えくすとら! その二百三十 なんか流れ弾を食らっているんですけど、あの子
茜の刺すような視線と、先程とは別の意味で『あっち』に行ってしまった桐生からついっと視線を逸らすと、そこには呆れた様な表情を浮かべた秀明の姿が。
「……何やってるんですか、浩之さん」
「……ちゃうねん」
いや、本当に。涼子とデー……あ、遊びに! 遊びには行ったよ? 行ったけど!
「……色々事情があるんだよ」
「彼女放っておいて他の女の子とデートする事情があるんですか? えー……」
「……なんかお前から向けて貰っていた尊敬レベルがガンガン減って行ってる気がするんだが」
「いえ、俺は浩之さんを尊敬していますよ? 尊敬していますけど……なんでしょう? 流石にそれはどうかと思うって言うか……だってホラ、涼子さんもまだ浩之さんの事、好きなんでしょう?」
「……ノーコメントで」
「それ、コメントしてるようなもんっす。それって桐生先輩も可哀想ですけど……涼子さんも可哀想って言うか……」
「……」
「茜の前でこういうのもなんですけど……それって俺が智美さんにフラれたのに、智美さんとデートに行くみたいなもんでしょう? それってどうなのかな~とはちょっと思うって言うか……もしかしてまだ脈があるかも! みたいな期待をさせているっていうか……」
「……言葉も無いです、ハイ」
いや、本当に秀明の言う通りだよな~。やっぱり俺、ちょっと……っていうか、思いっきり反省を――
「いいえ、それは違うわ古川君」
――桐生?
「違うんですか、桐生先輩?」
「ええ。涼子さんは東九条君の事がまだ好きでしょう。それは間違いないと思うわ。でも……そ、その! ひ、東九条君は私を選んでくれたでしょう? だから、そこに関しては涼子さんも納得済みなのよ。そもそもそのデートにしたって東九条君の成績アップの為に、涼子さんが一肌脱いだ……まあ、報酬の様なものだし。だから、私も勿論、涼子さんも納得しているわ」
「……そういうもんですか?」
いまいち納得いかないみたいな顔をする秀明。そんな秀明に、桐生は苦笑を浮かべて見せる。
「まあ、これは男女の気持ちの違いかも知れないけど……そうね? 茜さん、古川君の事をずっと好きだったでしょう?」
「はい、そうですけど……」
「古川君は……もう、いいわよね? 智美さんの事が好きだったじゃない。それで貴方、古川君の事を諦められたかしら?」
「……諦められなかったですね」
「古川君が優しくしてくれたからって、期待を持たせていると思ったかしら? 不義理だと思ったかしら? 好きな人がいるなら、優しくするな! って思ったかしら?」
桐生の言葉に少しだけ面食らった顔をしながら、それでも茜は首をフルフルと左右に振って見せる。
「……いえ。嬉しかったですし、楽しかったです。このまま、智美ちゃんの事なんて忘れて私のものになれば良いのにって……そう、思ってました」
そんな茜の言葉に桐生は笑みを浮かべ――そして、秀明は顔を真っ赤にさせてそっぽを向く。うん、秀明? そっぽを向いても耳は赤いままだぞ?
「でしょう? だから――」
「――むしろ、いい雰囲気で部屋に居るんだから押し倒すくらいはしろ、このヘタレ! って思ってました」
「――うん、茜さん? 外でその話は止めましょうね? 人がいるんだし」
ドン引きだよ! なんだよ、その肉食系女子みたいな言葉! 見て見ろ、秀明を! なんか今度は顔を青くしているじゃないか!!
「こ、コホン! ともかく! そういう意味で別に涼子さんとのデート自体はそんなに重くとらえて無いわ。そりゃ、今からもう一回なんて言ったら滅茶苦茶怒るけど……そもそも、デートの約束もお付き合いをする前の約束だしね? 幼馴染の二人が遊びに行くくらいはまあ、許すわよ。あ! あの時はだからね! 今は絶対ダメなんだから!!」
慌てた様にそういう桐生の頭にポンと手を置く。
「……しねーよ。お前一筋だよ、俺は」
「……なら、良し」
むふーっと鼻から息を出して桐生は視線を秀明に向ける。
「だからね、古川君? 別に東九条君が涼子さんに酷い事をしている訳じゃ無いのよ。涼子さんだって東九条君と一緒に遊びに行けて楽しかったでしょうし……ほら、良く言うでしょう? 男性の恋はフォルダ別保存で、女性の恋は上書き保存だって。違う人を好きになったら、前に好きだった人の事なんて忘れる事が出来るでしょうけど……まだ好きな人って言うのは、デスクトップで永久保存になっているのよ」
そもそも、と。
「……『あの』涼子さんよ? 東九条君とちょっと遊びに行ったくらいで、『弄ばれた~』なんて言うと思う? あの子なら、きっとそれをネタに東九条君を強請るわよ? 断言しても良いわ」
「……悪魔じゃないか、涼子」
「そんな事は言ってないわ。でも……涼子さん、悪魔と化かし合いしても勝ちそうな気はしているのよね……」
酷いな、おい。何が酷いって俺も『ああ、あるかも』って思った事かも。でもあいつ、まあまあ策士だしな……




