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えくすとら! その二百十一 明美ちゃん、一人負け


 西島の『東九条家はなんかおかしい』発言にきょとんとした顔を見せる明美。そんな明美に、西島は驚いた様な視線を向ける。

「いえ、明美さん? なんでそんな『え?』みたいな顔をしているんですか! 冷静に考えて下さいよ! 今の発言、なんかおかしくないですか!?」

「そうですか? 私はやはり慕っている殿方にはきちんと愛を囁いて欲しいですし、出来ればある程度……そうですね? 『独占欲』を持って貰いたいと思っております。『ああ、今日遊びに行くの? 男? 行ってくれば~』なんて言われたら寂しくないですか?」

「そりゃ……まあ、そうですけど……」

 明美の言葉になんとなく納得が行ってない表情を浮かべる西島。が、それも一瞬、西島は視線を北大路に向ける。

「……北大路君はどう思う?」

「……この展開で話フラれても事故にしかならへん気がするんやけど……」

 関わりたくないな~、みたいな顔をしている北大路に関係なしに入るパス。そんなキラーパスを受け取って、北大路は若干引きつった笑顔を見せる。

「……まあ、東九条の皆さんの意見も分かりますよ? ほいでも、流石に俺はそこまでガチガチに縛られんのはちょっと、かな~? 自由に過ごしたい時もあるし……」

「だよね!」

 北大路の言葉に西島が嬉しそうに微笑む。そんな西島と北大路を見やり、明美が小さくため息を吐いて見せる。

「まあ、お二人はまだ『真実の愛』が分からないでしょうから仕方がないですね。いいですか! 真実の愛とは、お互いがお互いを思い合ってこそです! その為には、相手の事を沢山知っていなければなりません!」

 ぐぐぐ! と拳を握ってそういう明美。そんな明美に白けた表情を見せ、こちらも先程の明美同様に、小さくため息を吐いて見せる西島。

「……カレシも居ないのになーにが真実の愛ですか。明美さんがしているのはただの横恋慕でしょう? まあ、別にそれが駄目って言いませんけど……」

「うぐぅ! よ、横恋慕とはなんですか! 良いですか? 勝負はまだ終わっていません! 野球はツーアウトからですし、家に帰るまでが遠足です!!」

「既にゲームセットで観客も選手も家に帰っている状態でしょうに。ま、いいですけど。ともかく! 私たちはもうちょっと『ライト』なお付き合いしよーね、北大路君?」

 明美から視線を切って、にっこり微笑む西島。その西島の表情に、北大路が泡を食った様に顔の前で両手をわちゃわちゃと振って見せる。

「い、いいー!? お、お付き合いって……」

「ん? 明日は一緒にデートでしょ? だから、かーるくライトな感じで楽しもうね? って意味だけど――」

 顔を真っ赤にする北大路を楽しそうに下からのぞき込み、ニヤリとした笑みを浮かべる西島。


「――北大路君がどーしても、って言ってくれるんなら……『そういう』関係でも良いよ?」


 先ほどよりも顔を赤くした北大路が、口元を手で押さえてずさっと後ずさる。そんな北大路を見て『かわいー』なんてキャッキャする西島に明美が疲れた様な顔でこちらに話しかけて来た。

「……私、彼女と合わないかも知れないです。主に、恋愛観で」

「……桐生も似た様な事言ってたな~」

 なんだっけ? 邪教の信者? なんかそんな事言ってた気がする。

「……ですがまあ、西島さんと北大路さんの仲が深まるのは私にとって都合の良い話ですし、彼女の考え方はともかく、尊重はしましょう」

「……よく考えると大概酷い話だよな、今回のこれ」

「別に無理矢理くっつけようとしている訳ではありません。西島さんにも北大路さんにも……そして、私にもメリットのある提案をしたまでです。受け入れる、受け入れないはお互いの意思ですので」

 淡々とそう言い放つ明美。なんとなく冷たい印象を受けそうなものだが……


「……まあ、あの二人が付き合いだしたらあの二人は幸せだろうしね~。あれ? これってもしかしたら明美の一人負けじゃない?」


 ……言うな、智美。俺もちょっと思ってたんだから。

「ひ、一人負けではありません!」

「でも、西島さんの言った通りじゃない? 明美ちゃん、横恋慕してるだけだし……まあ、負けかどうかはともかく『実り』はないよね~」

「あ、貴女だってそうじゃないですか、涼子さん!!」

「まあまあ明美ちゃん? いいじゃないですか。誰かを幸せにするって……恋のキューピッドじゃないですか! いや~流石明美ちゃん! 凄いですね~」

「瑞穂さん!? ちょっと馬鹿にしてるでしょ!! 私のことピエロとか思ってません!?」

 ぎゃんぎゃん煩い明美をしり目に、楽しそうに明日のデートの話をする西島と、困惑しつつもちょっと嬉しそうな北大路に思わずため息が出る。明美、強く生きろ!


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