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えくすとら! その二百十三 何でもできる桐生さんでも、出来ないことはある。


 北大路と西島に物凄く冷たい目で見られた俺たちは、そのあまりに気まずい視線に二人して乾いた笑いを見せる。

「あ、あはは」

「う、うふふ」

「……」

「……」

「「……ごめんなさい」」

 桐生と二人、揃って頭を下げる。そんな俺らに、呆れた様に西島がため息を吐く。

「……はぁ。あのですね? お二人が仲良しなのは良い事ですよ? 良い事ですけど、良いですか? これはダブルデートなんです!! お二人だけが良い雰囲気作ってどうするんですか!! っていうか、こっちに少しは気を使って貰えませんかねぇ! この色ボケ夫婦!!」

 がーっと詰め寄る西島にもう一度、頭を下げる。いや、マジですまん。今回のは俺が悪かったから、そんなにおこ――


「……ふ、夫婦……う、うふふ……」


 ――……うん、止めよう、桐生。見ろよ、西島の顔。いや、嬉しいんだよ? 俺と『夫婦』って単語だけでそこまで喜んでくれるのは嬉しいんだけどね?

「……なんなんですか、貴方達。どんな燃料でも燃え上がるって、燃費良すぎません?」

「……それはそう」

 まあ、仕方ない面もあるんだよ? 桐生、人間関係は殆ど赤ちゃんみたいなもんだし、ちょっと仲良しになったらすぐに嬉しくなっちゃう所もあるんだ。あるんだけど……

「……怒られるの前提で話すんだけどよ?」

「……物凄く聞きたくないですけど……なんです?」

「……そういう所も可愛くない? ウチの桐生彩音さん」

「……はぁ。本当にバカップルですね、貴方達」

 呆れた様に――いや、マジで呆れてんだろうけど、そんな表情でため息を吐く西島。い、いやさ? あのクール系の……く、クール系だろ、顔は。そんな桐生が、ちょっとしたことでデレデレになるのは、こう、可愛くないか!?

「……どっちかっていうと恋の矢印、彩音先輩から東九条先輩に向いているかと思ってましたけど……アレですね? きちんと双方向なんですね?」

「……そらそうだろう?」

「……まあ、あの幼馴染ズや、可愛い後輩、綺麗な又従姉妹を袖にして選んだんですもんね。そりゃ、そうもなりますか~」

 どことなく詰まらなそうにそういう西島。そんな西島に、少しだけ気まずそうに北大路が口を開いた。

「そ、その……西島さん? なんや、えらいすまんな……」

「へ? なんで北大路君が謝るの?」

「いや……こないな事に付き合わせて……今日かて折角の休日やのに、俺と……そ、その、で、デートなんて……」

 ちょっとだけ『しゅん』とした表情を見せる北大路。そんな北大路に、きょとんとした顔を見せた後、口元に手を当てて可笑しそうに笑って見せる。

「もう……何言ってるの、北大路君? 別にそんなに気にしないで良いよ? そもそも、私にだってメリットのある提案だったんだし?」

 そう言って手を後ろで組んで、見上げる様に下から北大路の顔を覗き込んだ西島が小悪魔めいた笑顔を見せる。

「……それとも? 北大路君は私との『デート』、全然楽しみじゃなかったのかな? 私、結構楽しみにしてたんだけど?」

「そ、そんなことあらへん! お、俺も……そ、その、緊張はしてんねんけど、楽しみにしてたで! に、西島さんは……そ、その、可愛いし……」

「それはそれで嬉しいケド……可愛い子だったら誰でも良かったの?」

「ちゃ、ちゃうって!」

「じょーだん」

 トンと一歩下がって『にしし』という笑顔を見せる西島。そんな西島に北大路が少しだけ疲れた様な苦笑を浮かべて見せる。

「……堪忍してーな」

「ふふふ! あんまり北大路君が詰まらない事言うからさ? いいじゃん、折角のデートだし! いっぱい楽しもうね?」

「……ああ!」

 笑い合う二人を見ていると、不意に『くいっ』と服の袖が引っ張られる。桐生だ。

「ね、ねえ?」

「どうした?」

「その……あの西島さんの仕草、可愛いと思わない?」

 あー……

「……まあ、悪くはないんじゃないか? 西島のキャラ的な所もあるしな」

 なんつうか……小悪魔系? そんな感じするじゃん、西島って。ちょっと男を揶揄って遊ぶところがあるというか……

「……時に東九条君。昨日の買い物の時も言ったと思うんだけど……私も狙っているのよね」

「なにを?」

「ギャップ」

「……ああ」

 言ってたね、確かに。

「……別に気にしなくて良いぞ? そもそも俺、桐生に飽きるとか無いし」

「……あう。う、嬉しいけど! 今はそういうこと言うの、禁止!!」

「……そうだな」

 西島に怒られるし。

「で、でも! やっぱり私も可愛く見られたいのよ! 東九条君はそう言ってくれるけど、東九条君だってそうでしょう? か、彼女が可愛い方がいいじゃん!」

「……まあ」

 桐生は何時だって可愛いと思うけど……まあ、一理ある。

「だ、だから私もやってみようかなって! ああいう……小悪魔系? みたいな私も見て見たくないかしら?」

 そう言って流し目でこちらに視線を向ける桐生。あー……

「……まあ、見て見たくないことはないけど……」

 興味はあるんだよ、興味は。でもな~。

「……あんまりお前のキャラじゃなくないか、小悪魔系って」

「……それは私が可愛くないって事かしら?」

 さっきまで甘い目で見てた桐生の視線が『きりっ』としたものに変わる。いや、これはちょっと言い方が悪いかも知れんが……

「……なんか、お前は可愛いっていうよりも……綺麗系だろ? ああいう『小悪魔』みたいなのは、西島とかの童顔っていうか……そっちのが似合うと思うんだよな」

「涼子さんとか?」

「そうそう」

「……私と居る時に、他の女の子の話しないで」

「……理不尽過ぎないか?」

 ジト目の桐生にため息を吐く。お前が振って来たんだろう、この話題。

「と、ともかく! たまには良いじゃない!! ちょっとやってみるから、み、見ていなさい!!」

 そういうと、コホンと咳払いを一つ。先程の西島の様に、後ろで手を組んで、俺の顔を下から覗き込むように――


「――って、怖い怖い! 桐生、緊張で表情強張ってるから物凄く怖い!!」


 どっちかっていうと釣り目な桐生が、緊張しているからか若干堅い表情で下から覗き込んでくるの、ものすごく怖いんですが!! なんか『あーん? なんか文句あんのか?』って因縁付けられてるみたいなんですけど!!

「こ、怖いってなによっ!!」

 俺の言葉に憤慨する桐生。そんな桐生に俺は。

「……流石、悪役令嬢」

 苦手な事もあるんだな~、桐生にも。


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