えくすとら! その二百二十五 エンカウント!
「さて。これで北大路君の懸念は解決したわね?」
「まあ……」
解決したっちゃ解決したんだけど……なんだろう? いまいち釈然としないというか……
「……マジで帰るか?」
なんかアホらしくなってきたんだが。いや、別に怒ってはいないんだよ? 怒ってはいないんだが……なんか、肩透かし食らった気分。
「魅力的な提案ね。確かにこのまま帰って……い、いちゃいちゃも悪くは無いと思うんだけど……あら?」
頬を少しだけ朱に染めてチラチラとこちらを見ていた桐生だが、再びなったスマホに視線を落とす。送られてきたであろうメッセージに目を通し、その後苦笑を浮かべて見せた。
「そうは行かないみたいね。一通り二人で遊んだら、今度は合流して御飯にしましょうって、琴美さんからメッセージが来たわ」
「……ぶれねーな、あいつ」
先輩相手に『しませんか』じゃなくて『しましょう』とは……そんな俺の渋面に、桐生の苦笑の色が強くなる。
「そこまで厳しい人だったかしら、貴方?」
「一応体育会系だしな、俺」
まあ、それは冗談だけど。別に秀明辺りに『浩之さん、ワクド集合でよろしくです! あ、俺一時間くらい掛かりますけど待っててください!』とか言われても全然腹も立たんし。
「なんというか……こっちの都合を一切斟酌しないあたりが西島だな~とは思うが」
「もう……そんなこと言わないの。そこまで考え無しじゃないし、私たちを蔑ろにしている訳じゃ無いんだから」
「そうか?」
桐生に対する態度に関してはそうかも知れないが、俺に対する態度に関してはあんまりそうとは思えんのだが? 絶対アイツ、俺の事舐めてると思うし。
「……本当にどうしたのよ? 貴方、そこまで西島さんの事……まあ、嫌いかも知れないけど……」
「別に嫌いじゃないぞ? 良い悪いは別として、自分の目標に邁進するのは好感持てると思うし」
「そ、そう。そこまで評価が高いと思って無かったけど……じゃあ、なんで――っ!!」
俺の言葉に思案顔をしていた桐生が何かに閃いた様に『ピン!』と来た顔をして見せる。その後、その顔をニヤニヤと笑顔に変えて。
「……もしかして東九条君……拗ねてる?」
……あー。これだから、もう……
「……何に拗ねるんだよ、俺が」
「だって……もしかしてひがしく――浩之も、家に帰っていちゃいちゃしたかったのかな~って。そう考えたら、勝手にこれからの予定を琴美さんに決められて、ちょっと『むっ』としてるのかな~って?」
……本当に。カンの良い奴は嫌いだよ。
「気付いてるか?」
「なにを?」
「彩音、さっき浩之『も』って言ったぞ?」
「あら? ずっと言ってるじゃない。私は早く帰って浩之といちゃいちゃしたいのよ? 浩之も同じ気持ちなら嬉しいんだけど……どうかしら?」
悪戯っ子の笑みを浮かべてそういう彩音に、肩を竦めて見せる。
「……本当、カンの良い事で」
「ふふふ! まあ、本当にそれも魅力的だけど……北大路君、今日は京都に帰っちゃうでしょ? 彼も浩之大好きっ子だし、少しくらいはお付き合いをしましょうよ?」
そう言ってクスリと微笑んだ後、彩音は俺の耳元に唇を寄せて。
「その代わり――帰ったら、ね?」
妖艶に笑みながらそういう彩音に少しだけドキッとしながらも……やられっぱなしはなんだか悔しいので、俺も彩音の耳元に唇を寄せて。
「任せろ。グズグズになるくらい、甘やかしてやる」
俺のその言葉に、妖艶な笑みを一気に崩して耳元を手で押さえて真っ赤になりながら俺と距離を取る彩音。周りをきょろきょろ見渡した後、不満そうにこちらを睨む。なんだよ?
「お返ししただけだぞ?」
「……破壊力が違い過ぎるわよ。普段、そんな事全然言ってくれないくせに……きゅ、急にそんな事言うのはズルいわ」
頬を真っ赤に染めたまま、彩音はもう一度俺の耳元に唇を持ってきて。
「うん……甘やかして。グズグズに、もうお腹いっぱいってくらいに、沢山、沢山、甘やかして。貴方無しで生きていけなくなるくらいに……いっぱい、いっぱい、蕩けるくらいに甘やかして?」
蕩けるくらい、なんて言いながら、既に顔を蕩けさせている彩音。上気した頬、潤んだ瞳、まるで……『発情』したみたいな、とんでもなく色気のある顔に、俺の視線は吸い寄せられて。
「……うわ……義理のお姉ちゃんと実のおにぃのラブシーンとか見たくなかったな~。っていうか、秀明。今の彩音さん、見ちゃ駄目。完全にえっちな顔だから」
「あぶなっ!! おま、流石にいきなりピースの手で目潰ししようとしてくるな!! 言われたら見ないから!! つうか、せめて掌で目元隠すくらいしろよな!!」
……なんでいるの、茜と秀明。っていうか、正直俺も妹と弟分にこんな所、見られたく無かったわ……




