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えくすとら! その二百二十三 物凄く、いちゃいちゃしたい桐生さん


「さて……何処に行く? 流石にモールから出るのはアウトだよな?」

 ゲームセンターから抜け出して――まあ、一本北大路にメッセージを入れて、『ちょ、待って下さい! 二人はキツイです!!』という返信はフル無視したが――俺らはショッピングモールの中を歩く。っていうか、北大路、大丈夫かな?

「大丈夫よ」

「……さらっと心の中、読まないで貰えますか~?」

 スマホを見ている俺に、桐生が笑いながらそう声を掛けてくる。あれ? 俺、もしかして分かりやすい?

「ええ、分かりやすいわ。さっきからスマホばっかり気にしているし……心配そうな顔もしているしね?」

「エスパー? また心の中を読まれたんだが?」

「エスパーじゃないけど……いえ、もしかしらたそうかも知れないわね。貴方の事は誰よりも見ている自信と自負があるから、ひょっとしたら貴方専用のエスパーかも知れないわね、私は」

「隠し事とか出来そうにないな~、それ」

 桐生の言葉に肩を竦めて見せる。でもまあ、桐生は結構カンが良いところもあるし、そもそもの頭も良いからな。その上で俺の普段の観察――って言うと言葉が悪いかもしれんが、ともかくよく見てくれているんだったら、マジで隠し事なんか出来な――桐生さん?

「なんでジト目?」

「いえ……なに? 貴方、私に隠し事するつもりなの?」

 じとーっと音が付きそうな視線をこちらに向けてくる桐生。いや、隠し事というか……

「……まあ、私は……た、確かに重い方かも知れないけど……な、なんでもかんでもすべてを話す必要があるとは言わないわ。いえ、本当は貴方の事ならなんでも知りたい気持ちもあるんだけど……と、ともかく! そこまで言うつもりは無いのよ? 無いんだけど……」

 一息。


「……浮気は、イヤよ。きっと、泣いちゃう」


「ぶふぅ!? ちょ、桐生!? 何言ってるんだよ、お前!?」

 う、浮気? 浮気なんかする訳ねーだろうが!!

「だ、だって! 男性が――彼氏が彼女にする隠し事なんて浮気以外の何があるのよっ! それじゃなくても貴方の周りには見目麗しい幼馴染とか後輩とか又従姉妹とかがいるんだし……そ、そうなったら私を……」

 目に涙が溜まる桐生。そんな桐生に息を呑み――そして、小さく吐き出して桐生の頭をポンポンと撫でる。

「……浮気なんかする予定も、必要もねーよ。こんなに可愛い彼女が居るのに、余所見なんかするか」

「でも、隠し事って……」

「いや、隠し事っていうか、それ――」

「あ、あれかしら!? し、思春期の男子特有の、そ、その……え、えっ……ええっと! そ、そういう本とか、そういうディー……とかの事かしら!? だ、大丈夫よ!! 東九条君だってお年頃だし!? 私、そういう方面にも理解はある方だから!! で、でも……せ、折角彼女と同棲しているんだし、べ、別にそ、それでは、発散しなくても……わ、私、覚悟は出来て――」

「――うん、桐生? ちょっと黙ろうか?」

 ……マジで何言ってんだ、コイツ。公衆の面前でテンパり過ぎだろう。小声で、人があんまり居ないから良いものの……いや、全然良くは無いんだけども!

「そういう方面でもねーよ。そうじゃなくて……ほら、あるだろう?」

「あ、ある? あるって……な、何が?」

 きょとんとした顔でこちらを見やる桐生に苦笑を浮かべて。


「ほれ。サプライズとか……そういう系」


「…………あ」

「まあ、サプライズが全てとは言わねーけど……でもな? 俺だって桐生に喜んで貰いたい気持ちがあるんだよ。折角ならとっておきのサプライズを用意してさ? 桐生の喜ぶ顔を見たいって言うか……」

 ……まあ、正直、ちょっと自信が無いけど。いや、サプライズをすることにというよりは、サプライズを隠し通すほうのだが。顔に出やすい方だろうし、『桐生、喜んでくれるかな~』とか思ったらきっと、顔と態度にすぐ出るだろう。

「……ばかぁ……」

「今の会話で罵倒になるか?」

「そうじゃないわよ~。そんなの言われたら……嬉しくなるじゃない。顔、戻らなくなっちゃうわ」

 笑顔を浮かべて、それでも必死にその顔を戻そうとぐにぐにと自分の顔を揉んで見せる桐生。なんだか幼子の様なそんな仕草に、少しだけ俺の顔に笑顔が浮かぶ。

「まあ、そんな時は気付かないふりでもしてくれ」

 笑顔のままそう告げる俺に、桐生はいきなり表情を『スン』とした真面目なものに変えて。



「……ごめん、多分無理。東九条君がサプライズを用意してくれるって思ったら私もきっとテンション上がっちゃって冷静でいる自信、ないもん」



「そ、そっか。そんなマジなテンションで言うくらいか……」

 いや、嬉しいんだよ? 嬉しいんだけど……って、桐生さん? 俺の袖をくいくいと引っ張ってどうした? 可愛いんだけど、それ。そんな事を思う俺に、桐生は左右をきょろきょろと見渡した後、つま先立ちでそっと俺の耳元に唇を寄せて。




「――ねえ、やっぱりこのまま家に帰らない? 今私、物凄く貴方と……『いちゃいちゃ』したいのだけど」




「……流石に北大路が可哀想すぎるので却下で」

 いや……正直、物凄く魅力的な提案だけどな。


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