えくすとら! その二百十二 デート当日と、ダブルデートと、ちょっとの嫉妬
いろんな意味で明美が色んなものを失った翌日。俺と桐生は連れだって街の方に繰り出していた。何してるって? デートだよ、デート。
「……なあ」
「なに、東九条君!」
「……何してるの、俺ら?」
デート、って言えたら良かったんだけどな~……ああ、まあデートはデートだよ? デートはデートなんだけど……
「いいじゃない、ダブルデート! ちょっと憧れてたのよね、私!」
ニコニコ顔の桐生に思わずため息が漏れる。そう、今日はダブルデートの日だ。んじゃ相方は誰かって云うとだな。
「す、すみません、浩之さん! 折角の貴重なお休みに、お付き合い頂いて……」
俺らの隣で申し訳無さそうにペコペコ頭を下げる北大路。そんな北大路に『気にすんな』とひらひらと手を振って見せる。
「気にすんな。まあ、分からんでも無いしな」
『女の子と二人っきりのデートなんて初めてなんです! 俺、殆ど男子校みたいなもんですし、何話したらエエか分からんです……』とため息と共に相談されたのは昨晩の事。まあ、経験値の無さは仕方がないとしても、流石に見知らぬ街という超アウェーで、いきなり初対面――まあ、今回の出逢いで初対面だし、初対面みたいなもんだろ? 初対面の女子と二人っきりは、北大路的にはかなりハードルが高いらしい。
『んじゃ、浩之。お前が付いて行ってやれよ。桐生とダブルデート、してくりゃ良いじゃん?』
『……お前でも良くね? その役目』
『俺よりお前の方が北大路と仲、いいだろうし……なにより、琴美ちゃんと有森だぞ? デートになると思うか? 戦場にしかならんぞ、きっと』
『……確かに。それじゃ、秀明は? 仲の良さなら俺より秀明じゃねえか?』
『あー……俺はちょっと厳しいですかね? いや、俺自身は北大路と遊びに行くのはイヤじゃないんですけど……茜が』
『……相性最悪だもんな、北大路と茜』
『それもありますし……浩之さんの前で少しばかり言い難いんですけど……そ、その、茜が明日、凄く楽しみにしてくれていてですね? 『久しぶりに秀明とデート!』ってちょっと浮かれてまして……』
微妙に照れくさそうにそういう秀明に俺と藤田、ほっこり。
『……なもんで、もし仮に明日がダブルデートになったら……茜の機嫌は最高に悪くなるでしょうし、その被害は一手に北大路が被ると言いましょうか……』
真剣な表情の秀明に俺と藤田、げんなり。
『……分かった。それじゃ明日、俺と桐生も着いていくよ』
『ほ、ほんまっすか!! 恩に着ます、浩之さん!!』
『……なあ、俺が言っておいてなんだけど……大丈夫なのか?』
『なにが?』
『いや、桐生の許可とか取らなくてもだよ』
『大丈夫だよ。明日はあいつ、一日暇だって言ってたし――』
「うん! 北大路君、全然気にしないで良いわ! 東九条君からこのお話を聞いて、私、凄い楽しみにしていたんだから!! むしろ悪いわね? 折角のデートに混ぜて貰って!」
はちきれんばかりの笑顔を浮かべる桐生に、もう一度『ありがとうございます』と頭を下げる北大路。そんな桐生をジト目で見つめ。
「おい、ラブ警察」
「分かってるわ。二人の邪魔をしない様に、そっと見守る所存よ」
「……いや、俺が言いたいのはそう言う事じゃなくて」
ラブ警察警視総監殿がアップを始めてしまわれた。藤田は『桐生の許可』とか言ってたけど、いるわけねーよ、許可なんて。桐生からしてみたら、目の前であまずっぺーラブ成分を、堂々と接種出来るチャンスだしな。
「……何よ。いいじゃない。北大路君はきっと初心でしょ? そんな北大路君に琴美さんがどんな反応をするか……お姉さんっぽく対応していたのに、不意に見せる北大路君の男らしい姿にドキッとさせられて……きゃー!」
自身の妄想に興奮した様に――それでも、外である事を考慮してか小声で叫ぶ桐生。そんな姿にため息を吐いて見せると、少しだけ焦ったように桐生が手をわちゃわちゃと振って見せる。
「そ、その! た、楽しんで――はいるんだけど! でも、きちんとサポートするつもりではあるのよっ! でも! 少しくらいはラブ成分を補給しても罰は当たらないんじゃないかしら! 誰も不幸にならない訳だし、別に――」
「そうじゃなくて」
「――もんだい……そうじゃない?」
『はてな』を頭の上に浮かべる桐生。そんな桐生に、俺は右手の人差し指で自分を指差して。
「俺、桐生の彼氏」
「……あぅ」
「……ラブ成分、足りて無いか? 俺とじゃ」
なんか物凄く器のちっさいことを言っている気もせんでもないが……なんだろう? 人の恋愛に此処まで興味津々でラブ成分とか言われると、ちょっとだけ凹むんですが。アレか? 俺、あんまり桐生を満足させてやってねーのかな?
「……そ、その……ごめんなさい」
しゅんとする桐生に、俺は慌ててフォローに入る。
「あ、ああ! いや、そんなに凹まなくても良いぞ。なんつうか……器のちっさい事言ってすまん」
「そ、そうは思わないわよ! そ、その……勿論、東九条君が――浩之が、あ、愛してくれているな~って云うのは良く分かっているの! だ、だから……そ、その……」
きょろきょろと辺りを見回して、トトトと俺の側までやって、つま先を上げて。
「――本当に、満足しているわ。貴方に愛されて、私は……幸せよ」
触れるか触れないかの、耳元への軽い口づけとリップ音を残し、真っ赤な顔で後ずさる桐生。
「ほ、本当に満足しているの! で、でも……それとこれとは別腹と言いましょうか! 彼氏が居ても、少女漫画や恋愛小説を読む感覚と言いましょうか、その実写版、しかもライブ放映と言いましょうか!!」
「……何言ってんだよ、きりゅ――彩音」
あわわ! という擬音が付きそうな彩音に思わず苦笑を浮かべる。うん、俺、やっぱ単純だわ。今のでなんか、充分まんぞ――
「……見た、北大路君? アレが俗にいう『バカップル』というやつよ」
「……うわ……流石に公衆の面前でアレはちょっと恥ずかしい奴やな……」
「ちょっとじゃないよ? だいぶ恥ずかしいよ、アレ」
……いつの間にか待ち合わせ場所に来ていた西島と、こっちを見て『うへぇ』と言いたげな顔を浮かべる北大路の視線から逸らすよう、俺は天を見上げた。は、恥ずかしすぎる……




