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えくすとら! その二百九 小悪魔桐生さん

祝! 四百エピソード! 随分書いたな、このお話……あ、4月25日に書籍版の最終巻が出ますので宜しければ応援のほど、よろしくお願いします。


 俺の大声と罵声ともとれる――うん、ごめん、完全に罵声だな。罵声に一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、瞳に涙を溜めだす桐生――って、やばっ!!

「き、桐生!? ご、ごめん!! ち、違うんだ!! お前に言ったわけ――なんだけど! 違くて! 本当に、お前に言いたかったワケじゃ無いんだよ!!」

 今にも零れそうな瞳の桐生の肩を掴む。そんな俺を、桐生は潤んだ瞳で見上げて。


「…………ふぐぅ」


 涙を零した。ちょ、ま、待って!!

「ご、ごめん、桐生!! マジでごめん!!」

「……ふぎゅ……わ、わたし、わ、わるくないのに……ひ、ひがしくじょー君が……お、怒った……ふぎゅ……ふぎゅ……」

「ち、違うんだ! 本当に違うんだって!!」

 さめざめと泣きながら、ふぎゅふぎゅと鳴きだす桐生……う、うん。ちょっと可愛いとか思ってないぞ!?

「……なーかしたー、なーかしたー。せんせーにいってやろー」

「智美!?」

「あによ? ヒロが彩音泣かしたの、事実じゃない。あーあ、彩音、可哀想~。何にも悪い事して無いのにね~? ホラ、彩音? おいで?」

 両手を広げて『おいで~』なんていう智美。そんな智美の言葉に、俺の両手をやんわりと外すと、トテトテと智美の元に歩いて行くと、智美の腕の中にぽふっと収まる桐生。そんな幼児退行した様な桐生に、智美の顔が一瞬、『きりっ』とした顔になった。

「……なんだ、その顔」

「いや……ちょっと幼児退行した彩音が可愛すぎて。顔、作っておかないとダラシナイ顔になりそうだったんで、気合入れた」

「……可愛いもの好きだもんな、お前」

 意外に乙女趣味……ではないが、ぬいぐるみとか子猫とか結構好きだもんな、お前。そら、今の桐生なんて大好物だろうよ。

「と、ともみさん……ひがしくじょー君が……ひがしくじょー君が……」

「おーよしよし。そうだね~。今のはヒロが悪いわね~。ほら、ヒロ! 彩音が可哀想でしょ! ちゃんと謝りなさい!!」

「……一体、誰のせいだと思ってんだとか、そもそもの原因を作ったのはお前らだろうがとか言いたいことは腐るほどあるが」

「言い訳しない!!」

「――腐るほどがあるが……本当にごめん、桐生。その、言い訳する訳じゃないけど、皆が色々言ってたから、その流れというか……お前の声って気付かなかったというか……」

 智美の胸から顔を上げてこちらをじーっと見た後、ぷいっと顔を逸らす桐生。う……胸が痛い。

「そ、その、本当にすまん!! マジでお前に言ったわけじゃなくてだな!! 本当に気付かなかった――」

「そうじゃない」

「――……へ?」

「あ、あの流れなら、い、勢いで言ったのくらいは分かるもん!! 私に言ったわけじゃなくて、誰かも分からない中で言っちゃったのは分かるもん!!」

 え、ええっと……

「……俺に怒られた――というか、怒鳴られたから怒ってる訳じゃないって事か?」

「びっくりはした」

「……ごめん」

「……びっくりはしたけど、別にそれはさっき言った通りだと思ってる。私だって気付かなくて怒ったって事でしょ?」

「それは……うん」

 そんな俺の言葉に、少しだけ寂しそうな表情を浮かべて。


「……私だったら、間違えないもん」


「……」

「私だったら、東九条君――浩之の声、間違えないもん。誰か分からなくて怒るなんてこと、ないもん。だから……その、本当に『あれ? 私に怒ったのかな?』ってびっくりしたんだもん……」

 拗ねた様にそう言ってチラチラとこちらを見る桐生――彩音。そんな彩音に、特大な罪悪感を覚えて、俺は彩音に心持優し気な顔と声音で口を開く。

「……彩音」

「……なに?」

「その……ごめん。そうだな? 彩音の言う通りだな。彩音の声、間違えたらダメだよな?」

「……寂しいもん。もう好きじゃないって言われてるみたいだもん」

「そんな事はねーよ。その……一番大事で、大好きなのは彩音だよ」

「……ホント?」

「ああ。ホントで、ホンネだ。だから、その……許してくれないか? もう、お前の声を間違える事なんかしないから」

「……嘘ばっかり」

「嘘じゃねーよ」

「嘘だもん! 浩之はきっと、私の声をまた忘れるもん!!」

 そう言って智美の胸から顔を上げ、俺のそばまでトテトテと歩み寄る彩音。何時になく聞き分けの悪い彩音に、これは幼児退行モードが継続しているのかと思っていると、鼻と鼻がくっつくくらいの距離まで来た彩音はその顔を右にずらして、俺の左耳で、囁くように。



「――だから……私の声を忘れる事の無いよう、毎日あなたの耳元で『愛』を囁いてあげるわ。貴方がイヤって言ってもね?」



 とんっと、俺の胸を押して一歩の距離を取り、妖艶に微笑んでみせる彩音。あー……

「……マジで演技派だよね、お前。女優にでもなるつもりか?」

「あら? 私の第一志望は貴方のお嫁さんよ? それに……言っておくけど、本当にショックだったんだからね?」

「う……す、すまん」

「ううん、許してあげない。許して欲しいんだったら」



 ――貴方も、私に愛を囁いてね?



「……」

 先ほどとは逆、右耳にそう言ってはにかむ彩音。あー、あー、あー、もう!!

「……可愛すぎかよ、お前」

「ふふふ。そう思うなら、毎日お願いね?」

 そう言って笑いながら、彩音は今日一番の笑顔を見せた。



「……あの、ちょっと良いですか?」

「なに、明美?」

「彩音様と浩之さんが所かまわず、誰が居ようと関係なく二人の世界を作るのは今更なんで良いんですが……彩音様の発想、ちょっとヤバくないですか? なんですか、『私は貴方の声を聴き間違えない』って」

「あー、ですね~。明美ちゃんの言う通りですね~。彩音先輩、流石に発想がちょっと怖いって言うか……こう、愛が重いっていうか……なんだっけ、理沙? ほら、愛が重すぎて、こう……なんちゃらデレってやつ」

「ヤンデレのこと?」

「あー、それそれ! ヤンデレになりそうな気がしますもんね~」

「うーん……彩音ちゃんがそこまでするとは……まあ、愛が重いのは愛が重いとは思うけど……」

「でもさ、涼子? 彩音、今はヒロと二人暮らしな訳じゃん? やろうと思えば軟禁、監禁なんでもありじゃない? っていうか、彩音んちお金持ちだし、マジで出来そうだね~。ヒロ養うぐらい余裕だし……っていうか、前に言ってなかったっけ? なんか座敷牢みたいな暮らしをして貰うって!!」

「あー!! なんかあったね、そんな事!! え? 彩音ちゃん、アレ本気だったんだ!?」


 ……お前らな? ちょっといい雰囲気なんだから、少し黙っていろ下さい。

 


なんか最近、幼児退行する話ばっかり書いてる気がする……

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