4巻発売記念! なろう特典SS『恋人っぽいこと、しよ?』
本日、第四巻発売です!! 毎回恒例、田舎者で特典付き書店様が近場に無い疎陀がお送りします。全国一億人の田舎在住の方、お待たせ致しました!w 『なろう』だけの特典SSです!! 時間軸は四巻の明美さん登場前、恋人っぽい事をしようとしている桐生さんになります。楽しんでいただければ!!
「……東九条君」
晩御飯も食べてゆっくりしている俺の元に桐生の声が響く。相変わらず――というとあれだが、俺の気の抜けた格好とは一線を画した、『部屋着なのにオシャレ』な桐生がソファに寝転がる俺を見下ろしたままそんな声を掛けてきた。
「どうした?」
起き上がりながら答える俺に少しだけもじもじした態度を取った後、桐生は後ろ手に隠していた何かを取り出す。
「……お菓子?」
差し出したそれはお菓子。1が四つ並ぶ日がこのお菓子の日ってくらい、皆知ってる国民的チョコレート菓子を差し出す桐生。ええっと……
「食べようって事か? コーヒーでも入れようか?」
桐生お手製晩御飯でお腹自体はそこそこ良いも、まあこれぐらいの菓子が食えない訳じゃないし。そんな俺に桐生は目の前でわちゃわちゃとお菓子の箱を振って見せる。
「そ、そうじゃないの! あ、いや、そ、そうなんだけど……そ、その、こ、恋人っぽい事しようって言ったじゃない?」
「言ったな」
「だ、だから……そ、その……」
手に持った箱をサイドテーブルに置いた後、桐生はポケットからスマホを取り出すと少しだけ慌てた様に何かを検索しだす。待つこと数秒、目当ての画像を見つけた桐生はそのままその画像をこちらに見せつける。
「なんだ? なんか俺に見せた――っぶ!!」
顔を真っ赤に染めてそっぽを向く桐生がこちらに見せてくる画像はアレだ。合コンとかで定番といえば定番だろう、一つのお菓子を両方から食べていく、例のあのゲームの画像である。いや、桐生さん? これ、なに?
「……まさかと思うが……お前、これ、やろうって言うんじゃねーだろうな?」
じとーっとした目を桐生に向ける。そんな俺の視線に居た堪れなくなったのか、桐生がチラチラこちらを見ながら口を開く。
「こ、恋人っぽい事、しよって言ったじゃない! そ、そう思ってたらや、山根さんが!」
「いや、むしろこれは恋人っぽい事って言うよりも、どっちかというとパリピな大学生とかがしてそうというか、逆に恋人関係からある意味最も遠いというか……」
っていうか。
「……山根さん? 誰?」
「居たでしょ? ほら、こないだの女バスとの試合で。私、同じクラスなのよ」
「……居たっけ?」
正直、顔と名前が一致するのは部長ぐらいなんだが。
「そ、その……あの女バスとの練習試合からちょっと話かけてくれるのよ、山根さん。最近では毎日『おはよう』と『バイバイ』は欠かさないし……先日はお弁当もご一緒したわ」
少しだけ照れくさそうにしながら、それでも嬉しそうにそういう桐生。そっか。
「……良かったじゃん、友達出来て」
「と、友達!? ち、違うわよ!!」
物凄くびっくりした顔で両手をわちゃわちゃと振って見せる。あ、あれ?
「あれ? 違うの?」
「ち、違うわよ! 山根さんとはその……クラスメイトというだけで……」
「……山根さん、嫌いなのか?」
俺の言葉になんとも言えない表情を浮かべる桐生。
「そうじゃないわよ。そうじゃないけど……迷惑じゃないかしら? 私が山根さんの友達名乗ったら」
「迷惑って……」
「私、悪評が轟いているでしょ? そんな私がその……親し気に話したりしたら、山根さんにもその……害が」
「……青鬼かなんかなの、桐生って」
いや、言っている事は理解できないでも無いんだが……
「向こうから喋りかけてきたんだろ? それじゃそんな事、気にするなよ」
「気にするなって……」
「大丈夫。涼子や智美にも出来たんだし、お前なら出来るよ」
ポンポンと桐生の頭を撫でると擽ったそうな、それでいて嬉しそうな顔を浮かべる桐生。まあ友達はともかく、こうやって交友関係を少しずつ増やしていけば良いよ。
「それで? その山根さんがなんて?」
「その……ちょっと山根さんとお話する機会があったのよ。その中でその……こ、恋人っぽい事って何かなって話に……」
「……」
「『なに!? 桐生さん、気になる人とか居るの!? それじゃコレ! コレしてみなよ!! 絶対、意中の人もドキドキするって! 桐生さん、美人だし!! 東九条もイチコロだよっ!』って……」
「……言葉のチョイスが昭和」
イチコロって。つうか、その前に。
「その……なんだ? お前、言ったの?」
「なにが?」
「いや……その……」
……あー……頬が熱い。
「その……い、意中のっていうか……その、な、なんというか……相手が、その……俺、って」
「……? ……っ!! い、言ってないわよ! そ、その……ちゃ、ちゃんと言ったから! 『東九条君とはいいお友達よ』って! で、でも……や、山根さん、か、勘違い……でも、ないかも……と、ともかく! ぜ、全然信じてくれてなくて!」
「……そうなの?」
「そ、そうよ! そうなんだけど……『『ひ、東九条君!? ひ……い、いいお友達……お友達……よ……』なんて悔しさと悲しさが同居したような顔で言われても……』って……」
ああ、桐生に問題があるパターンね。
「『そもそも、練習試合でもこないだの試合でも衆人環視の中でいちゃいちゃしてたらアホでも気付くよ。むしろ付き合って無かったのが意外』って言われたわ」
「……違った」
二人とも問題があるパターンね、うん。一人頷く俺に、桐生が少しばかりじとーっとした目を向けて見せる。
「……なに?」
「いえ……私から言った事よ? 待つとも、偽物の恋人になりましょうとも。恋人っぽい事して、少しずつ関係性を前に進めたいって」
「……」
「でも……やっぱり、東九条君の事を『いいお友達』って言うのは、その……ちょっと辛いと言いますか……焦らせるつもりも、文句を言うつもりも毛頭ないのですが……その辺りの私の微妙な乙女心を斟酌してくださると嬉しい所存です」
「所存ですか」
「所存です」
そこまで喋り、桐生が苦笑を浮かべて見せる。
「……なんてね。さっきも言ったけど、本当に急かすつもりは無いのよ? そもそも焦って結論を出して後悔される、なんていうのも嫌だし」
「……桐生」
「だから……まあ、そんなに気にしないで。それより! 今日はまだ『あれ』してないでしょ?」
視線をソファに向けて物欲しそうな上目遣いをする桐生。その姿がなんだか可愛らしくて、俺はソファに胡坐をかいて心持深めに座る。
「どうぞ、お姫様」
「はい、お邪魔します」
俺の膝の上にぴょんと飛び乗ると頭を俺の胸にくっつけて『むふー』と息を吐いて、桐生がお菓子の袋を開ける。
「……これぐらいは、良いでしょ?」
こてんと首だけ上に向けてお菓子を俺の口に持ってきて。
「はい、あーん」
俺に食べさせようとしている癖に、自分も口を開けて『あーん』として見せるその姿が、なんだか無性に可愛らしい。
「……子供かよ、俺は」
照れ隠しも込めて差し出されたお菓子にかじりつくと、桐生が嬉しそうに笑う。
「高校生なんて子供です。ほら、もう一本。はい、あーん」
「……なんか餌付けされてる気分」
「あら。それは良いわね? こうやって餌付けしてたら、東九条君は私から離れられなくなるんじゃないかしら? その方向性で行きましょうか?」
「流石に恥ずかしいぞ、それは」
もう一度嬉しそうに笑い、桐生は俺の口にお菓子を運ぶ。そのお菓子を口で受け取って、俺はそのままチョコレートでコーティングされてない方を手で持つと、そのまま桐生の口元に突きつける。
「……え?」
「俺だけ餌付けされるのもイヤだしな。ほれ、桐生? 『あーん』」
瞬間、ポン、と桐生の頬が真っ赤に染まる。
「そ、そそそそそれ! そ、それ、ひ、東九条君が、そ、その……く、口に付けた……」
「……ああ。汚いか?」
「き、汚い訳ないでしょ! で、でも……そ、その……う、うううう……!」
俺の膝の上でイヤイヤと首を左右に振って見せる。それでも数秒、意を決した様に俺の手元のお菓子に、桐生が口を付ける。
「…………ん」
「……」
「……いつもより……甘い、気がする……」
「……そうかい」
「ええ、本当に美味しかった。もう一本、食べたいくらい」
「……今度は普通にな?」
「そうね。いつもより美味しい気はしたけど……やっぱり恥ずかしいし」
頬を真っ赤に染めたままそう言って自身の唇を舐め、それでもにっこり笑う桐生。艶っぽいその表情に、俺は慌てて顔を逸らす。
「だ、だろ? だからお前、軽々とあんなゲームしようとすんなよ? 良いか? そ、その……あのゲームしたら、これ以上に恥ずかしい事に――」
言いかける俺の唇に、人差し指を当てて。
「私――恥ずかしいとは言ったけど、『イヤ』とは言ってないよ?」
悪戯っ子の様な顔を浮かべて。
「今すぐとは言わないけど……いつかは、ね?」
そう言って、桐生は綺麗な笑顔を見せてくれた。
「あ!」
「……今度はなんだ」
「そう言えば、山根さんに言われたのよ! 他のゲームもあるって!」
「……他のゲーム? 嫌な予感しかしないんだが……」
「こ、今度は大丈夫! 身体的な接触も無いし、危険も無いの! 私から行くわよ?」
「……やるの?」
「勿論! これで貴方との仲が深められるんですもの! それじゃ行くわよ! ええっと、貴方の目を見つめて……あ……あ、ああああああああ……あ、あい……愛し……うううううう!!!」
「……一遍、山根さんと話させて貰えね? 桐生に変な事、教えるなって」
いや、マジで注意させて貰えない? ウチの子、こう見えて結構素直だからさ?
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