうとダウナー系というか、そんな感じの喋り方だったからかなんとなくギャップがある。つうか西島もこう、甘えた声というか、そういう声質だし、この三姉妹顔は似ているけど結構イメージが違うな。
「な、なんとかって……あ、アンタに関係ないし!!」
ミホ……だっけ? その子が西島姉に少しだけ怯んだ様な声を上げる。その声を受けて西島姉の眉がピクリと動いて。
「……関係ない? 関係ない訳なくない? 愚妹とはいえ、身内は身内。ウチの若い者に手を出しておいて、そんな言葉づかいは無いんじゃない? っていうか、そもそも天英館ってそこそこレベル高いんじゃないの? それを……なに? 男を盗られた盗られてないなんて低次元の話でハブるって、どれだけ子供なの、貴方達? なに? 『うちの~、だいじなぁ~、かれしぃを~、とるなぁ~』って事? まあ、横恋慕なんて本来するべきでは無いんでしょうけど、それでも魅力的なオスにメスが集まるのは生物学的に見ても当然じゃないの? メスはメスの魅力でオスを繋ぎとめるべきじゃないかしら? それをせずに、自身の危機感を煽るメスが出てきたら集団でハブって追い出すことで自らの地位を確保するの? なに? 貴方達、お山の大将になりたいサル山のサルかなんかなの?」
……言葉の暴力が飛び出した。なんだか既視感を覚えるその光景に、思わず横の桐生に視線をやると、そこには気まずそうに俺から視線を逸らしてそっぽを向く桐生の姿が。
「……なによ? 何か言いたいことあるの、東九条君?」
「いや……なんか、懐かしいものを見た様な……そんな感じ?」
「わ、私はあそこまで言って無いわよっ!! 人をおサルさんに例えたりはしてないもん!!」
「……」
いや、お前も大概酷い事言ってたけどね? 唾棄すべき人間とか、何時でも掛かって来いとか、叩き潰してやるとか。そんな俺のジト目に耐えかねたのか、桐生が声を上げる。
「ほ、ほら! 私の過去の話はどうでもいいのよっ! それより今は西島さん達を助けないと!!」
「……助け、いるかなぁ~?」
茜の少しだけ呆れた顔と声に、俺も思わず頷く。そうだよな。あれ、明らかに西島姉が強そうだもんな。これに桐生と茜が混ざって見ろよ? 口では桐生、純粋な暴力では茜という、明らかにオーバーキルの戦力だろう。技の桐生に力の茜、みたいな。
「う……で、でも、放っておくわけには行かないでしょう! あちら側が暴走しないとも限らないし、それなら私たちがいるだけで抑止力になると思わない!?」
「……まあ」
確かに、核兵器並みの抑止力はありそうだよな、桐生。そんな桐生の言葉に頷いて俺は止めた歩みを再び進めて北大路と西島の側に。
「……なんか面倒くさい事に巻き込まれてんな、北大路、西島」
「あ、浩之さん!」
「……どうも、東九条先輩。そして……その、申し訳御座いません」
俺の登場に『救われた!』と言わんばかりに顔を輝かせる北大路とは対象的、頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯く西島。
「……なんの謝罪?」
「その……お話は聞かれているでしょうから……恥ずかしながら、あそこでミホとシズカを激ヅメしているのはウチの姉でして……」
「……やっぱり」
「愚妹、愚妹と言われていますし、巧く男をジャグリングしろ! みたいな事を言っていますが……下の姉がこう、一番家族愛が強いと言いましょうか……私がちょっとハブられているのが結構気に入らないみたいでして……」
「……んで?」
「北大路君とデートしていたらミホとシズカにばったり遭遇して……その……」
「嫌味を言われているところを西島姉に発見されて今に至る、と」
「……ざっくり言えば」
「……エンカウント率よ」
なんもいえね。まあ、俺らの住んでる町で遊ぶところって言えばこの辺になるし、高校生なら行動範囲も似てくるから、仕方ないっていや仕方ないんだが……
「なによ――って、桐生彩音!!」
西島姉と激論を交わして――まあ、一方的にボコられていたミホが、突然登場した桐生の姿にぎょっとした顔をして見せる。そのまま気まずそうにシズカと視線を合わして。
「ふ、ふん! 今日はこのくらいにしておいてあげるわ!!」
「そ、そうよ!! これで勝ったとか思わないでよね、琴美!! お姉ちゃんに泣きついて恥ずかしくないの!!」
捨て台詞を残してそのまま背中を向けて歩きだす。少しだけ早歩きなのは……まあ、御愛嬌か。
「……」
その背中を睨みつけるように見ていた西島姉。やがて二人が角を曲がって姿を消すと、くるりとこちらに向き直って口を開く。
「……『桐生彩音』はどなた?」
「……私、だけど……」
西島姉の言葉に、小さく桐生は手を挙げる。そんな桐生に、西島姉はうんと一つ頷いて。
「……貴方、凄いわね。顔出しただけで逃げ出すなんて。可愛い顔して……なに? クリーチャーか何かなの? それか最終兵器桐生?」
「……非常に不本意な認識をされているんだけどぉ!!」
うん、まあ……当たらずとも遠からずではあるが。




