えくすとら! その二百二十四 ラブ警察、初の検挙事案!
まるで誘うような目で『だめぇ? 本当にだめぇ?』と、少しばかり舌足らずな言葉で俺の服の袖をくいくいと引っ張る桐生に、思わずごくっと喉が鳴り。
「……あいた」
コツン、と桐生の頭を軽く小突く。お前な~?
「……魅力的なお誘いだけど、流石にダメだろ。さっきも言ったけど、流石に北大路に申し訳が無いしな」
本当に魅力的だけど。ほんとーに、魅力的だけど!!
「そんなに気にする必要は無いと思うけど……」
そんな俺の態度に、小突かれた頭に手を置きながら桐生がそう口にする。
「さっきもそんな事言ってたけど……なんで?」
北大路が――まあ、俺も人の事は言えんが、決して女性慣れというか……まあ、女性と二人きりで出かけることに慣れているタイプじゃねーし。いきなり二人きりにされたら流石に気まずいんじゃないか? そう思う俺に、桐生が目の前に人差し指を出してちっちっちと左右に振って見せる。
「甘いわね、東九条君」
「何が甘いの?」
「琴美さん、愛らしい顔立ちをしているでしょう?」
「……それ、どう答えても事故になる質問じゃね?」
桐生の前で他の女の子の容姿を褒めるのは若干抵抗がある。かといって、『そうか?』というのもなんだか西島に失礼な気もするし。
「ふふふ。別に他の女の子の容姿を褒めても怒らないわよ。私だって……まあ、女子高生特有の自惚れを差し引いても容姿的には優れていると思っているわ。でも、それじゃ世界で一番の美少女か、と問われたら『はい』と頷くことは出来ないもの」
「そうか?」
世界一の美少女、とは言わないが……ああ、いや、俺的には世界一の美少女だと思っているけど、それを除いてもイイ線行ってるんじゃないかと思ってるんだが?
「……ばか。贔屓の引き倒しよ。嬉しいけど。コホン、それは良いわ。少なくとも、毒リンゴを食べたお姫様の継母の様に、鏡に問いかける程自分の美貌に自信がある訳では無いの。それを踏まえたうえで……琴美さんは美少女だと思う?」
「……まあ、整った顔立ちはしていると思う」
アイツも自分で『モテる』って言ってたし、そもそも今回の一連の……ハブられ案件だって言ってみれば痴情の縺れだし。そう言えば藤田も告白してたな、西島に。
「よく考えれば殆ど巻き込まれ事故だよな、あいつの場合って」
「……そう言われればそうね。貴方と古川君に……絡んだ、と言えばいいのかしら? あれくらいじゃない、彼女が自分から明確に動いたのって」
「それだって藤田とのつながりがあったからだしな」
「……お祓いでもした方が良いんじゃないかしら、彼女」
……それに関してはまあ、なんとも言えんが。だが、やっぱり巻き込まれ体質な気はせんでもない。なんだ? あいつ、なんかの漫画の主人公かなんかなの?
「ともかく……北大路君だって、健全な男子高校生でしょう? そんな彼が、美少女である琴美さんと二人でデートに行くのが、本当にイヤだと思うかしら?」
「……まあ」
男なんてみんなある程度の下心はあるし。西島が美少女なのは認めるし、そんな美少女と遊べるとなれば……まあ、フリーの北大路なら、有難い話でもあるだろう。
「最初こそは照れくささもあったでしょう。シャイっぽいしね、彼。でも、四人である程度遊んで場慣れすれば、後は二人きりでも問題ないわよ。琴美さんだし」
「それも、まあ」
北大路だって西島の事を嫌いでは無いだろうし、西島も明るいヤツだしな。二人きりにしても気まずい空気が流れているとは考えにくいのは考えにくい。
「でも、それでも何かあるかも知れないだろう? だから、やっぱり帰るのは――」
「無いわね」
「――断言したよ、この子。根拠は」
「ラブ警察ね」
「それ、一番根拠にしちゃダメなやつだ」
一応言っておくけど、俺的にはラブ警察の捜査能力の信用度、低いからな? 冤罪事件なっかり起こしている印象しかないからな?
「まあ、ラブ警察は冗談だけど……そうね、根拠は貴方がさっきから気にしているスマホかしら?」
「これ?」
顔の高さまでスマホを持ち上げて首を捻る。そんな俺に、桐生は鷹揚に頷いて。
「――本当に北大路君がイヤなら、貴方の電話が最初のメッセージなだけな訳が無いじゃない。今頃どんどん電話が掛かってきていると思わない?」
「……確かに」
「でしょ? だから――あら?」
そこまで喋って桐生のスマホから微かに音が聞こえる。その音に、バックの中からスマホを取り出した桐生は。
「……ふふふ。ほらね、東九条君? 心配なかったでしょう?」
こちらに見せて来たスマホの画面に映っていたのは、楽しそうに微笑む西島と、その隣で満更でも無さそうな顔をしている北大路の写真だった。なんだよ、北大路。お前、楽しそうじゃねーか!! そしてラブ警察、今回は仕事した!?




